鼓膜騒音

砂利道をまっすぐに行く。

真っ直ぐかどうかは定かではないが、足が勝手に前に進む。

ただひたすらそれに全身をついて行かせるだけだ。

あの遠くに見える小さい子は、何をしているのか、意識がおぼつかないままだが、少し近づいてみた。

5、6歳だろうか、薄汚い男とも女とも判別できないその子は、座り込み石を積んでいた。

靴も履かずに何をしているんだろう。

意識が少し鮮明になってきた。

よく見るとそんな様子の子どもが辺りに無数にいる。


こんなに沢山の子どもがいるのに彼らは共に何かすることはなく、何故か皆、一人で石を積んで遊んでいる。

顔を見るとなんだかよく見えない、意識もまだはっきりしないし目が霞んでいる。

ただ、そんなに面白くなさそうな遊びだと言うことは分かる。

はしゃいでいる様子の子どもは居ない。



歩いても歩いてもなかなか着かない。

目的地は分からないが、必ず私を待つ所があるように感じる。

暑さも寒さも無い。

快適な気温だが、靴が解けかかっている。

だが、結い直す事はせず歩き続ける。

自分がいつから歩いてるか忘れてしまった。

いや、忘れてしまったか知らないだけなのか、それも分からない。



子どもたちがいた場所をとうに過ぎ去り、面白い景色もない。

また歩くしかやることがなくなった。



そう言えば、お金がないと不安で仕方なかった、そんな時もあった。

お金というものが全てを支配し、お金が無いとやりたい事が何もできなかった。



今持っているものといえば、何もない。

服を着ている、靴を履いている。

ただそれだけだ、当然お金なんて持っていない。

なのになぜだろう、不安も何も無い。

そのことを不安に思わなければならないという概念も無い。

それほどにここには何も無いのだ。



仕事はどうしたろう、私は仕事をしていたはずだ。



私はお金の為だけに仕事をしていた。

社会との繋がり、経験を求めて仕事をする人も居たが、私はただお金の為であった。

お金を必要としない今、仕事は必要なのか。

いや、必要では無い。

社会が私を不必要と見做したのか、私が社会を不必要と見做したのか、分からないが、私の行くべき会社はここには無い気がする。



漠然と歩いていたが、だいぶ長距離歩いていたはずだ、数日経っているかもしれない。

しかし、喉も乾かなければ空腹にもならない。

ずっと日が暮れないような気もする。

時間の感覚が無いのはそのせいかもしれない。



飲食の必要が無いなら、このままお金のない状況でも困らない。

なんて幸せだ。

そう考えると、あれはきっと長い試練だったのだ。

私の社会での役目は終わったのだ。

祝杯をあげても良いくらいの出来事だが、なんだか今は気持ちも何もかも一定で、悲しさは無い、しかし喜びも溢れるほどは無い。

ただその気づきを噛み締めるだけ。



ふと思う、役目とは一体何なのだろう。

私は大切な何かのために存在していたはずだ。

しかし、それは私の役目だったのか。

きっと今は他の誰かがそれを担っているのだろう。

そもそも私が背負っていたのではないかも知れない。

私がそう思っていただけで、私には役目など始めから無かったのか。



私には何も無くなった気がするが、それは過去の産物を無くしただけだ。

切ない気もするが、全てから解放された気がする。

きっと、私は自分を取り巻く全てが少し重荷だったのかも知れない。



私は歩みを止めない。

目的地まではまだかかる気がする。

普段ならこれ程歩けば足が痛くなっているはずだが、痛みはないし疲れもない。



どこまでも行ける気がする。

きっと目的地は新たな次の世界なのだ。





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鼓膜騒音 @aren1234

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