11 4人パーティは難しい

『あー……これは』


 やや引き気味に呟くのは絵麻だ。すみれと雫も言葉は無い。共にマイクの向こうで息を飲んでいるのが分かる。

 美波の画面には、最後の1チームになった時に表示される「You are Last one !」という文字がいっぱいに映っている。

 リザルト画面は──


minazuki   15kill

PoweGG    2kill

SumireSmile 0kill

Drop     1kill


『これがレベチってやつか……』


 そもそも、このマッチでは不運の連続だった。

 最初の降下地点では4チームが重なり、地獄のような乱戦の結果、敵に囲まれたすみれと雫がなんとか1キルだけもぎ取ってからダウン。絵麻は2人を倒して美波と合流、街を脱出したが、車で移動中に敵の襲撃に合い絵麻が脱落。

 残った美波も林の真ん中で敵に囲まれて絶体絶命……に見えた。

 ここから美波は切った張ったの大立ち回りを演じ、1チームを壊滅。漁夫の利を狙いに来た別チームも片付けて8キル。そのままバイクを見つけると、安全地帯の中央にある2階建ての大きな建物──通称事務所に突撃。中に籠もった2人を片付けると「あの事務所にヤバい奴がいる」と周囲が判断したのか、事務所を避けるように戦闘が多発。

 遠距離から介入して3キルを奪うと、最後に残った2人を危なげなく片付けて終了。


 圧倒的。隣で見ていた英美里も若干顔が引きつっている。


『何であんなに勝てるんですか……?』

『まぁ、反射神経とかエイム力とかもそうだけど、立ち回りというか、見えていない敵の予測が完璧だよね。敵を近づかせない為にスモークで射線切ったり、スタンで足止めしたり、自分が有利になるよう敵全員をコントロールしてるんだ』


 絵麻の説明に疑問を投げかけたすみれも納得をする。

 同時に英美里も疑問が解けていた。何故か美波は敵に囲まれても各個撃破が出来るのだ。本人に何故だか聞いても、説明が下手すぎて全然分からなかった。


『頑張ってなんとかなるレベルの話なんですかね……』


 雫が恐る恐る口を開く。超えようがない才能の壁を見たのだろうか。


『う〜ん……わかんないわ!』


 絵麻としても、自分より強いプレイヤーの実力が、努力か才能かはわからない。世界的に有名なプレイヤーだから才能の影響はあるはずだけど、それを言ってしまうと「あなたには追いつけない」と言っているのと同じではないかと思う。


『ま、もいっかい行ってみよう』


 そうして再びゲームを開始……したものの、そこからの数戦は散々な内容だった。


『あ、敵です。前出ます。うがっ!やられた!』

『カバーする……ってやばい』

「あ」

『待って!私が追いついてないよ』


……


『突貫きたよ!迎え撃つ』

『了解』

「そっちにいく」

『待ってまだ早い』

「あ」

『こっちで対処します!……無理でした!』

『起こすよ』

『駄目!まだひとりいるから!』

『あああああああああ』


……


『西の稜線に敵が見えたよ』

『あそこ、1キル盗れそう』

『すみれ、そこ西から射線が──』

『え、あぁ!ごめんなんさい!』


……


 1時間後、全員が言葉無く項垂れていた。

 全く勝てない。連携が取れずにひとりが死に、カバーしようとまたひとりが死に、肝心の美波もパーティの混乱に当てられて呆気なくやられてしまう。


『えーっと、一旦解散しようか。ちょっと考えます』


 絵麻が弱々しく伝えると、反対意見もなく解散になった。


「なんか、全然駄目だった」


 美波も「何故上手くいかないか分からない」という表情だ。


「出来ないことをしようとし過ぎたのかもね。1年生のふたりは、美波と絵麻の足を引っ張らないために実力以上のことをしようとしてた。美波は1年生のふたりに合わせようと遠慮しちゃった。絵麻は1年生に合わせるのか美波に合わせるのか迷ってどっちつかずだった」

「そうかもしれない」


 美波は、4人でボイスチャットを繋いでゲームをするのは初めてだ。ナミ猫とのコラボは2人だったし、相手も上級者だったから合わせることも簡単だった。

 今の美波には、プラチナ帯の1年生に何が出来て何が出来ないかが分からない。だから要求できることと、合わせるべきレベルが分からない。

 レベル差のあるチームプレイの難しさだ。

 かといって美波ひとりで片付けてしまって、他のみんなが後ろから見ているだけでは意味がない。


「私としても、どうやったら解決できるか分からないのよね」


 英美里にesportsの経験はない。横から見てダメそうなことは分かっても、解決方法までは思い浮かばない。

 アレもわからない、これもわからない。まさに前途多難な船出であった。



◇◆◇



 同日、夜。

 庭付き2階建ての大きな一軒家の2階に、山田すみれの部屋がある。

 10畳を越えるおおきな部屋には、パソコン用のデスクと大きなベッド、大きなクローゼット、漫画やライトノベルがたくさん並べられた本棚などがある。

 どれも見るからに高級な一品であり、まさにお金持ちの子どもの部屋だ。


 そんな部屋のベッドでは、すみれが布団を被って丸くなっていた。

 コンコンとドアが2回ノックされる。「すみれ、はいるよ」と告げて雫が入ってくる。

 返事もなく丸くなっているすみれを見て、「やっぱり拗ねてるな」と「来て正解だった」と思った。

 解散になった後、言葉もなくログアウトしていったすみれを見た雫は、急いですみれの家までやってきたのだった。そこまで遠い場所じゃない。自転車で5分もあれば着く。

 ベッドの端に腰を掛け、丸い布団の頂点をポンポンと軽く叩く。


「そんなに悔しかった?」

「…………」

「頑張ろうと思って空回ったのはわかるけど、それはちょとずつ修正していけばいいよ」

「…………」

「月島先輩はすごい人だからさ、私たちは出来ることをやっていこう」


 眠った亀のように静かだ。まさに動かざること山の如し。


「連携に関しては田所先輩とも相談して──」


 そこまで言ったところで、すみれの頭が布団からにょきっと生えてきた。

 目が少し赤いが、何よりもその顔に浮かんでいるのは「不満」だ。眉間にシワを寄せて雫を睨みつける。


「0点。そんな言葉を聞きたいわけじゃないんですけど」

「あー……はい」


 雫は立ち上がると、床に膝を付けてしゃがんだ。

 ゆっくりと顔を近づけると、風船のように膨らんだすみれの頬に優しく唇をつける。


「私が一緒だから、明日からまた頑張ろう?」

「……ま、合格点にしておいてあげるわ」


 すみれは布団を跳ね除けて上体を起こした。


「あ、もうこんな時間。誠くんのSF人狼が始まっちゃう!」

「だから急いできたんだよ。間に合ってよかった」

「それも含めての合格点なのよ。本音を言うと、もう少し気の利いた言葉がほしかったわ」

「はいはい。精進いたします」


 雫はすみれのお姫様抱っこで持ち上げて、ゲーミングチェアまで運んで座らせ、自分はもうひとつのゲーミングチェアに座る。ここはすみれの一人部屋だが、雫用の椅子がちゃんと用意されているのだ。

 ブラウザを立ち上げてChu-Tubeを開く。


「ちょうど始まるわね。誠くんが人狼引かないかなぁ」



◇◆◇



 その後、グループチャットに絵麻からメッセージが届いた。


「土曜日に懇親会をします。14時虹巻駅前集合で。昼ご飯は食べてきてください」

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