魔物参上
爽快に道なき道をフルスピードでユキが駆ける。
「きゃはは。たのし〜」
「だえ〜」
ユキの頭の上に乗り楽しそうにはしゃぐオハギとギン。
私以外はみんな楽しそうにしてる。
ロワーの街を出てからぶっ通し1時間以上走り続けるユキとうどん。楽しいのはいいけど、ずっとフルスピードで走るのやめて! これ、本気のスピードじゃん!
「ユキちゃん、もう少しスピード落としていいから!」
急がないといけないのは分かっている。分かっているんだけど……草の生い茂った場所を走るってことは、それは仮面に虫が当たるつてことだ。このいつ来るか分からないコンの単発音やコンコンと豆を蒔いたような音がする度につらい。
オハギなんかもっと速く走ってとユキに催促している。多分、伝わっていないと思うけど、やめて。
少しして、ユキのスピードが落ちる。
「村じゃん」
村……というか小さな集落に辿り着いた。マルゲリータからもらった地図だと目的地を確認。
バッタ発生源場所の近くには名も無い村があるらしいけど、いくらなんでも到着が早すぎる。それに聞いていた村の規模とは違うし、辺りには冒険者の姿も見当たらない。
ユキから降り、コカトリスの仮面を取り虫チェック。
「げぇぇ。大量じゃん」
予想通り、仮面には移動中に潰してきた原っぱ虫がたくさんついていた。これが全部顔に当たっていたと思うとゾッとする。
仮面と服についた虫を払い、ストレッチをして不思議水を飲む。ユキとうどんにもゴクゴクと不思議水を飲む。
「喉乾いてたんじゃん。途中でちゃんと止まってよ」
「キャウン」
うどんは元気に返事するが、ユキは横目でチラッと見るだけ。森と違って障害物がない草原で全力で走るのは気持ちよかったんだろう。
「せめて、休憩は挟んで」
「ヴュー」
分かってくれたん? なんだか、面倒そうに返事返されたけど。
集落に入ると5軒ほどの木造の家が建っていた。どれもずいぶん古そうだしボロボロだ。
「ってか、これ誰も住んでないじゃん。マルゲリータが言ってた場所はここじゃなさそう」
「ここ臭いの!」
オハギが鼻を触りながら言う。妖精にも臭覚があんの? ユキとうどんは平気そうだけど。
「カエデ、早くここを出るだえ〜」
ギンもこの場所を嫌がるので、再び仮面をかぶりユキに跨がると急いで出発した。
ユキの猛スピードの甲斐があって、午後5時、辺りが暗くなり始めた頃に村が見えた。
「今度はちゃんと人がいそう」
村には明かりがところどころ灯っているのが肉眼でも見える。スピードを落としながら近づけば、冒険者やロワーの街の私兵だろう人たちが見えた。
こちらに気づいた冒険者たちに手を振った途端、大声で声を上げ指笛を鳴らし始めた。
「魔物が出たぞー」
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