魔王様だって愚痴りたい

野中りお

第1話

「よぉ、魔王」

「勇者よ…」

「お前も懲りないねぇ」

「もう……わしこの仕事辞めたいわ」

「落ち着けって。話は聞くからさ。マスター、いつもの魔王に頼むわ」

「すまんな。こんなに話聞いてくれる勇者お前だけだよ」

「俺もびっくりしたわ。魔王とこんな気が合うなんて。じゃ、乾杯」

「乾杯。くぅ~、この一杯のためにわし頑張ってる」

「で?今回はどうしたんだよ」

「いやぁ、今回来た勇者なんだけど、すっごいの」

「なにが?」

「言葉遣いっていうか、仲間に対してのあたりが強いっていうか」

「あぁ、お前そういうの嫌いだもんな」

「なんかヒーラー?であってる?怪我なおしてくれるお姉ちゃんに対してさ、早く回復させろ!とか指示出してさ。お前怪我なおしてもらってるのにそんな言い方で言いわけ?ありがとうが先だろって思ってさ~」

「確かになぁ」

「だから、移動魔法で勇者だけ飛ばしちゃったんだけど…ちょっと大人げなかったかなって反省しとる」

「他のメンバーは?」

「そのまま返すわけにもいかないし、魔王城の近くの村で遊んでから帰りなって伝えた」

「俺もここに来るまで魔王城の近くの村がこんなにいい所だって思わなかったよ。飯はうまいし、魔族は良いやつばっかだし。なんで人間と敵対してるのかマジ不思議」

「魔王って名乗るだけで人間俺の事嫌うからしかたない…」

「こんないかついおっさんが、ちっちぇ事で悩んでるなんて思いもしないだろうな」

「ちっちゃいっていうな」

「その後、回復ねぇちゃんは?」

「…ありがとうって言ってくれた」

「良かったじゃん。これでまた、国に帰らなくて魔王に殺されたって勘違いして他の勇者が来るぜ?」

「はぁ、終わりがなさ過ぎて…わし、いつ勇者が来てもいいように24時間体制ぞ?過労で倒れるわ」

「部下に頼めばいいじゃん」

「そんなブラックな事させられるわけないでしょ。皆にも家族がいるんだから。」

「魔王様の悩みはつきないねぇ」

「あ。電話。」

「呼び出し?」

「はぁぁぁ、また勇者が来たよ。じゃぁわし行くわ」

「おー、がんばれよ」

「えっと支払いは…」

「いいよ!これは俺のおごり!」

「そういうわけにはいかない。俺も給料はもらってるんだから」

「いいから!また次飲むときにおごってよ」

「そう?すまんな勇者。じゃぁご馳走様」

「頑張ってこいよ」

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