第3話 頭に血が上る

 沸々と不満が溜まっていった。

 それでも、この程度では性格の不一致とは認められないと言われている。決定的な何かが起こればいいのに。

 そもそも私は上から目線の人間が大嫌い。既に不一致確定じゃないかな。


 将来王子妃になるのだから、理想の女性、貴族女性の見本になるように言いつけられた。

 これでは人の目がある間、心が休まる時がない。

 生まれた時からこの状態でいなければならない王族に、思わず同情してしまうほどにしんどい。


 将来王子を支えるのだから、二人で支えあえるように、時には諫めるようにとも言われている。

 けれど、見本のような表面的な会話しかしていないので、お互いの性格もわからない。

 その状態で、どうやって支えるのか疑問だった。


 いつも同じ笑顔にしか見えず、何を考えているのかさっぱりわからない。

 相手も同じ様に考えているのでは? と思っている。

 それとも、自分が立太子する為に必要な婚約だから、私の人間性や二人の仲の良さなどはどうでもいいのだろうか。

 それってまた揉め事の火種になると思うのは私だけ?


 家族は皆私の意見に賛成してくれ、父は陛下にこの件の改善を求めに行ってくれたが、結局何も変わらなかった。

 王妃に会った時に嫌味を言われただけだった。


 ただ、王妃から殿下の好きなもの、興味のあるもの、趣味等が事細かく書かれた鈍器かと思うほど分厚い紙束を渡された。

 丸暗記するように言われれ、定期的にテストされるし、最新情報に更新されたりもする。

 以前は何が好きで、今は何が好きかとかを問われる。どうでもええわ!


 私は聞かれていないけれど、私の資料も作成されていたりするのだろうか。

 ちょっとさすがに気持ち悪くないですか。私の資料は作成されているのかを家族に確認した。

 私の資料はおそらく存在しない。私だけが殿下の事を情報だけ知っていても、仲良くなれる気はしない。

 いや、お互いに情報だけ知っていてもそれだけだと思う。


 学院ではそれぞれ交遊関係を広げるようにと言われ、私は令嬢、彼は令息との時間を多く取るように決められた。まぁ、これはそれなりに楽しめた。

 けれどそのうち、殿下が伯爵令嬢と親しくしていると頻繁に聞くようになった。

 令嬢と親しくするのは私の役目だし、王家から渡された親しくするべき令嬢一覧にもない人だった。


 殿下と二人でお茶をする時に、諫めるべきだとも言われていたので、話題に出した。


「クルトル伯爵令嬢と随分親しくされているようですね」


「ああ。彼女は様々なことに見識が深くて、とても興味深いんだよ。エルも親しくしてみるといいよ」


 それは私には許されていない。リスト以外の令嬢と親しくならないように何度も言われていたし、何度か注意もされている。

 知らないのだろうか? まさかね。むしろ、今私は試されているのかな。周囲の圧から考えてもそんな感じ。


「いえ。彼女は第二王子派ですし、家格的にも王家に影響はないかと思われます」


 彼は思い切り顔をしかめた。初めて笑顔以外の表情を見た。


「家格とか、そういうことは関係ないと思うんだけど」


 試されているのではなかったようだ。ただ、それ以前の問題だと思います。

 婚約者がいるのに、噂になるほど一緒に女性といることそのものが間違いだと思う。

 やはり試されているのだろうか。王家の真意がまるでわからない。

 後でごちゃごちゃ言われない為に、言うべきことは言っておこう。


「ですが、噂になっていますよ」


「私の交遊関係にまで、口を出さないでくれるかな」


 衝撃的だった。私は交遊関係を大幅に制限されている。

 反抗的な部分も見抜かれていて、何だったらちょくちょく見張られてもいる。

 王家に仲間入りするのだから、殿下の為にも守るべき決まりだと言われていたが、生まれつき王家であれば関係ないのだとすると、とても理不尽だと感じた。


 今までは同じ境遇なのだと思っていたし、殿下は産まれた時からこの境遇だったのだから、私は勝手に同情して少しは頑張らなくてはと思っていたのだが、そうでは無かったようだ。


 私が驚いている間に、彼は機嫌を損ねて退席していった。


「そういう考え方には心底がっかりだよ」

 と捨て台詞を吐いて。頭に血が上るという意味を、身をもって知った瞬間だった。

 お前の頭の中身にもがっかりだよ!


 っていうか、誰のせいで私がここにいると思っているんだ!


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