昔流行ったダッ◯ちゃん人形のよう
「よくも神殿に足を踏み入れたな!」
神殿に入ると同時にそう大きな声で騒いだのは公爵子息のマーソン様です。
その周囲にはマーソン様の金魚のフン……もとい、取り巻きの子息令嬢がゾロゾロと。
『取り巻きをひとり見かけたら20人はいると思え』
そんな
あら、その羽虫のなかにマレンダの姿もみつけました。
マーソン様の左腕にピッタリとしがみついています。
それは昔流行ったダッ○ちゃん人形のようです。
「神殿に足を踏み入れるもなにも。私は聖女ですから祈りを捧げにまいった次第ですわ」
「なにが聖女だ! さっき神具が粉々に破壊されていたのが見つかった。ここにあるのがそうだ。これを壊したのは貴様だな!」
「いいえ、違います」
「嘘をつくな! マレンダをはじめとして、ここにいる全員がお前が壊したのを目撃したんだ!」
「はあ……あり得ませんね。っていうか、バカですか? バカですよね」
「ふざけるな! 貴様は聖女に相応しくない! よって、ソフィー・ゾローネ! 貴様の聖女の称号を剥奪して、ここにいるマレンダ・ゾローネを新たな聖女に任命する」
「ああ、嬉しいですわ。これで私は聖女としてマーソン様の妻になれるのですね」
「そうだ。私の婚約者はマレンダ、君こそ相応しい」
三流役者でさえ真っ青になって裸足で逃げ出すくらい下手な
大事なことなので重ねて言ってますよ。
だいたい、公爵家に聖女の任命など許されていない。
そんな権限が貴族にあるわけがないし、公爵家当主ではなく次期公爵の予定で、次期公爵候補は彼以外にもいる。
「あら、今日学園に来なかったバカどもが雁首並べて何
「ジョゼ姉さん」
「まあ、ソフィー。まだこんなところにいたの? 全然来ないから迎えにきたわよ」
入り口で別れた姉は前聖女という立場を使い、先に神官長のところへ挨拶に向かわれていたのです。
「神官長様、ジョゼ姉さん。たったいま私は神具を壊したという冤罪をかけられて聖女を剥奪されました。新しい聖女はマレンダだそうです」
「なんですと!」
神官長が声をあげると、マーソンがさらに大きな声を張り上げる。
「冤罪なんかじゃない! ここにいる全員が『ソフィーが神具を粉々に破壊した』と証言をしたのだ。何よりソフィーの妹が間違いなくその瞬間を見たと証言した! さらに、そのマレンダの話では聖女はマレンダが継ぐはずだったのをソフィーが奪いとったと証言した。これには兄であるリルンも証言しており、このとおり証言書も提出している。よってコシモド公爵次期当主マーソンの名において命ずる。ソフィーから聖女を剥奪し、ここにいるマレンダを正式に聖女とする」
「わたくしマレンダは聖女を襲名し、マーソン様の婚約者として、いずれは妻となることをここに宣言いたしますわ」
「私マーソン・コシモドはこのマレンダを我が婚約者とし、いずれは妻とすることをここに宣言する!」
二人の宣言にコバンザメ共がヒレで拍手喝采する。
オットセイやアシカの拍手喝采の方が絶対に可愛いだろう。
拍手に応えるように、主役を演じているつもりの二人が何度も唇を重ねる。
その姿を見た神官長は青ざめて全身を震わせた。
「呪われた……穢れた宣言をしてしまった! もうこの国はおしまいだ‼︎」
神官長のその言葉に、新聖女の誕生と婚約を祝っていたマーソンたちは水を差されたという
神官長は決して大袈裟に言っていないし、神官長の嘆きの理由を知っているから私も姉も彼らに呆れると同時に
神官長の嘆きが何を意味するのかまで理解できなくても、自分たちが面白半分で盛り上がっていることが場違いのように思えたのだろう。
忙しなく目を泳がせて焦りだした。
もちろん、神殿内で騒ぐことは認められないことだ。
先に我に返ったのは神聖騎士団だった。
彼らは騒いでいた24人を全員捕らえたのだ。
「私は新しい聖女なのよ!」
「私を誰だと思っている!」
「「こんなことをして許されると」」
「思っているさ」
騒いで暴れる24人の愚か者に、騎士のひとりがそう告げる。
その言葉に彼ら『神の叛逆者』たちは動きを止めた。
そう、彼らは神殿内で罪を犯していたのだ。
「彼らの家族を呼びなさい。できれば皇帝陛下にもお越しいただきたい。罪深き彼らを裁くために」
恐慌に陥っていた神官長だったが、震えながらも指示をだす。
こうして建国以来の、あまりにも愚かで不名誉な神前裁判が開かれることとなった。
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