第26話・採点

「お帰りなさい」

 入っていった招きの洞窟で、安久都先生は待っていた。

「戻りましたー」

 ん?

 先生の立っている傍には大きな鏡があった。

「皆さん、よく頑張りました」

 先生は笑顔で言って、鏡を軽く小突いた。

 その途端、鏡が消える。

「さて、結果は帰ってからにしましょう。皆さん召喚円に」

「あのー、それで」

 肩に掴まっているフクロウの足にぎゅっと力が入る。

「全部分かってます」

 ニコニコと笑って先生は言った。

「その上で帰ってから、と言いました」

「えーと、つまりー……」

 オレは恐る恐る言った。

「こいつ、連れ帰ってOKってことでいいのか?」

「そう言いました」

 フクロウは左肩の上で興奮してバサバサバサバサやっている。羽根が顔に当たって痛ぇ。

「落ち着けおい、分かったから!」

「いける! いける! おにいちゃんたちといっしょに! もっとあったかい、もっとひろいところに!」

「はい、では、入ってください。使い魔君は羽根を出さないように。羽根だけこの世界に取り残されますからね?」

 フクロウは慌てて羽根を引っ込める。

 全員が、青白く光る模様……召喚円の中に入ったのを確認して、先生はぱん、と手を叩いた。

 再び青白い光が円柱状に伸びあがり、身体が宙に浮いて……。


 グラウンドに戻ってきた時には、前みたいに気絶せずに済んだ。

 光がグラデーションかかって、浮き上がった身体が降下する感覚。足が地面について、頭がくらくらして座り込んでしまったけど、気絶はしなかった。

 ハルナさんは当たり前のように立っている。

 おっさんは頭を振りながら起き上がろうとしていたけど、那由多くんは見事に気絶している。

「起きてくださいね」

 先生の声に、那由多くんははっと目を開けた。

「え? あ? 全部夢?」

「で片付けられるなら貴方は相当察しが悪いです」

 那由多君はあちこち見回して、オレの肩にいるフクロウ(死霊憑き)を見て、夢ではなかったと判断したらしい。

「では、教室で今回の採点をしましょう」

 正直、明日にしてもらいたい。

 昨日の夜はアンデッドたちの伝言を伝えるために一晩中書いてたんだ。眠い。

 だけど、がそう言った限り、無理だろうなあ……。

 教室に入って、席に着く。

「今回の抜き打ちテストは、初めての実践でどう動いたかを見ています」

 先生はホワイトボードに文字を書き始めた。

 『準備・集合時間』『情報収集』『観察』『解決法』『特別点』。

「10点満点で計算します。まず、準備・集合時間ですが、トップは風岡さん、9点です」

「ぼ、僕の方が早かった!」

 那由多くんが不服申し立てをする。

「早いだけではありません。時間内に必要なアイテムを判断して準備し、集合する。大沢君は常に所持を義務付けられている腕時計とスマホすら持ってきませんでした、早いことは必要です。が、早いからと言って正しいとは限りません。8点が神那岐さんです」

「い、一番遅かった!」

「もう一度同じ言葉を繰り返されたいですか?」

 先生に笑顔で言われ、那由多くんは引っ込む。

「確かに集合時間は一番遅かった。ですが、準備としては正しいです。勇者支給セットを完璧に揃え、聖水なども準備した。確かに不要なものも多かったですが、結果として役に立ったものが多かった。その為8点です。土田さんが6点。勇者支給セットを全部揃えていなかったのでこの点数です。最後に大沢さん、1点」

「どうして!」

「支給セットを何一つ持っていなかった」

 那由多くんはぐうの音も出ない。

「情報収集では、風岡さんと神那岐さんは8点となります、協力して情報を収集し、事件解決に必要な情報を集めた。土田さんは、相手に警戒心を抱かせず、必要な情報を集めた。ですから、土田さんは9点。大沢君は1点。土田さんの陰に隠れて、情報を聞くことすら嫌がった」

 那由多くんは俯いた。

「観察は、やはり風岡さんが強いですね。しかし、神那岐君も強かった。墓を暴くと言うのは感心できませんが、それによって原因の存在を明らかにして、しかも交渉に持ち込んだ。神那岐さんは9点」

「見てたように」

「見てました」

 先生はぱちん、と指を鳴らす。

 大きな鏡が現れた。

「これは『観察鏡』と言います。校長の許可を得た場合のみ使えるアイテムで、自分の担当の生徒の様子を映し出せます」

「ぷ、プライバシーの侵害だ!」

 那由多くんがひっくり返りそうな大声を張り上げた。

「ですから、校長の許可を得た場合のみ、です。今回のような異世界に教師が同道しない場合、これを使って見守ることになっています」

 那由多くんは先生を睨みつける。

「なら、最初から言ってくれれば……!」

「初めての冒険に、保護者がついていれば意味がないでしょう。かと言って見守る人間がいなければ危険なことこの上ない」

 確かに。

 もし今回の事件、オレの肩のフクロウ……死霊使役者ネクロマンサーが悪意がなかったから無事収まったけど、もしこいつが村を潰そうとしていたんなら、あれだけの数のゾンビやスケルトンと戦わなければならない羽目になったら大変だったろう。何せオレたち、一人としてまともに魔法を使えない。唯一仕える那由多くんはあの調子だったし、オレの持っていた聖水だけじゃあ到底足りなかっただろう。

「では、再会します。解決法。これは断トツで神那岐さんです。勇者と言えば敵と戦うのが仕事だと思われがちですが、実は戦わずに済む方が有効な解決法です。神那岐さんは戦闘に持ち込まず、相手の話を聞いて、そしてスマートに事件を解決した。よって10点。この件に関して異論は?」

 先生がこっちを見回すのに、ハルナさんは無言で頷き、おっさんは静かに「ありません」と言い、那由多くんは……また机に突っ伏して机をどんどん叩いた。

「そして、特別点……魂を呼び戻せる死霊使役者ネクロマンサーに、使い魔の肉体を与えて、新しい生を与えた。これは賛否両論あるでしょう。死霊の死霊使役者ネクロマンサーに命を与えるなど……という人もいるでしょう。しかし、私はこの行為に特別点を与えたいと思います。人を助けるのが勇者の仕事なら、かつて人だった人を助けるのも勇者の仕事です。村一つ分の死者の心残りを解決し、長い間一人彷徨っていた死霊を救ったのは勇者の仕事と言えるでしょう。これで神那岐さんはプラス5点」

 先生はキュキュキュっとホワイトボードに書き上げた。

「大沢さんは4点。土田さん22点。風岡さん30点。そして神那岐さん、45点。今回の抜き打ちテストの結果は以上です」

 那由多くんは自分のあまりの成績に頭を抱えていたけど。

 オレ、トップ?

 今まで最下位だったオレが、合計点45点?

 マジか。

「やっぱりおにいちゃんはかしこいよ! えらいよ! りっぱだよ!」

 フクロウが興奮して叫んでいた。

「分かったから肩の上で踊らないでくれ……羽根が当たるから」

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