おねしょしちゃった(三歳児)
晴れておむつが取れた! この時の感動といったら表現しきれないほどだったね。
一度おむつを卒業してしまうと何もできない子供じゃないんだという意識が強くなる。こうやって一つずつ自立心ってやつが芽生えるのだろう。俺ってばなんて大人なんだろうか。
おむつおむつとうるさいかもしれないが、これがあるかないかで行動範囲にも大きく差が出るのだ。おむつを履いたままだったら未だに公園デビューなんてできなかったかもしれない。
まあ他の子でおむつ履いてない子ばかりってわけじゃないけどね。兄弟なんかがいたら上の子の付き添いで赤ちゃんをつれてくるお母さんがいたりするし。
うちは一人っ子だからな。母さんが「おむつが取れたら公園に行ってみようか」とか言っていたのをちゃんと聞いていたのだよ。俺基準で考えてくれてありがとうございます。
つまり、おむつが取れたおかげで葵ちゃんと出会うことができたのだ。おむつないって最高!
絶対におねしょなんてするものか。俺はおむつ生活に逆戻りすることだけは避けるように努める。それは三歳児にとっての固い誓だったのである。
※ ※ ※
「うええええん! うええええぇぇぇぇんっ!!」
「ほらほら葵。もう泣かないの」
私の娘、葵が力いっぱい泣いている。この泣き方はすぐに止んでくれそうにはなかった。
葵が泣いている原因はおねしょをしてしまったからだった。明け方に泣き始めたかと思えば、パンツやパジャマにとどまることなくお布団にまでびしょびしょにしてしまったのだった。
身に着けているものは洗濯した。お風呂にも入って気持ち悪さはなくなったのだと思うのだけれど、それでも葵は泣き止んではくれない。
おむつを取ってみたものの、たまにこうやっておねしょをしてしまう。三歳になったからと外したのは早過ぎたのだろうか。
「うええええん! うええええぇぇぇぇんっ!! うわああああああぁぁぁぁん!!」
……そろそろ泣き止んでくれないかしら?
いつまでも泣き続ける娘を叱ろうとした時だった。
「おはようございまーす」
玄関のチャイムとともに元気な声が聞こえてきた。俊成くんだ。
彼の声が聞こえると、葵はぴたりと泣き止んだ。さっきまで悩まされていたのが嘘のよう。
「はーい。今出るわねー」
私は玄関へと小走りで向かった。俊成くん、とても良いタイミングね。
ドアを開ければ娘と同い年の男の子がいた。言われずともしっかりとしたあいさつをしてくれる。
彼の登場に、私はほっと胸を撫で下ろした。
「葵ー。俊成くんが来てくれたわよ」
「……うん」
まだ少し鼻をすすっているけれど、涙は引っ込んだみたい。
けれど、俊成くんは葵の様子が気になったようで、私へと顔を向ける。子供の純真な疑問に、本当のことを言えないだけに苦笑いをしてしまう。
そんな私の心境を見抜いたように、俊成くんは小さく頷いた。子供って大人にはない察しの良さがあるのかな。そう考えてしまうほどにはドキリとさせられるほどの察しの良さだった。
「葵ちゃん、今日は何をして遊ぶ? 部屋に行く?」
「お、お部屋はダメ! 葵は……お、お外がいいなぁ」
シーツは洗濯したし、換気だってしている。それでも、好きな男の子をお漏らししちゃった部屋には入れたくないか。
娘の芽生え始めた羞恥心に、表情がほころんでしまいそうになる。
葵にとっておねしょは恥ずかしいものだと認識したみたいね。それはきっと、俊成くんに知られたくないと心で感じたから。まだ頭ではわかっていないでしょうに、心はちゃんと乙女として成長しているみたい。
葵のおねしょはあまり問題にする必要はないだろう。だって、女の子なら恥をかきたくないものね。そうやって意識できるのなら、自然とおねしょしなくなるだろう。
子供の成長は早い。日々の変化を発見するだけでも楽しい。友達ができるとなおさらそう思う。
私は手を繋いで外へと出る葵と俊成くんを、優しい気持ちで見送ったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます