第42話 本命


「そろそろ起きて。」

明日香がゾンの耳を引っ張る。


「貴様、旦那を何処にやった!」

「自分の心配よりイチローの心配をするのね‥。」

「当たり前だ!旦那は私の命に変えて守る!!」


ゾンが殺気を飛ばす。


「悪くない答えだけど、冷静さが足りないわ。だからエルフに騙させるのね‥」


「エルフなんてここにはいないはず‥。」


「みんな騙されてるわ。イリスはハーフエルフではなくて、ハイエルフよ。」

「そんなバカな!私は付き合いが長いんだぞ。」


「あなたも暗示にかかってるわよ。出会った頃は警戒してたはずだろうけど長い間少しずつ時間をかけて‥。」


「まさか、旦那のことも?」


「それは暗示ではないわ、安心して。ベタ惚れだから」


明日香が微笑む。


「良かった‥」


ゾンが涙流して喜ぶ。


「こ、これがギャップなの!?これはこれで破壊力あるわね。まぁ、とりあえず暗示は解くから気持ちを楽にして。」


明日香はゾンの暗示を解く。


「あなたは長い時間かけられてるから負担が大きいわ。まずはゆっくり休んで。」


明日香に言われてゾンは目を閉じるのであった。

さて、ラストはあの女ね。



「起きてるのはわかってるわ。狸寝入りなんてダサいまねするのはやめて。」


するとイリスが悔しそうに目をあける。


「あなたは何ものなんですか?」

「私は妖怪の総大将。まぁ、リーダーかしら。」


明日香が薄い胸を張る。


「リーダー‥」


イリスが驚いた顔をする。


「雪花とは格が違うから。こっちの世界では雪花強いでしょ?でも私に比べたら赤児に等しいわ。言ってる意味わかるかしら?」


イリスが魔法を唱えようとする。


「発動しない!」


驚愕の表情を浮かべる。


「あなたは私を怒らせたわ。雪花やゾンに暗示はかけるは‥。イチローの心を壊しそうになるは‥。」


明日香が静かに怒っている。


「イチローのことはどう思ってるの?」

「人間何て最悪です、エルフをペットとして扱うし‥。エルフも王位争いで親子、兄弟で殺し合う。誰も信じられない‥。もう何百年も騙され続けてきた‥。なのにあの男は私を信じようとする。あの女はその男を心から信じていた‥。だから壊してやろうと思った。」


「そんなくだらない理由で2人に八つ当たりしたのね?」

「だってムカつくじゃない!私が何百年も探してきたものを簡単に手に入れて‥。」


「もうそろそろいいかしら‥。たかだか数百年で絶望するなんて‥。私は数千年いろいろなものを見てきたわ。貴女が見たものよりもっと酷いものを‥。とりあえず貴女には死んでもらうわ‥。その後、永遠の誓いを解いて、地獄におちてもらおうかしら‥。みんなが貴女を忘れるよう記憶も消しておくわ。では、さよなら。」


明日香が小刀を抜き、イリスの急所を目掛けて飛び込む。


イリスは目を閉じていたが、一向に刺された痛みがこない。


恐る恐る目を開けると、イリスの目の前にはイチローの姿があった。




深い眠りについていた。

何の音もしない静かな場所だった。

不意にイリスの泣き声が聞こえた気がした。物凄い嫌な予感がする。


体を動かそうとするが、全く動かない。


なかなか起きれないのに痺れをきらしたので、唯一動いた唇を思いっきり噛んだ。


すると痛みと血の味で体を動かせるようになった。まだ目が半分しか開かないが、目の前で明日香がイリスを刺そうとしている光景が飛び込んできた。


反射的に体が動く、地球で死ぬ直前と同じ感覚で‥。


手に人を刺した感触がする、嫌な感触だ。血が目に入ることを嫌い、一瞬目を閉じてしまう‥。目を開くと綺麗なハイエルフの代わりに男の姿が目に入る。


ふと視線をあげると、最愛の男の顔が飛び込んでくる。


「何であなたがそこにいるの?何で私は貴方を刺してるの?」

「大丈夫、誰も悪くないから‥」


イチローが明日香の頬をさする。思わず刀から手を離してイチローの手を握る。


どうしてこうなった。


イリスを始末すれば後はみんなで幸せになれたのに‥。


どこで私は間違えた‥。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る