16 水の反映
あじさいの花が子どもたちの長靴を眺めている。寺の入口に咲きほこった青と紫の花々は夕方の光線の中では色を濃くしている。何がそれほどに恥ずかしいのか、それに答えられないほど紅潮した花はもはや黒々している。
子どもたちはまっすぐ歩いていった。
歩行者用信号の青色が点滅している。土瀝青の表面を濡らす水は色を反映する。青が赤に変わる。その色のままじっとしている。黒い土瀝青が赤く染まる。
やがて車のライト路面を撫でて、凹凸を白く輝かせる。赤色が消え、そして戻って来る。車の後が赤い。車はブレーキを踏んだらしい。音がする。タイヤが路面にこすれる音。にぶい音。静寂。ざわめき。
自動車用信号が黄色に変わった。交差点が黒と黄に染まっていく。車は赤色を灯しつづけている。背後だけが交差点の中で赤い。赤さは何かを示している。止まり切れなかった車から人が降りてくる。きれいに磨き上げられた革靴に路面の彩りがさらに反映する。赤、一歩ごとに、黒と黄、変わる、赤、しかし、黒と黄、青は映らない。
人々の中心には物があった。あじさいの花が子どもの長ぐつを眺めている。
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