猫かぶり令嬢の婚約
相澤
第1話 王子の婚約者になってしまった
残念無念ではあるけれど、第一王子の婚約者になってしまった。
第一王子と第二王子は絶賛王位継承権争い中。私は権力闘争に参加していない両親の娘で、私自身も権力に興味は無かった。
何故私なのかと父に聞いた。
「中立派から婚約者を選んで、私たちに仲介させるつもりらしい」
「こんなに激化しているのに?」
「陛下からだけではなく、同じ中立派にも強く望まれてしまって逃げ場を無くされてしまってね。エルには迷惑をかける」
これ以上激化して国にいいことは無いとわかっているなら、争っている人たちで何とかしろよと思った。
落ち込んでいる父の為にも言葉にはしなかったが、切実に巻き込まないで欲しいとは思った。
元々、陛下が同じ様な家格から正妃と側妃を選んだのが問題だった。
順番に王子を出産したが、今は側妃の実家に勢いがあり、第一王子の立場が危うくなっている。
そこで中立派で家格や財政状況の良い私が選ばれた、らしい。
当時同級生としてそれなりに陛下と関りがあった父は、後々の事を考えて側妃の人選を改める様に進言したが、陛下は聞き入れなかった。
陛下は正妃は正妃として相応しい人柄で尊敬しているけれど、女性としては側妃が好きだとかふざけた事を抜かしたらしい。
我が家が王家から距離を置き、中立派となった切っ掛けでもある。父以外にも数家が王家から距離を置いた。
父の進言を聞き入れなかった癖に、今になって助けを求める陛下にも反吐が出る。しかも強引。王命だった。
婚姻に関する王命は、政治的に必要不可欠と判断された時に下される。
他国が関係しているとかならまだわかるが、内輪揉めの解決でするようなものでは無いと思う。
失礼ながら陛下はアホだと思う。周囲にいる大人たちは、国を好きに動かせるから好都合なのだろう。
大人しくしているならって条件で、側妃が認められたのだという噂が出る程、政治に関わっていないらしい。
陛下の過ちを何故私が尻拭いしなければならないのか、本当に疑問。
せいぜいそれを許した大人同士で仲良く尻拭いをして欲しい。
っていうか、第一王子を王太子にしたいと陛下が思っているのなら、さっさと第二王子に臣籍降下先を見つければいいだけの話。
私が婚約者になれば、余計に話が拗れるんじゃない?
「第一王子と私の婚約を結ぶより、そっちが先じゃない?」
「あー、陛下は決めかねている。ふざけた話だけれど、どちらの息子も可愛いから悩んでいるんだって」
父。
「おい。いい加減にしろよ」
「同意はするけど本音過ぎ」
母よ、失礼した。父も苦笑い。
「とにかく、決まってしまったからには、エルの幸せの為に出来る事をしようと思う」
「そうねぇ、さっさと片付いて、婚約が解消されるのが一番かしら」
母の言葉に父はまた苦笑い。
母の言い方からすると、殿下は碌でもない奴なのでしょうか。
父は仕方なく婚約を結ぶことにはなったが、二人の性格の不一致が認められれば穏便かつ速やかに婚約を解消できるようにはしてくれていた。
「今まで距離を置いていたから、正確な王家の内情を知る所からだな」
「そうね」
両親は情報収集の為に、再び王家に近付いてくれるみたい。頼りにしてますよ。
噂では第一王子は優しく聡明、第二王子は視野が広く聡明と、王子の悪い噂なんて流れて来ない。
両親はそれはないだろうと以前から言っていた。公式の場で猫をかぶっていたとしても、態度や話した内容でわかる事もある。
そんなこんなでまずは陛下と王妃様に挨拶に行くことになった。
気のせいで無ければ、王妃様は私にかなり不満そう。私も不満です。今すぐ婚約解消してくれていいんですよ?
父は大人同士の話があるからとそのまま残り、私は婚約者となった第一王子殿下に会うことになった。
猫を最大限にかぶります。
「エルテルアーナ嬢、これからよろしく頼むよ」
「こちらこそよろしくお願いします」
最初だし、一応笑顔で。
「私は王妃に母と同じ様に、強く聡明な女性を望んでいる。これからは勉学に励んでくれ」
顔は笑顔のままだけれど、今すぐこいつを殴りたいなと思った。
まず、私はちゃんと勉強している。
あんたの父親に無理矢理婚約者にされたんです。お前の要望を言うくらいなら、まず私に詫びろや。
せめて自分たちが不甲斐ない為に迷惑をかけるが、協力してくれないかくらい言えや。
後、今の状況をわかっていないようだから、まずお前が勉学に励め。言いたい事を飲み込んでから。
「そうですか……」
曖昧な返事にしておいた。
お前の為に頑張る気持ちが、毛ほども湧きませんでしたよと。
庭の案内は丁寧だったが、理想の王妃像を母親を例に上げながら語られた。マジで殴っていいかな?
「エル、イェルク殿下に実際に会ってみてどうだった?」
「自分たちで出来ない派閥の調整を私たちに押し付けた癖に、上から目線だった。後、多分きっとマザコン」
「アホなのか……?」
父。
「その可能性を感じるね? 扱いは丁寧だったけれど、元来の性質なのか、ただのアホなのかは一度話をしただけでは分からないかな」
父は渋い顔をしていた。
格好良い渋さでは無くて、本気の渋い顔。久し振りに見たな。本性が出ている感じで結構好き。
「後、自分の実家のせいで私たちを巻き込んだ癖に、あの王妃の感じはどういう事?」
「ああ、息子を溺愛しているらしい。おそらく誰が婚約者になってもああいう感じだっただろう」
「だったら息子と結婚しなおせ」
「それは無理よ、エルちゃん。馬鹿息子にだって選ぶ権利があるわ」
母は王妃が嫌いである。
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