第7話・さいごのひとり が あらわれた!
ナビをおっさんに頼み、警戒を那由多くん(一馬くんと呼んだらものっすげえ嫌がられた)に頼んで、オレは木の枝を頼りに森を進む。
幸い、最初に出っくわしたゴブリンと野犬以外に出てくるモンスターはいない……っつーかゴブリンはともかく野犬はモンスターか?
「おっさん、最後の一人はまだ進んでるか?」
「ああ、結構なスピードで学校に向かってるよ」
「ふ……闇の
「はいはい一馬くんは周囲の警戒を頼んでるからね」
「流! 那由多! 僕の真名だ!」
那由多でも一馬でもどっちでもいいけど周りを頼むって何回言ったら分かるんだ。
……うう、中学時代を思い出す。
「ん?」
後ろからおっさんの疑問形が聞こえてきたので、オレは振り返らず聞いた。
「何かあったか?」
「……止まった」
「止まった?」
学校へ真っ直ぐ移動していた光点が突然動かなくなったのだという。
「まずいぞ」
「何がまずいのだ」
「分かんねえかな」
那由多くんのエラそうオレ以上物知らずな発言に、オレは歩調を上げながら言った。
「今まで真っ直ぐ進んでいたのが止まるって原因は限られてくんだよ」
「そうだね。動く必要がなくなったか、動けなくなったか」
やっぱりおっさんは知識を持ってる。
「まだ学校に辿り着いていないのに動かなくなった、ということは、動けなくなった方だ。私たちのように化け物に襲われたか、何処か怪我でもしたか……どちらにせよ、最後の一人は危ない」
「で、最後の一人がいなければ合格できないオレたちは、急いで向かわないといけない、そう言うわけだ」
「む、わかっ……」
途中で止まった言葉に振り向くと、那由多くんは突っ立っていた。
「どうした、行くぞ」
「動けなくなった、危ない、ということはだ」
「おう」
「危険がそこにあるということではないのか?!」
「オレらがゴブリンや野犬に襲われた話はしただろーが」
「僕は見ていない見ていない見ていない」
「連呼せんでいい。もし本当にモンスターに会ってたら那由多くん逃げるか食われるか、どっちにしても那由多くんはあんな所に呑気に突っ立ってはいられなかった」
「ま、魔物が出るという場所に赴くと言うのか」
「ゴブリンが出たこの森に他のモンスターがいてももう驚かねーよ」
「わ、我が守護者よ! 我に力を! 我が持ちうるべき力を我に授けよ!」
当然、那由多君の望んだような現象は何も起きない。
「闇の貴公子が守護者を呼ぶなよ」
「あ、あの受付が力を持っていて……どうして僕が……!」
「人は人、自分は自分だろーが」
「ここで文句を言っていても始まらないよ、えーと、那由多君。君だって合格しなきゃまずいんだろう?」
「ふんっ! 我には闇の加護がある!」
「じゃあ今すぐ出してみろよ」
「ぐぬっ」
「じゃあ闇の御加護に頼らずに話を進めるぞ。こっちは三人で、とりあえず火種もあるから、威嚇くらいはできる。野犬やゴブリンだったとして、木の枝でも鼻の穴に突っ込まれれば相手は怯む。とにかく三人しかないけど数に頼るしかねー」
ゲームで培った知識を頼りに、オレは何とか脳みそから作戦を絞りだす。
「ここから場所が近いから、少し急ぐぞ。でも走らない方がいい。あっちでモンスターと出っくわしてこっちが体力切れだったら行く意味がない。ニートとおっさんと中二病パーティーには致命的なまでに体力がない」
「……む」
「そうだねえ」
「だから体力温存で行く。なんか意見があったら聞くけど」
「頼りになるねえ、神那岐君は」
土田のおっさんが感心したように言った。
「いいリーダーになれるよ」
……また、なんか嬉しくなった。
進む方向から、騒がしい音が聞こえてきた。
何てゆーの? 豚が浮かれたらこんな鼻歌になるだろうっての。
豚、という単語に、オレはゲームに出てくるモンスターの一匹を思い出した。けどおっさんと那由多君には言わない。おっさんはともかく、那由多くんは怯えて逃げ出す可能性もある。
振り向いて、「黙れ」の合図をすると、おっさんは真剣な顔で頷いた。那由多くんは逃げ出したそうな顔をしているけど、まだそこにいた。
そーっと、そーっと近付く。
微かに、錆びた鉄の臭い?
いや。
血?
まずいな。
オレは木々の間からそちらとそーっと覗き込む。
ビンゴ。
そこにいたのは、豚面のデミヒューマンモンスター、オーク。
三匹が棍棒を持って囲んでいるのは、あの真面目可愛い彼女。
彼女は、足から血を流していた。
血の臭いはあそこからか。
出血はそんなに激しくなさそうだけど、あの棍棒で殴られたら骨が折れている可能性もある。
三対三だが、立派な武器がある分あっちの方が有利。そもそもオークって序盤のモンスターにしては結構攻撃力高かった覚えがある。
そして、オークはおねーちゃん大好きモンスターだから、彼女にあれやこれやをしようとしているんだろう。
エロマンガ的には読みたいが現実には見たくない。
となると、不意打ちしかない。
木の枝じゃどうにもならない。何かいいものは……。
あった。
オレの拳三つ分くらいはあろうかという石。
そっと、慎重に、持ち上げる。
ずしっとした重み。
こればいい武器になる。
オレは、そーっと、そーっと、足音を殺してオーク三匹の真ん中を選んで……。
脳天に石を叩きつけた。
「ぴぎゃあ!」
オークは棍棒を放り出す。オレはそれを拾うと即座におっさんに投げ渡した。おっさんはおっさんなりに棍棒を振り回して戦場に突入してくる。那由多くん? 知らん。オレが殴ったオークは倒れたまま動かない。いきなり仲間を倒され、棍棒で殴りかかられたら、人間を獲物として大好きなオークでもたまらないはずだ。ばらばらと逃げ出した。
殴ったオークはまだ動かない。気絶してるか、死んだのか。どっちにしろ、早くここを離れないと。
「那由多くん、終わったから!」
半分後ろを向いていた那由多くんが、ギギッとこちらを向いた。
「闇の眷属は失せたか」
「いいから早く! おっさんと一緒に彼女連れてくの手伝って!」
「う、うむ、やむを得まい」
「助ける必要なんか、なかったのに」
ぽつりと呟いた彼女の声が聞こえたが、オレは敢えてスルーして、おっさんと那由多くんとで彼女を両側から抱え上げて、まだ気絶しているオークがいる場所から遠ざかった。
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