第4話 空を駆ける
僕たちはアステリアから避難して半年が過ぎた。流石にお母様もお父様の事が心配のようだ。
「あれから半年....一週間に一度の連絡はあれど戦争が終わる気配はなさそうね」
お母様がため息まじりに話す。この世界では魔法によって自動書記のようなアイテムが手紙を書いて連絡を取り合う、この屋敷にも一つあり大体朝にそのアイテムが動きだす。母はそれが動くのを今か今かと早起きして待つのだった。
「メリア様お心お察しします」
「ありがとう、セバス」
執事のセバスさんから紅茶をもらうと一口口に含みまたため息をはいた。
「ダ~ア~」
「あら?ジーニも慰めてくれるの?ありがとう」
僕もお母様を慰めようとお母様の膝の上へと移動した。シリカさんとララさんも心配そうに見ているのだがこればかりは戦争の終わりを待つしかないだろう。
それからしばらく僕たちはお母様と過ごした。アステリアの人達の所で遊んだりしたのだがこないだのローズさんと来た時のようにイノシシや熊の話が出てきて僕はてへぺろ顔をお母様に見せるのだった。だってみんなに美味しいもの食べてほしいんだもんもん。
噂ではアステリアの人達の中にAランク冒険者が紛れているとか言われて少し迷惑をかけてしまっている。ごめんちゃい。ジーニは自分が狩っているという事を隠しきれていると思っているがそんなことはない。アステリアの人達はジーニに優しい視線を送っているのだった。
そんな日々から幾日すぎた朝・・・・
「アステリアが制圧されました....ツヴァイ様は捕まったようです」
「何ですって!」
母は涙を流して僕を抱きしめました。シリカさんも泣いてしまいセバスは言葉をなくしています。伝令を持ってきた兵士が家からでると入れ替わるようにロクーデ伯爵が入ってきた。
「これはこれは残念なお知らせでございますな....」
ロクーデ伯爵はトコトコと歩き母の前までやってきた。そして更に話始める。
「メリア、どうじゃ?私の妾にならんか?」
「!?、何を言っているのですかこんな時に!」
母は激昂してロクーデ伯爵を睨みつける。しかしロクーデ伯爵はそれに負けずに話し続けた。
「メリアよ、よく考えなさい、今やツヴァイ殿は敵国に落ちたのです。あなたを守る者はいなくなってしまったのですよ。金銭も無限ではないでしょう」
「......」
母は黙ってしまった。俯き僕を見たりシリカさんを見たり落ち着かない様子だった。
僕は少し嫌な予感がしてお母様を見つめる。そしてお母様の口が開いた。
「....その話、お受け」
「ダ~メ~!!」
母は僕を守るためにロクーデ伯爵に落ちようとしていた。でも僕はどんな状況になろうと母を守ると決めたのだ、こんな男に母を渡すわけにはいかない、何よりも父に申し訳が立たない。
「この出来損ないが! 何がダメじゃ。それならばお前を奴隷に落として金を作るか?」
「!?‥‥お金ならばまだあります....今までありがとうございました、お引き取りください」
「くっ、あとで泣きついて来ても遅いからな」
ロクーデ伯爵は捨てセリフを吐き屋敷から出ていった。
「ん、シリカちょっときて」
ララさんがシリカさんを連れて奥の部屋に入っていった。母はソファーに座り頭を抱えている。
「メリア様こういう時こそ落ち着いてください」
セバスがそう言って紅茶を入れる。母はお茶を受け取って一口含んでセバスに「ありがとう」と伝えた。
「ジーニもありがとうね。今は私がアステリア家の当主。しっかりしなくちゃね」
母はガッツポーズをして微笑む。その顔には元気がなかった。
「それは本当なの!?」
僕の耳には確かに聞こえたその声はシリカさんの物だった。ララさんに引っ張られて奥の部屋に入っていった二人はひそひそと話していた。だが驚愕の話をきいたシリカさんは思わず叫んでしまったのだ。
「そう、アステリアが落ちたのはロクーデの手引き」
扉に耳を押し当てて僕は聞き耳を立てる。そんな声が聞こえて僕は体が熱くなるのを感じた、これは怒りの感情だろう。
そんな話を聞いた日から毎日ロクーデ伯爵が屋敷にやってきては母と話をさせろとセバスをせめたがセバスは断固としてそれを阻止してくれた。
ロクーデがアステリアの弱点を敵軍に教えたという情報はセバスには伝えた。そしてララさんは諜報員としてロクーデの屋敷にメイドとして忍びこんだ。猫耳をつけて...ロクーデは獣人が好きなようで猫耳をつけただけで採用が決まったとか何とか、薄い本のような展開にならなければいいけれども....てへっ。
そして更に時は流れ。
「メリア様、ツヴァイ様を解放するという手紙が!」
セバスが珍しく取り乱して手紙を母に渡す。母はすぐに手紙を見ると手で口を押え涙した、その力をなくした手から手紙を零れ落ちる。
落ちた手紙を僕は高速で近づき覗くと解放の条件が最悪の物だった。僕は歯噛みして打ち震える。
落ちた手紙をシリカさんが拾い読み上げた。
「アステリア・ツヴァイを解放する条件を伝える。そんな・・・・王都の献上」
シリカさんは力が抜けるように座る。セバスは目頭に手を当てて上を向いている。今いるこの王都を無条件降伏しろという内容だ、これは英雄と言われたお父様と引き換えとはいえ王は首を縦には振らないだろう。そりゃそうだよ、民全員の命とお父様の命じゃ流石に釣り合わないよ。
事実上の死刑を言われたような内容の条件に打ちひしがれていると奴が来た。
「これはこれはどうされたのですかな」
ロクーデが屋敷に入ってきて話す。すぐにセバスが引き留めるが力づくで近づきながら話し続けた。
「ツヴァイ殿の解放条件を見たのでしょう?そうなのでしょう、王は王都を放棄することは絶対しませんよ」
ロクーデは何故か条件を知っていた。セバスもシリカも歯をかみしめてロクーデを睨む。母は俯いて聞いているのか聞いていないのか無反応。
「私が王でも王都を無条件降伏するわけないでしょ!?前にも言ったはずですあなたに屈するのならば死を選びます」
「!?、そうですか。ではツヴァイ殿がせめて痛みのない死を」
「ツヴァイは死にません!!!」
ロクーデの言葉に母は叫んで否定した。僕は何て非力なんだ・・・・。
その日の夜。僕は裏口から静かに屋敷から出ていく。
僕はこの数日で更にステータスをあげていた。
アステリア・ジーニ
LV 1
HP 5 [3000倍(秘匿)15000]
MP 3 [3000倍(秘匿)9000]
STR6 [3000倍(秘匿)18000]
VIT5 [3000倍(秘匿)15000]
DEX7 [3000倍(秘匿)21000]
AGI5 [3000倍(秘匿)15000]
INT4 [3000倍(秘匿)12000]
MND3 [3000倍(秘匿)9000]
スキル [神眼(秘匿)][超早熟][超大器晩成][匍匐の達人][格闘の基礎][空中散歩]
称号 [小さくても力持ち][ハイハイ世界記録][一歳で熊を仕留めた][一歳で世界最強]
称号のおかげで僕に勝てる人はいなくなったのはわかった。元々そこいらの人じゃ僕に勝てないのはわかってたんだけど父ツヴァイが負けたという事はそれ以上の使い手がいた・・・それか人質かな。
スキル[空中散歩]は名前の通り空中を歩くことができるようになりました。スキルとは言っていますが実はステータスによるところが大きい、魔法を使うマナとは空気と同じくらい軽いそのマナを多く持っている僕は重力を少し軽くできる、その為本気を出すとマナの膜を張り浮くことができるんだ。飛行術を手に入れちゃった。僕って天才だよね。
という事で僕は空に浮かぼうとする。
「ジーニ坊ちゃま」
「ダ?」
シリカさんに見つかってしまった。シリカさんはすぐに僕を抱きかかえた。
「・・・・ジーニ坊ちゃまはとても勇敢です。ですがまだ1歳なのですよ」
「ダ~ダ」
シリカさんは僕が何をしようとしているのかを感じて抱きしめたまま行かないでほしいと懇願して離さない。でも僕はシリカさんを引き離して宙に舞う。
「・・・そうですよね。ジーニ坊ちゃまはツヴァイ様のお子。英雄の子ですものね」
シリカさんが僕が宙に舞うと一瞬驚いた顔をしてすぐに笑顔になった。
「行ってらっしゃいませ。ツヴァイ様をお救いください」
「アイ!」
僕はシリカさんに手を振って夜空を駆ける。今日は新月、夜に紛れよう。
僕はアステリアに向かって空を走っている。通常馬車で二日、歩きで五日の道を僕は一時間で走破した。本来地上を歩いた場合は森の中を通らなくちゃいけないが空を走れる僕は一直線にいけるのでかなりのショートカットを可能としている。それにしても一時間でついてしまうとは思っていなかった。これはいい誤算だ。
「ダ~ブ~」
神眼によって父がいる場所と体の具合を調べた。父ツヴァイは両足を傷つけられていた。たぶん父の能力を嫌ったんだろう。
この世界では平民が貴族の座を得るには類いまれない力を持つしかない。それは金か文字通りの力かだ。
そして父は力を持っていた。[天翔けるツヴァイ]そう呼ばれていた父はまさに天を駆けるように戦場は駆け抜け敵将を狩りとっていた。
街を占領していた国はアドスバーンというらしい。旗印に龍と矛が描かれていた。
その軍は元の僕たちの屋敷で父を監禁している。
「ダ~ブ~」
地の利は我にあり~。まあそれが無くても簡単に事は進むんだけどね。だってハイハイだと図らずも隠密行動になっちゃうからね。
僕はアステリアに潜入していくんだけどちょっと陽動をかけようかな。
ドドドドドドド!
「なんだ!どうした?」
「敵の砲撃だと思いますがわかりません、色々な方向から飛んできています...」
アステリアの城門の前で爆発が起こる。もちろんこれも僕がやっています。色々な方向から魔法を起動させて爆発させているだけなのだがそれだけでも十分兵士達を屋敷から遠ざける事が出来る。
「ダ~ア~」
「ん、・・・・私はとうとう幻覚まで見えるようになってしまったのか、ジーニが見えるなんて」
ジーニが地下室に入ると無精ひげを生やした父ツヴァイが鎖につながれてそう呟いていた。足から滴る血がツヴァイの足元を血だまりにしていて痛そうだった。
「ダ~」
僕はすぐにツヴァイに[ヒール]を唱えた。初級魔法は本で学んだので大体使える、ただ。
「な!、古傷まで・・・・」
魔力値が強くなってから使っていなかったので僕も驚いた。父はジーニの魔法で欠損も治るだろうと驚いている。それからすぐツヴァイを自由にすると後ろから声がかけられた。
「ほほ~強い魔力を感じると思ったらツヴァイが逃げようとしているよ」
「そうだね。僕たちから逃げられるわけないのにね」
二つの声がして後ろを振り向くと同じ顔をした黒い服の少年が扉の前に立っていた。双子と思われる二人は不敵に笑う。
「ジーニ、すぐに逃げるんだお前だけでも」
ツヴァイが素手で構える。と二人の少年は剣を構えた。その剣を見て父ツヴァイは苦虫を噛み潰したような顔で睨みつける。
父の愛剣、ツインディア。父はあの剣と共に成長し出世した。体の一部を取られたような感覚にツヴァイは苦しんでいる。
「他の仲間は何処だい?」
「赤ん坊を残して隠れているのかな?」
扉の前を陣取りそう話す双子。ジーニが一人できたことを知らない双子はそう話していたが知っていたとしてもそう考えるだろう。まさか乳飲み子かもしれないほどの赤ん坊がこんな戦場に来ているのだから。
「兄さん赤ん坊は囮かもしれないよ」
「しかし、人質で生きているのはこいつしかいないぞ」
兄の指摘に「そうか」と頷く弟が俯いた。そう赤ん坊をおいていく意味も囮に使う意味もないのだ。それは僕も知っている。父以外の人質は死んでいるという事も...。
「何を悠長に構えてやがる!くらいやがれ[ソニックナックル]」
ツヴァイから放たれた拳圧が双子を襲った。拳圧をツインディアを交差させて防ぐと双子は不敵に笑う。
「ははは、悠長に構えられるわけだからしょうがないじゃないか。ツインディアを持っていないお前なんて僕たちの敵じゃないのさ」
「そうだよ。僕たちは単純に強いんだからね」
ツヴァイは悔しそうな顔で睨みつける。英雄と言われたお父様でも武器を取られると勝てないのか。
「ダ~ダ~」
「ジーニ・・・」
お父様は少し諦めたような視線をジーニに向けた。ツヴァイを慰めるように足をさする僕は双子を見据えると魔法を唱えた。
「バイボ~」
「「何!!」」
双子は後方に飛びのいた。屋敷を貫く光がジーニから放たれた。驚愕の顔をしている双子のいた辺りはまあるく焼けこげる。そして双子はすぐに臨戦態勢に入ったが時すでに遅し。
「ああ~、僕の腕が・・・」
「うう、いつの間に」
ツインディアを持っていた手が切断されていた。双子は苦悶の顔をうかべる。
ジーニは後方に飛んだ双子を確認してツインディアを取り返そうと高速で動いた。ツインディアを握っていた手が強かったせいでもぎ取ろうと思っていなかったがもぎ取ってしまったジーニは少し申し訳ない気持ちになった。でも自業自得だよね?。
「あの赤ん坊は何なんだ!」
「ツヴァイの子供なのか・・・しかし加護のない子供のくせに魔法とあの身体能力はどういう事だ」
苦悶の顔でピアスやジーニの異常を話している双子は逃げようとする。ジーニは追おうとしないでツヴァイに奪い返したツインディアを手渡した。
「ジーニ・・・今の魔法はライトではないのか?」
「ばぶ」
初級魔法の[ライト]本来ならば照らすだけの魔法なのだが魔力量が多いいジーニが使うと実態を持ってしまいレーザーのように物を焼き切ることができるのだ。
「しかしここからどうやって逃げるんだ?」
「ばぶ」
「え?」
ツヴァイは困惑の顔を向ける。
僕は自分の背中を指さして声を上げた。その事でまさか赤ん坊におぶさるという発想のなかったツヴァイは首を傾げたのだ。
しばらく沈黙したあとツヴァイは気付いたのか恥ずかしながらジーニの背中におぶさる。ちょっとカッコ悪い絵になってしまったが仕方ない。大丈夫だ二人ともイケメンなのだから・・・・自分で言って恥ずかしい。
「飛べるのか・・・」
さっきの魔法で開いた穴を通って宙に舞っていくジーニとツヴァイ。弓矢が射かけられたがツヴァイが迎撃して何ともなかった。
その後は何事もなく一時間かけてツヴァイを王都に届け、無事奪還した。
相当早く飛んだのだがお父様は振り落とされずに踏ん張っていた。でも顔は蒼白でかっこ悪いよ父ちゃん。
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