第2話 身体は幼馴染・中身は実妹・・・




「やめろ陽奈!離れなさい!」


 依然、俺・穂高蒼太は幼馴染(前世の妹)に抱きつかれたままであった。


「え~?違うよ、お兄ちゃん?今の私はアリスだよ?」


 そう、今のこいつの名前は・・・桜木アリス。

 別にハーフでもなんでもないが、アリスの今世での母親が大の夢の国好きで付けたらしい。


 前世の妹だった時の名前が陽奈、坂本陽奈さかもとひななのである。


 ちなみに絶世の美女である。

 前世も超絶可愛かったが・・・


 いや前世は置いといて・・・


 そんな美女に抱きつかれると、色んな意味で非常に困るのだ・・・


 それはまあいいとして・・・


「お前がお兄ちゃんって言うから、前世の癖が出るんだろうが!」

「んふふっ・・・お兄ちゃん可愛い♪」


 そう、陽奈・・・いや、アリスに兄と呼ばれると、前世の記憶と混同してしまうのだ・・・


「だからお兄ちゃん言うなし!!」

「じゃあ、ともちゃん?」


「だあああああ!!それは前世の名前だろが!!」

「だってぇ・・・お兄ちゃんはお兄ちゃんでしょう?」


 アリスはどうしても俺を前世の兄として扱いたいらしい。

 ちなみに俺の前世の名前が坂本智樹さかもとともきである。


「中身はそうかもしれないが、今は別人!お前もそうだろが!しかも同い歳なんだから、お兄ちゃんはおかしいんだよ!」

「私は私だよぉ?それに、お兄ちゃんと同じ歳だなんて・・・嬉しいな♪」


 ・・・・・


 ダメだ・・・

 話が通じない・・・


 もう何を言っても無駄なようだ・・・


「わかった・・・それについては、もう何も言わん・・・」

「うふふっ、やっと認めてくれたんだね♪」


「認めてはいない、諦めただけだっての・・・ただし、人前で俺を兄と呼ぶのは禁止!」

「ええ!?なんでぇ!?」


「なんでじゃねえよ!アリスがそう呼ぶ事で、俺が言い訳するのにどれだけ苦労すると思ってんだよ!」

「そんなの別にいいじゃん。私の事を妹だよって言っておけば」


 どこまで兄大好きっ子なんだよ・・・


「そんな事言われても、他の人には何言ってんのか全く意味がわかんねえだろが・・・」

「そうかなぁ・・・?」


「とにかく人前では禁止!守れなかったら、俺の家や部屋に来るのを禁止にします!」

「ぶぅ~ぶぅ~!横暴だ、横暴だぁ!」


「ぶぅ~じゃありません!」

「じゃあ、びぃ~びぃ~!」


「びぃ~でもありません!・・・てか、なんだよびぃ~って」

「あははっ、やっぱりお兄ちゃんといるのは楽しいなぁ♪」


 そう言って、アリスは本当に楽しそうに、そして嬉しそうにしている。

 のはいいのだが・・・


「楽しいのは分かったから、とりあえず離れろっての!」


 そう、未だにずっと抱きついていたままであった。


「なんで?別にいいでしょ?」

「いや、よくないだろ!前世と違って、今は兄妹でもなんでもなく他人なんだから」


 そうなのだ。

 幼馴染(前世の妹)とはいえ、血の繋がっていない美女に抱きつかれたりしたら・・・


 色々とやばいでしょ!

 って話じゃん!


 ・・・

 いや、考えてみると・・・


 血の繋がった妹に抱きつかれていたのも、違う意味でかなりヤバかったのではないだろうか・・・


 ・・・やばい!

 前世で、妹に当たり前のように抱きつかれていたから、感覚が狂っている!


 完全に妹に毒されていたんじゃん!


 ・・・いや、まあ、俺も抱きついてきた妹を抱きしめたりしてましたけど。


「他人だなんてひどいなぁ、お兄ちゃん・・・」

「あ、悪い・・・言い過ぎた・・・」


 俺の言葉にアリスは心を痛めてしまったようだ。

 だから俺も言い過ぎたと反省・・・


「・・・なんてねっ♪」

「落ち込んだフリかよ!!」


 した意味ねえじゃん!!

 心配して損したじゃん!!


「えぇ?だって、血の繋がってない他人だからこそ、抱きついてもおかしくないんだよね?」

「えっ?・・・ああ、そう・・・か?」


 確かに血の繋がった妹と抱き合うのは、一般的におかしいだろう・・・

 だから、血の繋がっていない他人の女性と抱き合うのは・・・


「もっと、おかしいだろが!!」


 あっぶねえ!!

 流されるところだった!


 確かに前世までの俺達の関係はおかしい。

 それは認めよう。


 ああ、認めるさ!


 しかしだ!

 今のアリスとは恋人だってんならまだしも、ただの幼馴染だ。


 それが抱き合っているのも、どう考えてもおかしいだろが!


 普通に考えると警察案件だ!

 狭い部屋に直行コースだ!


 主に、俺が・・・


「あははっ、そんな細かい事は気にしないでよ、お兄ちゃん♪」

「全然細かくないだろうが・・・」


「じゃあさぁ・・・もうこの際だから、いっその事付き合っちゃおうよ♪それなら問題ないでしょ?」

「いや、問題ありまくりだろが!」


「えぇ?なんでぇ?」

「だって、今はいくら血が繋がっていないとはいえ、中身は陽奈じゃねえかよ・・・」


 そうなんだよ・・・

 外側がどんなに違ったとしても、中身が妹なのであれば恋愛対象にはならんだろう・・・


 ・・・


 ・・・え?

 ならないよね??


「つーか、前世でもそうやって俺にべったりだったせいで、彼女すら出来なかったじゃないか・・・それなのに、今世でも身内だけとか・・・」

「お兄ちゃんには、私だけがいれば十分でしょ?」


「いや、十分じゃねえし・・・おかげでファーストキスもお預けのまま死んでしまったんだし・・・」

「え?お兄ちゃん、キスした事あるでしょ?」


 ・・・はっ!?

 何言ってんの?この子・・・


 そもそも、何でこの子が俺の事なのに断定すんの?


「いや、あるわけないじゃん・・・する相手もいなかったのに、誰としたってんだよ・・・」

「そんなの決まってるじゃない・・・もちろん・・・わ・た・し♪」


 はああああああ!?


 ・・・・・


 あっ!

 そういえば、幼い頃にした事があったかもしれない。


 そ、それの事を言ってんだな?


「あ、ああ・・・子供の頃の話だよな?」

「まあ、それも含むけど・・・」


 ふ・・・含むけど・・・だと!?

 ちょっと待て!どういうこっちゃい!!


「お兄ちゃんとはファーストキスどころか、物心ついた3,4歳くらいから毎日ずっと寝る時に、最低10回はしてたんだよ?死ぬ前の日までだから、大体14,5年くらい?だから回数で言うと・・・」


 ・・・・・え?

 ちょ、ちょっと待て!


 一日10回×365日×15年って事!?


 ・・・い、いや、やめて!


 回数は言わないでええええええ!

 頼むから!マジで!!


 つーか、どういう事だよ!?

 俺はそんな事をした記憶はないぞ!?


「あ、ごめんね、お兄ちゃん。寝る時じゃなくて、お兄ちゃんが完全に熟睡している時だった♪」


 おいいいいいいい!!

 確信犯かよ!!


 全く気付かなかったよ!

 てか、そんな事されているとは思いもよりませんでしたよ!!


 妹が俺の布団に入ってきても、そんな事するとは思ってなくて安心しきって寝てましたよ!!

 妹のヌクヌク・ホカホカを堪能しながら熟睡してましたよ!!


 つーか、そんなにされているのに、俺の記憶の中ではキスした経験0って・・・


 ・・・

 どんな感触なのかもわかりません・・・


 いや、だから!そうじゃなくて!

 なんで妹が俺とキスしてんだよ!!


 間違いなく血の繋がった家族だったよな!?


 どう考えてもおかしいだろがああああ!!


「お兄ちゃんの寝顔見てたら、あまりにも可愛くて・・・日課になってました♪てへっ!」


 てへっ、じゃねえええええ!

 可愛いんじゃ、ボケがあああああ!!


 違う!ダメだ!

 絆されてはいかん!


 ・・・


 くそっ・・・

 最悪・・・最悪キスは仕方ないとしよう・・・


 仕方なくないけど・・・


 しかし・・・


「くっ、それは今更言ってもしゃあない・・・だけど、こっちの方が重要だ・・・俺に彼女が出来なかったせいで、結局経験出来ずに終わったじゃないかよ!」

「・・・えっ?」


 ・・・えっ?


 ・・・えっ?


 ちょ・・・ちょっと待って・・・


 それ、なんの“えっ?”なの・・・?


「お兄ちゃんは未経験じゃないよ?」


 ・・・・・は?


 な・・・なぜ・・・妹がそんな事を・・・


 まさか・・・

 まさかだよ・・・?


「・・・お兄ちゃんを見てたらね・・・ムラムラきちゃってぇ・・・我慢できなくなってぇ・・・私の初めて捧げちゃった!てへっ!」

「(・・・マ・ジ・で??)」


 俺はあまりの驚きに声が出ず、口を動かす事しか出来なかった。


「うん!マジで♪」


 うっぎゃあああああああ!!


 てへっ!じゃねえんだよ!

 嬉しそうに肯定してんじゃねえよ!!


 ちょっと待て!

 実の妹と経験済みとか!!


 やばい!

 やばすぎだろがあああ!!


 妹は実の兄おれに対して、性的な目で見てたのかよ!?

 俺達はプラトニックじゃなかったのかよ!!


 もう俺の妹がやば杉くん!

 い、いや、冗談言っている場合じゃねえ!


 妹とやっていたという事実だけでも相当やばい・・・


 だが俺の記憶では俺は童貞のまま・・・

 なのに、俺の知らぬ間に童貞喪失とか・・・


 もう、いやあああああああ!!


 つーか、俺が完全に熟睡してた時に襲われていたとしても・・・

 気づけや俺!!


 い、いや、妹との最中に気がついても非常に困るけど・・・


 ・・・はっ!

 っていうか、まさか・・・


「ま、まさかだとは思うが・・・そ、それも毎日・・・?」


 万が一そうだとしたら・・・


 怖い・・・

 怖すぎる・・・


「ううん、流石にそれはないよ~」


 ほっ・・・

 よかった・・・


 どうやら一度きりの過ちだったようだな・・・

 いや、よくはないけどさ・・・


 と、安心(?)していたのだが・・・


「頑張って我慢したから、せいぜい10回くらいだよ♪」


 10回もしてたああああああ!!


 全然我慢してねえだろが!!

 しかも全て俺の記憶にねえ!


 気づかなさすぎだろが俺!!


 つーか、いつも風呂に裸で乱入して来ていたのはブラフか!?

 ブラフだったのか!?


 襲ってくれってと言わんばかりってのは、比喩じゃなくて本気だったのか!?


 つーか、マジかよ・・・

 気づかぬ間に実の妹とそんなにやっていたなんて・・・


 冗談だといってくれええええ!


 と、俺はウルウルした目で訴える。


「あ、あははっ。お兄ちゃんごめんねぇ・・・でも、でもね・・・もう時効だよ?」


 いや、そういう問題じゃねええええええ!!


 そりゃあ人生が変わってるんだから、確かに時効には違いない・・・

 時効には違いないかもしれないけどさぁ!


 問題はそこじゃねえんだよ!!


 確かに前世の俺は、シスコンかどうかを聞かれたら間違いなく「シスコンだ!」って堂々と言ってやったさ!


 でも、それは妹として大好きなのであって、異性として見た事はねえの!

 俺は妹には肉体関係を求めちゃいねえの!


 それは純粋な家族愛なの!!


 ・・・はっ!

 っていうか、まさか・・・


「まさか、お前・・・今の俺にも、気づかぬ間に・・・」

「ううん・・・残念ながら、流石に今世では違う家に住んでるから、残念だけどキスもまだだよ・・・」


 ほっ・・・

 よかった・・・


 今世での俺は純潔が保たれたままだった・・・


 ・・・だったら尚更だ。

 俺はアリスとはそういう関係にはならない!!


 是が非でも・・・是が非でも俺は、アリスから純潔を守るのだ!


 アリスはアリスで大事だが、彼女は俺の感覚では妹のままなんだ!

 妹とは恋人はもちろんの事、肉体関係なんてのはもっての外だ!


 今世では血が繋がっていないから間違いがあっても大丈夫・・・だと?


 ・・・うるさい!

 中身が妹なら、それは妹なんじゃあああああ!!


 体より、心の問題なんじゃい!!


 という事で・・・

 そうと決まれば、即実行。


 抱き着いたままのアリスを、俺からべりッと引き剝がす。


「あ~ん、お兄ちゃ~ん!」

「ダメだ!・・・お前は幼馴染であり妹なんだ。だからいくら大好きであったとしても、それは家族としてだ!」


「んふっ♪お兄ちゃんから大好きって言われちゃったぁ♪・・・これはもう、結婚するしかないよね♪」

「いや、だから話聞いてた!?家族としてだっての!」


「うふふっ、お兄ちゃんからプロポーズされちゃったぁ・・・嬉しいなっ♪」

「はあ!?今のどこがプロポーズなんだよ!?」


「え~?だってぇ、お兄ちゃんは私を家族として見てるって事は・・・それって、夫婦として見てくれるって事だよね♪」

「ちげえええええええ!!」


 そっちじゃない!

 そっちじゃないんだよおおお!!


 嫁じゃなくて妹だよ、こんちくしょおおおお!!


 ダメだぁ!

 全く話が通じない・・・


「でも、真面目な話・・・前世では法律に問題があったけど、血の繋がりのない今は結婚しても何も問題はないんだよ?」

「え?・・・ああ・・・そう・・・か」


 ・・・・・


 いや、だから!

 また納得しかけたけど、そういう事じゃないんだよ!


 しかもこの子、前世で俺達兄妹が結婚出来ないのを、さらっと法律が悪い事にしちゃったよ!


 真面目な顔して何言ってんの!?

 何言っちゃってんの!?


 我が妹ながら・・・

 なんて恐ろしい子!


「だから、今は障害が何もないんだよね♪・・・という事でぇ、お兄ちゃん大好き~♪もう離さない!」


 そう言って、アリスは再び抱きついてきた。


「だああああ!だから、抱きつくんじゃねえ!!」


 くそぉ!

 もう、どうしたらいいんだあああああ!


 本当に耐えられなくなったらどうすんだよ!!


 ・・・いや、もう耐える必要はないんじゃないか?

 ・・・もう、諦めて楽になろう?


 ・・・・・って、だああああああ!!


 悪魔の囁きに耳を貸すんじゃねえ!

 自分を取り戻せ、俺!


 血の繋がっていた前世で一線を越えたんだから、血の繋がってない今世では何も問題ないだろって?


 ・・・・・


 問題ありまくりじゃ、ぼけええええ!!


 俺の記憶にはそんな記憶はない!

 だから、そういう事をした事実はない!


 記憶にない事は、事実として存在しないんだもん!!


 そもそも妹とはそういう事しないの!

 精神的な繋がりはあっても、肉体的な繋がりはありえないの!


 だからどんなに可愛くて、大好きだったとしてもアリスは妹だ!

 妹じゃないけど妹なのだ!!


 妹との恋愛はありえない!

 ありえないのだああああ!!


 と、アリスに抱きつかれたまま、俺の葛藤は続くのであった・・・




 ―――――――――――――――



 あとがき


 ここまでが短編の内容となります。

 次話は今日中に投稿致します。


 今は別の作品を書いている中で色々と迷った結果、投稿する事に致しました。

 読者様の反応を見ながら、今後どうするか考えるつもりでいます。


 他の作品も含めて、色々とよろしくお願い致します。


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