誕生日は色あせない(小学二年生)
誕生日。
前世の記憶がある俺にとっては新鮮味のないイベントである。それどころか実年齢よりプラスアルファで祝われているということであり、それが逆行したズルさというものを感じさせられる。
だけど、まあ、なんだ……。
両親に葵ちゃんや瞳子ちゃん、佐藤を初めとした友達にお祝いの言葉をかけられる。経験したイベントでありながらも、あの時はわからなかった気持ちが伝わってくる。
なんだか照れ臭くって、でも嬉しくってしょうがない。
「お誕生日おめでとう!」
小さい頃は毎年聞いていた言葉。いつしか大人になって、当たり前だったその言葉を聞かなくなった。
いつの間に聞かなくなったのだろう? いつか、と断言できない。こうやって段々と人生が薄らいでいったのだろうな。とかセンチメンタルになってみる。
あれだけ嬉しかった誕生日。いつしか祝われることもなくなって、ただの灰色の一日になっていた。
でも、今世ではまた祝ってもらえるようになった。そうすると現金なもので、やっぱり嬉しさが込み上がってくる。
嬉しかった思い出。これを思い出で終わらせないように、全力で楽しもう。俺だけじゃなく、彼女達にとっても楽しめるようなイベントにするのだ。
「ありがとうトシくん! わぁ! とっても嬉しいな!」
葵ちゃんにお祝いの言葉をかけたら、力いっぱいの嬉しさを表してくれた。
瞳を嬉しい感情で輝かせて、最高のニコニコ笑顔だ。今にも飛び上がりそうにピョンピョンと跳ねている。たぶん葵ちゃんにとってはこれでも我慢した表現なのだろう。
子供らしく新鮮な反応だ。それが俺に誕生日の嬉しかった思い出を振り返らせてくれる。
「お祝いしてくれてありがとう。あたしの誕生日を覚えていてくれて嬉しいわ」
瞳子ちゃんにお祝いの言葉をかけたら、照れながらもはにかんでくれた。
普段はクールな彼女だけど、誕生日ともなれば年相応の喜びを表してくれる。気恥ずかしそうにしてはいるが、俺に見られないようニッコニコの笑顔を隠しているのを、実は知っている。
大人へと近づきながらも、子供らしく喜んでもらえるのは、祝う側としても嬉しい。
まだまだ幼いけれど、歳を重ねるごとに明るい未来へと近づいている気がしていた。
漠然としている将来に、夢や希望を根拠なく思い描いていた。
それは間違っていないのだろう。子供には無限の可能性がある。月並みな言葉だけど、それだけ子供には可能性があるってことだと思う。
その可能性を生かすも殺すも自分次第。その自覚があるだけ、俺は有利な位置にいる。
「お誕生日おめでとう!」
俺への祝福の言葉。生まれてきてよかったと実感させてくれる。それがどんなに大切だったことか。今の俺にならわかるはずだ。
だから精一杯伝えよう。
俺を産んでくれた母さんと父さんに。
俺といっしょにいてくれる葵ちゃんと瞳子ちゃんに。
俺の誕生日を「おめでとう!」と祝福してくれるみんなに。
心の底からの「ありがとう」の言葉とともに、ちゃんと自分の口で気持ちを伝えるのだ。
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