曇らせ物語

クエンさん

第1話 曇らせ桃太郎

 ここにいるのは桃太郎です。

 桃太郎はおじいさんとおばあさんから桃から生まれたと言われ育ちました。2人とも桃太郎の親だと思いたくないからです。

 桃太郎は嫌われ者でした。おじいさんもおばあさんも逃げるように山へ芝刈りに、洗濯をしに外へ出て行きました。

桃太郎が青年にになると、おじいさんもおばあさんも、桃太郎にきび団子を持たせ、家から追い出しました。

 泣きながら放浪する桃太郎は決意しました。自分が鬼を退治し、金銀財宝を持ち帰れば2人とまた過ごせると思い立ったのです。

 道中、桃太郎は犬、猿、雉にきび団子を与えました。そしてそれらを仲間とし、鬼がいる鬼ヶ島に向かったのです。

 それにしても餌を与えて動物を仲間と言い張るのは、桃太郎にとっては不思議なことではありませんでした。誰からも相手にされなかった人生で、自ずと人間を避けていたのです。空いた孤独を動物で埋めているのです。

 桃太郎は動物たちと和気藹々と旅を続け、ついに鬼ヶ島に着きました。

「やい鬼!俺に金銀財宝をよこせ!」

 桃太郎は刀を振り回して、鬼たちに指図しました。鬼は困惑しながらも、動物に縄をつけている桃太郎に哀れみの目を向けて言いました。

「乱暴なもの言いだが、いったいどうしたんだ。悩みがあるなら鬼でよければ乗ってやるぞ」

「うるさい!!」

 桃太郎は怒り狂い、刀で鬼に斬りかかりました。鬼有無を言わさず死にいたり、その場に鮮血を散らばしました。

「お前さえ死ねば幸せになれるんだ!!死ね!死ね!」

 桃太郎は刀を何度も鬼に差し込み、できた刺し傷は28カ所もありました。

 こうして桃太郎は動物たちと協力し、金銀財宝を手に入れ、家に帰りました。一生遊べるお金を手に入れて戻ると、おじいさんもおばあさんも飛び跳ねて喜びました。


 めでたしめでたし。





 むかしむかし、ある所におじいさんとおばあさんがいました。おじいさんは街へキャバクラに。おばあさんも行きつけのエステサロンに。

 桃太郎が持ち帰った金銀財宝は、おじいさんとおばあさんに浪費されていきました。一緒に暮らせると期待した桃太郎はというと、お金だけを取り上げられて、完全に放置されていました。

 桃太郎は激怒しました。心の友である雉が晩御飯に出された事も、猿も犬も動物園とペットショップに売り払われた事も。そして何より昔と何一つ変わらない待遇に、怒り狂ってしまいました。

 その晩、桃太郎の家には悲鳴と鬼の叫び声がしたそうです。切り刻まれる肉塊に笑う鬼がそこにはいました。

 鬼は外福は内。

 あなたの心にもいつか鬼が宿るかもしれません。

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