第19話 おめでとう
ギルドに入ると、賑やかだった周りがしんと静まり返った。たしかに俺はスーツ姿、雪花は着物姿だけど、さすがに2回目だかはそこまで注目したくてもいいのに。
すると受付嬢の1人が、拍手をしながら「おめでとう!」と言ってくる。それがキッカケで他の人たちも同じように拍手をしながら、おめでとうを言ってくる。
何だろう、エ○ァのワンシーンのようで不気味だ。いかつい冒険者も同じことをしてくる。何で不気味に感じるのかな。
わかった、みんな真顔なんだよ。ぎこちない笑顔だし。これはやらされてる感があるような気がする。上司に無理やりやらされてる感が‥。
「お前さんが、私の可愛い部下を寝取った男かい?」ダークエルフの女性が近づいてくる。
物凄くキャラが濃いい。
ダークエルフで、露出の多い服、ナイスバディ、眼帯、煙管のようなものを咥えてる。胸が大きい、服からこぼれ落ちそうだ。
「寝取ったつもりはないですが、妻にはしました。」相手の目を見ながら答えた、あー恥ずかしい。
「変な男に騙されたかと思ったが、なかなか良い男じゃないか。聴いた話だと後ろの子とも結婚してるんだろ?だったら私もどうだい?」そう言いながら抱きついてきた。ちょっと胸を押し付けないで、柔らかい‥。いい匂いもしてきた‥。
「旦那様から離れて下さい!」雪花が俺を引き寄せる。
あぶねー、数秒遅かったら、うんって言ってたよ。
「あー、怖い。そんなに怒るなよ。1割は冗談なんだから。」ダークエルフが笑いながら俺から離れる。9割は本気ですか!?
目が笑ってないから怖いよ、目がマジだよ。
「さて、冗談はここまでにして、ちょっと話があるから、こっちにきてもらおうか?」
異世界テンプレだと、この人あれだよね?
「すみません、きっとギルドの偉い方だと思いますが、どなたでしょうか?」
「すまん、すまん。紹介が遅れたな。私はこのギルドの長をやっているゾンというものだ。今後ともよろしくな?未来の旦那様。」
顔をくしゃくしゃにして笑った。
案内された部屋に入ると、ゾンさんとカレンとニーナがいた。
「良かった、ニーナさん無事だったんだね、心配してたんだよ。」
するとニーナの目から涙がボロボロとこぼれ落ちる。
どうしようかとあたふたしていると、他の女性陣から、何とかしろよ的な目をされる。ゾンさんはアゴで示してきた。
わかりました、何となく嫌な予感するけど今回は仕方がない。
俺はニーナさんに近づくと優しく抱きしめる。
ニーナさんは一瞬ビックリしたようだが、抱きしめ返してくれた。それから数分泣き続けた。
ニーナさんが落ち着いてたので、各々椅子やソファーに座って話をはじめた。
「みなさん、すみませんでした。いろいろな事があって気が動転していたのに、イチロー様の顔をみたら、安心したのか涙が止まらなくなってしまいました。」
「しょうがないよ、家族のこととかいろいろあったのに、また今回のような事が起きたんだから‥。それで、結局どうなったんですか?」
「それは、私から話しますね。」カレンさんが説明を始める。
「イチロー様から連絡があって、すぐに本国に連絡を入れて、暗部を動かせました。」本国?暗部?はなしの腰を折るからツッコミはしないけど、物騒なキーワードが出てくる。
「以前は獣人狩りなどが行われていたようですが、今は禁止になっています。しかもその生き残りを騙して奴隷にするするなど、あってはいけません!!」
カレンさんが興奮して、机を叩く。
「まぁまぁ、落ち着いて。話を続けてくれる?」
「すみません、イチロー様。興奮してしまいました。では、続けます。まず親戚という者を捉えて、全ての情報を吐かせました。」
「えっ?今朝捕まえたんじゃなくて、昨日のうちに捕まえたの?」
「もちろんです。そうでないと組織を壊滅させたことをイチロー様に報告出来ませんので。」ふんという顔つきで答える。
この人、何を言ってるのかなぁ?俺は助けてとは言ったけど、組織を壊滅させろなんて言ってないよ。怖いんですけど‥。まぁ、ちょっとドヤ顔なのが可愛いけど。
「壊滅させたの?」ちょっと引き気味に聞いてみる。
「はい、もちろん。この国の騎士団にも協力してもらって、裏で手を引いていた貴族、協力した組織、実行部隊など、一匹も逃していません。全員数日中に処刑されます。」
凄いよ、カレンさん。この人が主人公で良くない?全然スローライフじゃないよ。
後でカレンさんと今後について真剣に話し合いをしておこう。
「ど、どちらにしても悪い人達がいなくなって良かったよ。全員処刑というのはやり過ぎな気がするけど‥」
「いえ、悪の芽は詰んでおかないと、みんなが平和に暮らせません!!」カレンさんが拳を握る。
もうこの人ヒーローだよ。
「ごめん、俺が口を出すことでなかったね。ちなみにギルドも協力してくれたんですか?」
「すまない、今回はギルドは全く協力はしていない。情けないが証拠もないのに動けるような組織ではない。そもそも捜査権もないしな。」そう言うとゾンさんは自重気味に笑った。悔しそうな顔をしてる。
「そんな顔しないで下さい。たとえ手柄は騎士団のものになるのでしょうが、裏であなたが手を回してくれたりして協力してくれたのは、分かりますから。」
するとゾンさんの目が見開き、驚きの表情でこちらを見た。
フォローしたつもりだけど、失敗したかな?
「イチロー!ダークエルフについて、どう思う?」
「正直に答えても?」
「お前の本心が聞きたい。教えてくれ?」
ゾンさんが真剣な顔をしているので、本心を伝える。
「大好物です。エルフ自体好きです。ゾンさんは、色っぽくて、綺麗ですし、何より優しい。」
「お前、この世界のダークエルフの評価を知ってるか?同じエルフなのに色が黒いだけで迫害される。肌の色だけじゃない、片目も戦でなくした、体も傷だらけ。お前がやたら見てくる胸も、エルフの世界では、大きいと虐められる。そんな私をお前は綺麗だと言うのか?」
最後の言葉のあと、ゾンさんの瞳から涙が溢れ落ちた。
言い方が悪かったかな。怒らせるつもりはなかったのに‥。よし、ここまできたら腹をくくろう。
「俺は、この国のこと、この世界のことをよく知りませんが、肌が黒いだの、片目だとか、傷があるとか全然気にしません。逆に俺の価値観だとゾンさんは、本心で綺麗だと思います。カレンさん、俺が本気で言ってるのか、わかりますよね?」
「私が確認するまでもないと思いますが‥。イチローさんは、本心で言ってます。私が保証します。」カレンさんが俺の手を握りながら答えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます