サダコの部屋

「少し散らかっておりますが、どうぞ」

「いや普通に物、めっちゃ多いじゃん!」


 通されたサダコの家は散らかっているというよりは、とにかく物が多い。リビングにあるテーブルや椅子は当たり前だが、床にまで色んな物が置いてある。ユキとうどんを外で待機させていて良かった。


「痛っ」


 玄関先に置いてあった壺で脛を打つ。

 普通に脛が痛いし。壺の中には真っ黒な……土? これは何かを植えてんの? 


(ギンちゃん、これ何か分かる?)

「土だえ~」

「うん……土だね。ギンちゃんありがとう」


 ギンを撫でていると私が打つかってもビクともしなかった壺をサダコが苦も無く抱え部屋の端へと運ぶ。サダコにもしっかりとホブゴブリンの馬鹿力が遺伝してんじゃん。


「父が土壌の検査用の土を入れた壺をあちこちに置いているから気を付けてと言い忘れていたわ」

「別にそれはいいけど、どこに座ればいいん?」


 リビングは座る場所はおろか歩く場所もない。これでよく家に招待できたね。サダコをジト目で見るとやや焦りながら、歩くスペースを確保するために床の物を移動し始める。


「わ、私の部屋へどうぞ」


 案内されたサダコの部屋はリビングとは違い、整理された綺麗な空間だった。壁には無数の虫や動物に植物の絵標本が飾ってあり、ベッドの横の壁には大小の様々な剣が壁掛けされていた。


「お茶をお持ちしますね。そちらの椅子に座っていて下さい」

 

 サダコがお茶を取りに退室すると、壁にある見たことのない鶏と蛇のキメラ動物の絵の標本が目に入る。キメラ動物の絵の横に書いてある説明文を読む。


【コカトリス】

キイロイ羽毛に包マレタ頭がニワトリ、竜のツバサ、ヘビの尾がトクチョウのマモノ。

草食でドウモウ。シセンとトイキに猛毒。マイマイ草を好む。ダンジョンにセイソク。


 何この恐ろしい魔物。獰猛で毒ってこんなの見たことないんだけど。しかも、ダンジョンに生息って……ここじゃん!


「羽だえ~。ギンも羽~」

「待って待って! ギンちゃんは別に羽がなくても十分可愛いよ」


 なぜか踏ん張り始めたギンを止める。キノコから羽を生やすのはいいんだけど、ほら……元がGだからキノコの御身体にその羽が生えるのは勘弁してほしいじゃん。


「ムギチャです。どうぞ」


 お茶を持って戻ってきたサダコに絵標本を指差しながら尋ねる。


「このダンジョン、こんな恐ろしい魔物いるん?」

「安心してください。コカトリスは下層部にしか生えない主食のマイマイ草を好み、その付近にのみに生息します」


 コカトリスの隣にあるマイマイ草の絵標本を見ると猫草のようなどこにでもある植物の絵があった。


「普通の草じゃん!」

「違います! ここをよく見てください。マイマイ草は先が若干黄色く曲がっているでしょ」


 うーん。言われればそうかもしれないけど、ぱっと見は猫草にしか見えない。こんなのその辺に生えていても一瞬でマイマイ草なのか判断できない。


「やっぱただの草じゃん」

「違います」



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