元おっさんの幼馴染育成計画~ほのぼの集~
みずがめ
プール授業のお話①(小学四年生)
プール開きの日がやってきた。
夏になっての楽しみとしてはプールの授業があることである。いつもの体育に比べても、みんなの気分が三割増しくらいはしていた。
小学校には低学年用の小さなプールと二十五メートルのプールがある。四年生の俺達が泳ぐのはもちろん二十五メートルの方である。
「私、向こうのプールでもいいかな……」
スクール水着に着替えた葵ちゃんは低学年用のプールを指差しながら、そうおずおずと口にする。
四年生になっても泳ぎが苦手な葵ちゃんである。未だに浮き輪がないと不安で仕方がないのだそうな。授業ではビート板が彼女の友達である。
「ダメに決まってるでしょ。葵だってちゃんと泳げるようになった方がいいわよ」
「う~……」
瞳子ちゃんに言われてしまえば反論できない。葵ちゃんは唸りながら涙目になった。
瞳子ちゃんは泳ぎが上手だ。というか俺よりも泳ぐのが速い。ダテにスイミングスクールで選手コースで鍛えているわけではないのだ。
先生に呼ばれて俺達は整列した。小学生だとプールの授業でも男女いっしょに泳ぐのだ。
先生の説明を俺達は体育座りをしながら聞いていた。とはいえ無駄に話が長くて早く泳がせてくれ、という生徒達の心の声が聞こえてきそうだった。
「ふおっ!?」
突然意図せず変な声を漏らしてしまう。先生には気づかれなかったようで安心する。
俺は犯人であろう後ろの人物に小さく声をかけた。
「赤城さーん。何をするのかなー?」
「高木の背中に字を書いただけ」
俺の後ろで体育座りをしているのは赤城さんだった。彼女に背中を触れられて変な声を漏らしてしまったのだ。
赤城さんは悪びれる様子もなく、無表情のまま再び俺の背中に指を這わせる。むき出しの背中がゾクゾクとした感覚に襲われた。
彼女の指がすーっと動く。縦や横、斜めに動いてちょんちょん。どうやら本当に俺の背中に文字をなぞっているらしい。
「なんて書いたかわかる?」
「いや……わかんなかった」
「じゃあもう一回」
そう言った赤城さんの指先が、またまた俺の背中を滑っていく。
なんとも言えないぞわぞわした感覚。ちょっと癖になりそう……。
「高木、わかった?」
赤城さんに尋ねられて意識が戻った。あまりこんなことを続けるもんじゃないと自分に喝を入れる。
「『た』『か』『ぎ』かな?」
「正解」
相変わらず無表情な彼女だけど、俺が正解したからか口元が綻んだように見えた。
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