10 はじめての後輩

 放課後。

 HRが終わるや否や絵麻がやってきた。


「とりあえずパソコン室行こうか」


 虹巻高校では、授業でパソコンに触れるためにパソコン室という教室がある。正確には情報学習室というが、みんなパソコン室としか呼んでいない。

 職員室の上の階、物理室や音楽室の並びにパソコン室はある。放課後は吹奏楽部が練習しているので静かとは言えない。

 他のメンバーはまだ到着していなかったので、適当に座って待つことにした。


「ここで練習したりしてるの?」

「まさか。うちの学校にゲーミングPCなんて無いからね。ここはミーティングで使ってるだけだけで、ゲームするときは各々自宅からだよ」

「なるほど。それはそうか」


 確かに、置いてあるパソコンは普通のセパレートタイプのデスクPCだ。これでFPSはプレイできない。


「そういえば、都大会っていつなの?細かい日程聞いてなかったよね」

「そうだった。えーっとね。都大会が10月第4週の土日、これはオンラインだから家から参加で大丈夫」

「来週末ね、あと1週間ちょっとしかないのか」

「で、関東が11月2週目の土日。これもオンラインだけどネット放送があります。優勝したらインタビューがあるけど、これは私が出るから」

「了解」

「で、全国大会はオフラインだからちょっと空いて12月3週目土日。会場は横浜。金曜にリハがあるので、出られたら金曜は休みにできます」


 地方から出てくるチームもあるので、準備のために期間が空いているのだろう。オフライン大会になると全チームがひとつの会場でプレイをすることになる。たくさんのパソコンが並んだ会場は壮観なことだろう。

 いや、その前に期末試験か。


 そんな話をしていると、扉が勢いよく開かれて生徒が二人、姿を見せた。


「遅れましたー!わぁ新しい人だあ!」

「あ、きたきた」

「はじめまして!山田すみれです!」

「海堂雫です」


 大きな声で挨拶をしたのが山田すみれ。背が低く、淡い髪をポニーテイルにしている。わがままなお嬢様といった印象だが、歩き方や仕草から上品さを感じるので、実際に家がお金持ちなのかもしれない。

 もうひとりの大人しそうな子が海堂雫だ。身長が170cmくらいで髪が短く、バレーやバスケをやっていそうな印象である。


「紹介するね。エース帯の月島美波ちゃんと、付き添いの北野英美里ちゃんです」

「エース帯……誠くんより上じゃん!」

「誠くん……?」

望海誠のぞみまことくん。私たちの推しなんです。VfunブイファンっていうVTuberの事務所があるんですけど、そこに所属してる配信者で、柔らかい雰囲気の人なのにFPSがめっちゃ上手いんですよ!他のゲームもやってるせいでまだダイヤなんですけど、実力ならエース級って言われてます」


 早口にまくし立てて鞄に付いている缶バッジを見せてくる。確かに文学青年にも見える大人しそうな男の子だ。海堂雫の鞄にも同じものが付いている。


「二人は推しの影響でLast oneやってるんだよ。でももうプラチナまで到達したからね、すごい成長速度なんだ。有望株だよ」

「推しが好きなゲームには触れてみたくて。それに全国大会では誠くんが解説なんです!頑張って名前を呼んでもらいたいの!」


 そういう事もあるのか。VTuberが配信界隈でブイブイ言わせている時代らしい。


「美波は今日帰ってから時間ある?ここで話しててもしょうがないし、良かったらLast oneしようよ」

「大丈夫」今日は配信の無い日だ。

「おっけー!じゃあ一旦解散で!」



◇◆◇



 帰宅して準備していたら17時になっていた。ツイランドのDM経由で、絵麻からボイスコードの「虹巻高校パソコン部」のチャンネルの招待が届いていた。

 入室すると既にPowerGGという名前のプレイヤーがいた。これが絵麻らしい。


『やっほー絵麻だよ。すごーい名前がminazukiだぁ!感動するなぁ!』

「どうも」

『よろしくー。英美里もいる?』

「いるよー」大きめの声でマイクに叫ぶ。

「いやぁ楽しみだなぁ!」


 少し他愛のない話をしていると、2つ立て続けに入室音が鳴る。メンバー欄には「SumireSmile」「Drop」の名前が表示される。

 SumireSmileが山田すみれで、Dropが海堂雫だろう。


『おまたせしましたー』


 すみれの元気な声が聞こえてくる。雫も挨拶をしていたが、すみれと被ってほとんど聞こえなかった。面白い関係のコンビだ。


『あれ、月島先輩の名前……』ようやく雫の声がまともに聞けた。ハスキーでカッコいい声だ。

『お、minazukiの名前を知ってるの?』

『あ!誠くんの配信で見たことある!』

『そっか、望海誠もFPS上級者だもんね。ランクマッチで名前出ることもあるか』

『キルログに名前が出るたびにコメント欄がざわつくんですよ!え、月島先輩、そのminazukiなんですか!?』

「…………」

「美波のことだよ」

「え、あぁ、うん。そうです」

『すごい!有名人じゃないですか』

「……あ、うん」


 軽快な会話は荷が重いか。

 昨日失言をしたばかりだ、仕方がない。


『クールでいいねぇ』


 絵麻が上手いことフォローを入れてくれる。さすがチームリーダーだ。


『美波はパーティプレイはあまりしてこなかったよね。一応私がリーダーでいいかな?』

「大丈夫」

『オッケー!とりまやってみよう』

『はーい!』

『お願いします』

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