呼び出し

 昨日は、宿に戻った後、剣の講習から帰ってきた双子と自炊しようとしたが…忙しいと宿の厨房を貸してもらえず…肉と野菜を焼いた炒め物とパンを食堂で食べた。ビールは三つイジケがぶ飲みした。

 そういえば、結局醤油は手に入れていない。翌朝、朝一番に市場に向かう。


「ショーユか? 瓶で銅貨一枚だ。またよろしくな」


 醤油は、朝の市場ですぐ見つかった。500mlで銅貨一枚。日本の相場から考え得ると、千円って割高だけど…買えるだけ嬉しい。森の生活で、醤油は随分前の切れた。久しぶりのこの香り。ペロリと味見をする。知っている醤油だ。最高!

 味噌は…見つからなかった。市場の色んなところで聞き込みをしたが…


「あ? そんなゲテモノ売ってねぇよ」

「アンタ、若いのに可哀想にね」

「今から出してあげるぜ」


 と…朝から市場の人にスカトロ好き扱いされた。醤油あんのになんで味噌がないん? おかしくね? これ以上、うんち大好きっ子扱いされたくないので、市場での聞き込みをやめる。醤油あるだけ得したと思って宿に戻る。


「「おかえり、カエデ」」

「ただいまー」


 双子は本日、剣の講習はない。剣の講習が終わるまで双子はギルドに通う。その間、依頼に行く時間はない。一人でも冒険者の依頼に行きたいけど….双子に一緒に初依頼に行きたいと悲しい顔をされるので…二人が依頼に行けるまで待つことにする。双子に懐かれていて辛い。

 昼時なので、宿の食堂に行く。この町に来てからこの食堂には何回か来ている。驚くことにメニューは日替わりだ。今日のオススメのミルクシチューのパイを頼む。

 双子に剣の成果を聞く。


「剣の講習はどう?」

「ガークさんの顔は怖いけど…いっぱい教えてもらってる」

「私たち、筋があるって」


 ガークが指導しているのか。あの人、色々してるんだね。


「エミリアさんは、ちょっと怖いかな」

「そうなの?」


 どうやら、エミリアが鞭でガークが飴のようだ。飴って顔じゃないけどね…


「ミラ、ミロ。人生で大切な事を教えるね」

「「なに?」」

「人はね。顔じゃないよ…心だからね。ガークは…顔面凶器だけど、それなりにいい人だから…たぶん。でも一番重要なのは…お金だから。金が全てだから。正直あの顔面も金があれば——」


 ガシッと後ろから頭を掴まれる。ガークだ。彼もお昼はここ? 


「お前は…子供に、なにを教えてんだ!」

「こんにちは!」

「『こんにちは』じゃねぇよ。探したぞ」


 ガークから子供に変な事教えるなと怒られる。いやいや、本当のことだから! 探したって言われても…普通に、朝起きて市場に出かけただけだし!


「はぁ…それよりも、賞金首の査定の結果が出た」

「数日かかると言ってたのに、早かったですね」

「今回は大物の親族だからな。フェルナンド様からも早急にと仰せつかっている」


 ガークは、飯を食ったらギルドに来いと食堂を後にした。


「お待たせー」


 ミルクシチューパイと酒の代わりに頼んだ麦茶がテーブルに置かれる。

 シチュー表面のパイ部分にスプーンを突っ込んで中身を食べる。ミルクの優しい味だ。これは、胃に美味しい味。双子も熱そうにシチューパイを口に入れる。

 美味い美味い。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る