-再びの金曜日、マコトと「死せる思考」(1)-

 相模原の山中に分校などない




「チキンレースねえ……」


 今日日、そんなこと考える莫迦ばかいるんだ……頭痛がしてマコトはあまりよく眠れなかった。

 それもあるが昨晩はユウナと連絡が取れていない。金曜の朝、ベッドでうとうとしていると時計は六時を指していた。仕方なく起き上ると相変わらず外は雨だ。明日も雨だろう。

 階下に降りていくとすっかり朝食の準備が終わっており、母に座るようマコトはうながされた。


「朝食に間に合うなんて珍しいじゃない、マコト。勉強ははかどっているの?」


「うん、ぼちぼち」


「食べたらさっさと制服に着替えなさいよ、お母さん今日は送っていけないから気を付けて学校へ行くのよ?」


 マコトが自室でネクタイをめていると、メフィストがにゅっと顔を床から出した。


「着替え終わったかね?」


「待っていたのかい?」


「そりゃあね……」


 マコトはスポーツバッグを背負うとガレージに出た。


「行ってきまーす」


 そうしてカブのエンジンをかけて発進させた。

 カブは緑の中を走り続ける。

 後部座席には質量しつりょうの無いメフィストが鎮座ちんざしていたが、マコトは気にしてなかった。


「なあマコト君、結局のところ死は必要なものである。人が許し合う為にも」


「また謎掛かい? ぼくは鳥の王をゆるす気はないけどな」


「もっと大きなスパンでの話だよ? もしも、死が我等の改変であるならば、それはまた忘却の長い期間でもあろう。そして再び生まれ変わる時、我等はまた、かつて自分が誰であったかを知るのだ」


「その問いに関してのぼくの答えは、常にぼくはぼくで無限のぼくのつながりであると考えるけど?」


「なるほど」


「ただその可能性も面白いかも知れないとは思うけれど」


 そうしてしばらく無言になって二人は走り続けた。

 するとしばらくして見覚えのあるバイクに猛スピードで追い抜かれたのだ。


「あれは卜部うらべ君じゃないのかね?」


「やっぱり!」


「あんなに飛ばして遅刻かい?」


「まさか? ぼくは間に合うように家を出ているよ!」


「ともかく駐輪場に急ごう!」


 大慌てでマコトが学校の駐輪場にカブを着けると既にタケシのFZX750が停めてあった。

 さすが七半、堂々たる大きさだ。


「よくもこんなキチガイバイクを、でかすぎる」


「タケシのバイクは学校で一番でかいからなあ」


 メフィストは見えないのを良いことにたわむれにバイクにまたがっていた。


「わたしでぴったりだぞ!」


「いいからふざけないで」


「ふざけてるのは武井、おまえだろ? 何独りごと言って騒いでるんだ? 早く校舎に入れ」


 生活指導の教諭に早速マコトは注意されることとなった。


 校舎に入ったマコトは教室でユウナを探すことになった。

 いつもなら彼女からぼくに挨拶してくるのに……昨日は連絡すらなかっった。

 どうしたのだろう? 替わりに電話口に居たのはあの鳥の王なのだったから。


 遂に担任の教諭が入ってきた。

 アキヒコとタケシはいるのに……

 出席を教諭が取りはじめると遂に『た』のところでこう言った。

「田中ユウナ、今日は風邪のため欠席との連絡が保護者から来ている」

 急に教室がざわつき始めた。

 クラスには15人ほどしか生徒はいないのだが。

 そして昼休みまではあっという間だった、マコトがしゃべる相手は最早アキヒコしかいなかったし、そのアキヒコも勉強にいそしんでおり、おいそれと声を掛けられなかった。


 マコトは昼休み、大勢の中の孤独よりもひとりっきりの孤独を選ぶために、屋上へ続く階段へわざわざ行って昼食を食べた。

 

「マコト……先ほどの話だがね」

 

 不意にメフィストフェレスが現れた。

 こいつは授業中どこへ消えているのだろう?


「赦す、許さないの話?」


 食後のマコトはぶっきらぼうに答えた。


「死んでも赦さないよ、鳥の王も、タケシも」


「それはユウナのため? 自分のため?」


「………………………………」


「人間は結局自分のために他人を死んでも赦さないから、大きな戦争を起こしたり何か過ちをしたりするんだよ、歴史が証明している。大なり、小なり」


「自分のために鳥の王を死んでも赦さなくて何が悪いのさ?」


「それがそもそも過ちの原因だと、悪魔は言っている、そして自分は死ぬ前も自分で変わってないといった。だがね、人間は変われるんだい方へとそして本当は何者であるかをる」


「ぼくは百もそれを承知だ、メフィスト。説教は止めてくれ、知っていて破滅の方をえらぼうとしている! 本当のことを識っているさ、憎むべきじゃないとも、変われるとも、でももう引き返せないんだよ!」


 そう言うとマコトは大粒の涙を流して階段を走って下って行ってしまった。

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