Killer Queen~FPSで幼馴染(美少女)を最高に幸せにする方法~
九道弓
第一部
01 激怒、計画、勧誘
◇◆◇
幼なじみ、
入学から6年間仲良くやっていたが、校区の関係で中学は別々になってしまった。
英美里が中学で新しい友達とそれなりの生活を楽しんでいる間、隣の中学では美波が酷いイジメをうけていた。英美里に心配させまいと、何も相談をすることなく一人で耐えた結果、美波の精神は限界を迎え不登校になっていた。
英美里がそのことを知って駆けつけたときには、すっかりと暗くふさぎ込んだ人間になっていた。英美里の呼びかけにバツの悪そうな顔で俯き、ただただ泣いていた。
そこから毎日のように強引に通い詰め、なんとか勉強だけマンツーマンで叩き込んで同じ高校へと入学した。不登校になっていたとはいえやれば出来る子だったので、成績だけはなんとか持ち直せたのだ。
だが、一度根暗なコミュ障になった性格は高校でもそのままだった。新しく友達を作りはせず、遅刻や早退、欠席を繰り返した。当然留年の危機を迎えたが、英美里の強引な介入の結果、出席日数ギリギリでなんとか2年へ進級した。
なんとかしないと、幼なじみがダメ人間になってしまう。
あの子は将来良い仕事に就けるだろうか。結局のところ、仕事とはコミュニケーションの連続である。もちろん美波でもなにかしらの仕事はできるだろうが、やはり選択肢は狭まってしまう。
現在は不本意な学生生活を過ごしてしまっているのだ。大人になってからは恵まれた生活を送ってほしい。
そんなある日、英美里は知ってしまった。
中学時代に美波を虐めていた主犯格の女が、人気アイドルグループの一員として活動していることを。
そのグループは「東京ガールズNo.19」という19人組アイドルグループで、全国アリーナツアーが出来るほどに人気があった。握手券付きのCDは飛ぶように売れ、メンバーはCMにドラマにグラビアにバラエティにと多方面で活躍をしている。
19人を上限に活動をしており、卒業などで欠員が出ればその都度オーディションをして補充するシステムらしい。奴は直近のオーディションで合格を果たし、新メンバーの座を掴み取ったのだ。
奴は今、musicスタジオという全国区の人気音楽番組で、大勢の観客の前で歌っている。今の所人気は中堅だが、立ち位置はやや真ん中よりだ。
たくさんの歓声、大物司会者との共演、SNSでの反響……英美里は激怒した。あいつに虐められてから、美波がどんな生活をしていたか。英美里の前で死にたいと泣いていたときの光景がフラッシュバックする。
持っていたシャーペンをへし折り、英美里は決意する。
月島美波を幸せにする。奴よりもだ!
◇◆◇
英美里には既にひとつ案があった。美波矯正計画として前々から提案しようと思っていたのだが、自分たちは高校生だし、まだ早いかもしれないと思っていただけだ。
実は月島美波、ゲームがめちゃくちゃうまいのだ。中学時代に引き籠もりになってから数年間、家で延々とゲームをしていた。聞けば懸賞でゲーミングパソコンセットを当てたらしい。
美波が得意なのは、いわゆるFPSと呼ばれる一人称視点で銃を撃ち合うゲームだ。英美里はスマホのパズルゲームくらいしかしないので詳しくは無いが、どうやら世界ランキングとやらに入っているらしく、強いチームからの誘いもあるらしい。
つまり、私の計画は「ゲーム配信者として有名になる!」だ。
もちろんゲームが上手いだけで有名にはなれない。上手いだけの人なら世界中にゴロゴロ転がっている。
ゲームが上手い+αが必要だ。例えばトークが上手い、見た目が良い、他に特技がある、大手事務所に所属している、などだ。
では美波はというと……ズバリ「見た目が良い」「女子高生である」の2点だ。
美波は女の英美里から見ても美少女だと思う。小柄で幼く見えるが、サラサラな髪に丸いほっぺ、目つきはやや虚ろげだが、各パーツがバランス良く配置されているのでかなり可愛く見える。
高校では人付き合いが悪い美波だが、見た目のおかげで男子からはそれなりに人気がある。
クラスでも上位に入る容姿をしているのだが、実はそれが虐められた原因でもある。
クラスのボスである片山琉美衣が、人気を二分する美波を蹴落とすため、周囲を扇動してイジメを始めたのだ。
今はオドオドしていて姿勢も悪く猫背、髪の毛もあまり手入れをしていないのでぼさぼさだが、元が良いので必ず磨けば光る。いきなり顔出しは出来ないだろうが、必ず武器にはなるはずだ。
トークはというと当然苦手で、はっきり言ってまともに喋れるか怪しい。
だが世界ランキングに入るプレイヤーで見た目が良く、しかも人生で最も価値の高い華の女子高生!チャンスはある。トークは慣れれば少しはいけるはずだし、最悪私が横から参加する手もある。
以上のようなことを美波に提案してみた。
いきなり部屋に乗り込んできた英美里だが、いつものことなので怒られることはない。
対人恐怖症の美波だが、何かと面倒を見てくれる英美里には感謝をしており、言葉には出さないが尊敬もしている。
「というわけで、美波が配信をすれば成功すると思うのよ!」
自信満々に言い切る英美里。美波は「こいつ、何言ってるんだ?」という顔をしている。
「正気?誰に言ってるか分かってる?」
「もちろん!美波に言っているわ!」
美波は凍りついたように固まり、かろうじて瞬きだけすることができた。小さな口がぽかんと開いている。
ここ数年、美波が会話をしたのは英美里と家族、極稀に担任だけだ。そんな人間がマイクを立てて配信をするって?ゲームのときだって聞き専で、テキストチャット以外でコミュニケーションをとることはしないのに?
「いや、でも自信ないし……それに、私が人前で話ができるとでも?」
「トークなら私もフォローするし。何より最初からうまくする必要はないのよ。FPSだって最初から上手かったわけじゃないてしょ?」
「まぁ……」
最初は誰でも初心者だ。数をこなしたり動画を見て知識を増やしたり、たくさんの努力が積み重なって上級者になることができる。
「トークも同じ。まずはやってみないと、ずっと初心者のままよ?」
一理ある。が、やるかどうかは別の話だ。
美波としては自信はないが、他でもない英美里の言うことだ。彼女は出来ないことは要求してこない。
今までそうだった。高校受験も進級も、絶対に出来ると励まされた結果、全て上手くいった。
「今のうちに慣れておかないと、社会に出てから困るわよ。上手く行かなかったらすぐにやめちゃえばいいんだから」
美波としても、このままコミュ症を拗らせたままで良いとは思っていない。少々強引なやり方でも、英美里の庇護下にある間に改善できればベストなのだ。
「英美里ちゃんは、私に出来ると思う?」
「もちろん!美波なら出来るわ!」
美波は英美里に全幅の信頼を寄せている。彼女に出来ると言われれば、なんだか出来そうな気がしてくる。
長い間が空く。
英美里を見ると自信満々の顔が返ってくる。
「じゃあ、一度やってみる……」
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