6膳目 パンが無いなら、自分で焼けばいいじゃない

 三馬鹿のお仕置きが始まって3日が過ぎた。昼休みは彼等の昼食を監視すべく、アンジェリカとシュトラールが一緒に中庭で食べているのだが……。


「パンの耳バンザイ」


「パンの耳バンザイ」


「パンの耳バンザイ」


「ーー…………わぁ」


 当の3名が一心不乱に何の処理もしていない食パンの耳をむさぼり食う姿を見て、シュトラールはそれしか言えなかった。


 今回の罰則期間中、彼等は基本“完成した料理”の使用を許されていなかった。なので当然、パンなど口に出来ようはずがないのである。

 流石に厳しすぎるのではないかとミゲルが問うたが、アンジェリカの返答は『パンが無いなら自分で焼けばいいじゃない』とのことであった。

 

 しかし。毎日毎食、まともに食べられた物ではない炭化した食材ばかりを腹に詰め込み疲弊仕切った三馬鹿の瞳から光が消え、頬も心なしかこけてきた様子を受けて、流石に譲歩が必要だと言う話になった。

 そして致し方なくアンジェリカが今朝彼等に与えたのが、バスケットいっぱいのパンの耳だったと言うわけだ。


 シュトラールは食堂でのあの横柄な様子から、気位の高さを取り違えている彼等ならば怒るのでは無かろうかと案じたが、どうやら杞憂だったようである。

 三人は今、ボロボロと涙をこぼしながらそれを感謝し傍受して居るのだから。


「育ち盛りの少年に今回の罰は、相当堪えているみたいだね。これで改心に繋がると良いけど、流石にこのままでは改心前に精神に異常を来しそうな気がして少々不安なのだけれど……」


「ただ自分が気に入らないってだけで作ってもらった料理を床にはたき落として、何の落ち度もない作り手の方にあれだけの暴言吐いた本人が悪かね。こんくらいで音を上げるなんて根性なしも良いとこったい。大体、まともに作りたいなら自分でやり方調べたら良かよ。あのパン耳だって本当はおやつにする予定だったとに……」


 『あん人達、この3日レシピ本すら開いてなか!自業自得ったい!!』と、ぷんすかしているアンジェリカに苦笑を返すしかない。人目がない時に彼等の話をするとこの言い回しになっているので、恐らく気持ちが高ぶると出てしまうのだろう。可愛いから指摘はしないが。



「「「パンの耳バンザーイ!!!」」」


「食べきったのか……。あの量のパン耳を、飲み物すら無しで…………」


 そんなにお腹が空いていたのか、と思わず涙をこぼしたシュトラールの膝に、アンジェリカが分厚いサンドイッチでいっぱいのバスケットを置いた。


「じゃあ、私達もランチにしましょうか!」


「鬼かな???」


 サンドイッチは、二人が美味しく完食した。












「ま、本当の本当に反省した時には、ごめんなさいして新しく頑張れば良かね」


「「「ーー……」」」












ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 その日の放課後、三馬鹿はクランペット家から出された迎えの馬車に来なかった。もしや逃げ出したかと冷や汗をかくミゲルには馬車の前で待っていてもらい、アンジェリカが校内へと探しに向かう。


 三人が居たのは、入学式の日に彼等が暴れたあの食堂だった。明日の仕込みをしているのか、奥からは作業の音がする。

 廊下側の窓から中を覗くと、三人の前にはあの日の料理人が立っていた。


 そして、三人は短く言葉を交わすと、彼に向かいほんの少しだが、頭を下げる。


 夕日が逆光になって、料理人の表情はわからなかった。



 

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悪役令嬢は頑張らない 〜破滅フラグしかない悪役令嬢になりましたが、まぁなるようになるでしょう〜 弥生真由 @yayoimayu

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