神を裏切ったのだ


「これより神前裁判を執りおこなう」


神官長の宣言に全員がこうべを垂れる。

神官長はショックを受けているため、議事進行は姉で前聖女のジョゼフィン・クルーソがおこなうこととなった。

教師という立場も夫が公爵という理由も含まれている。


「まずはじめに。お忙しい中をおいで下さった皇帝陛下ならび皇后陛下には深く感謝致します」


姉が頭を垂れると私たちも両陛下に頭を垂れる。

神前裁判で神々の立ち会いのもと行われるが、その採決によっては国の意見が必要な場面もある。

特に今回裁かれるのは『神の叛逆者』で公爵家も含まれている。

陛下たちは国を代表してこの場に立ち会っている。

公爵家のお取り潰しもありえる現状、陛下が立ち会うことで即断即決が可能になるのだ。


「それでは『神具の破壊事件』について。これは我が妹でソフィー・ゾローネが粉々に破壊したと訴えがあった。マーソン以外の『神の叛逆者』全員が目撃者であり証言者だとマーソンが断言した。そのことに間違いないか」

「「「はい、間違いありません」」」


姉の言葉に全員が声を揃えて証言した。

ここは神殿であり神前裁判のため嘘は許されない。

そして裁判後に神罰が待っているが……どのような内容になるかは蓋を開けてみるまでわからない。


「今日は授業があったにもかかわらず、あなた方はなぜ登校しなかったのか? それに、破壊されたと証言された時刻、ソフィーは間違いなく学園にいた。証言者はクラスの学生全員と担当教諭の私。そしてソフィーは護身の神アルカ・リシア様に呼ばれて夢の中でお会いしている。それは一限目から三限目の途中まで続いた。その時間中にどうやって神具を破壊できるというのか」


神が証言者と聞き、誰も言い返せずにいる。

ただここからが問題だ。


「以上をもって、ソフィー・ゾローネが神具を破壊した訳ではないとお分かりいただけたでしょう。しかし! この神具を壊した者は誰かを突き止める必要がございます」


姉の言葉に神殿内に緊張感が走る。

そう、ここは神殿で神々が見守っている。

私のそばには護身の神がついてくれている。

それを知っているのは視認できる私と姉と神官長、そして気配を感じとれる少数の神官のみだ。

そんな中、フッと私のそばに近寄る気配がした。


(カシモフ・タタン様?)

『ああ、すでに手配は済んだ』

(ありがとうございます)


心の中で呼びかけると若い男性の声が返ってきた。

神は二柱で一神だ。

護身の神はアルカ・リシア様とカシモフ・タタン様。

私の担当はカシモフ・タタン様のため、アルカ・リシア様とは実は面識がない。

初代聖女様に近い能力を持っていた姉の担当がアルカ・リシア様だった。

二柱は聖女の護身を各々引き受けて下さっている。

ちなみに王族には護衛騎士がつくため、護身の神は無防備の聖女を守られる。

─── 私たちのように、姉妹で聖女になったのは今回が初めてだそうだ。

そのため私たちの護身は強化されて、家族も周囲の人たちもその恩恵を受けている。


そんなカシモフ・タタン様が不在だったのには理由がある。

神具が破壊されたのが今朝、私が学園にいるときだった。

それは彼らの発言からもわかる。

ただ、神具は玩具ではない。

国を守護する魔導具なのだ。

これを壊すということは、疫病や災厄など目に見えない脅威が国を襲うということ。

カシモフ・タタン様は国境まで直接赴かれて、弱ってしまった国の守りを強固にしてきてくださったのだ。

それでも……すでに半日が過ぎているが、一日ももたせられない。

だって聖女わたしのだから。


そして私は聖女の資格を奪われた。

聖女の資格をもたない者が祈ったところで意味はない。

祈りには感謝を含め、どの地にどの加護が必要かをお願いする必要があるからだ。

それに……聖女選出は神々が決めること。

それをが破棄して新たな聖女を擁立した。

────── 神を裏切ったのだ。

本当だったら国を滅ぼされても仕方がない。

しかし、神々は最後の光を与えて下さった。


この神前裁判の結果がこの国の未来を決める。



そのことは『神の叛逆者』たちと一部の家族以外は理解していた。

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