第2話・え? そんな美味しい話があるの?
「求職中かあ」
おごってやると言われて入ったファミレス。
オレはハンバーグ定食。博はチョコレートパフェを頼んで、店員が行ってから、事の次第を話した。
博も斡旋所の担当のようにかなり難しい顔をした。
「履歴は、高卒、七年何もせず、資格もなし、特技はゲームと」
「なんかないか?」
「まあ、まずないなあ」
十年ぶりに会った友達は、問答無用でぶった切ってくれた。
「なんせ本人の仕事をしたい理由が「家でうだうだしてるためには職が必要」なんだから、会社側としてもお断りしたいと思うよ。そこまでやる気のない求職は初めて聞いた」
「十ヶ月で思い知ったよ。オレの考えが甘かったって」
「だろうね。せめてパソコンの資格でも取っておけば、何処か入力のバイトでも見つかったんだろうけど」
「ゲーム関係の会社とか、ダメかな」
「ああ、駄目駄目」
博は首を横に振る。
「ただゲームが好きなだけのヤツを入社させる会社はないよ。そう言う人はお金出してゲーム買ってくれればそれでいいって。会社が求めてるのは、面白いゲームを作りたくて頑張れる人なんだから、お前みたいにゲームしたいだけのゲーオタはまず入れない」
「うああああ」
オレは頭を抱えた。
ゲーム好きだから、ゲーム系の会社なら大丈夫じゃね? とか考えていた。
これも甘い甘い考えだったんだ。
「じゃ、じゃあ、肉体労働系は? あの、工事とか、車の案内とか」
「だから無理だって。あのなあ、七年家に引きこもってゲームやってた人間が、そんな重労働に耐えられるわけないだろ」
「ああああああ」
オレはテーブルに突っ伏した。
覚悟はしていたけど、それでもまだまだ甘すぎただなんて……!
「もう一年延ばしてもらって、資格とか取れば……」
「オレのかーちゃんだぞ」
突っ伏したまま、喉の奥から声を絞り出す。
「帰ってくるの遅かったら、何も言わず飯抜きにするあのかーちゃんだぞ。今更泣きついたって、「あんたが悪い」って追い出されるのは目に見えてる」
「まあ、雄斗の母さんだからなあ」
博とは幼稚園の頃からの付き合いだった。家が近所で同年代の子供がいなかったんで、いつも転がり回って遊んでた。中学二年の時、親の都合とかで引っ越して行ったっきり連絡も取っていなかったけど、それまではオレん家にしょっちゅう遊びに来てたから、かーちゃんの恐ろしさはよく知ってる。
「このままじゃスーツ姿のホームレスだ。ゲームもできない家もないなんて、オレ、耐えられねえ……」
「お前が耐えられないのは家がないよりゲームがないだろ」
「だって、好きなんだ、ゲーム」
「ゲームねえ……うーん……」
難しい顔をしている博に、オレのカンがピーンと来た。
「博、お前、何か心当たりあるのか?」
「え?」
「何かいい情報持ってるよな? いや、持ってる。そう言う顔だ。十年会ってなくても幼なじみなんだ、それくらいは分かる。出し惜しみしないで教えてくれ。何か手があるんだろ?」
「相変わらずいい勘してるなあ」
呆れたように博はオレを見た。
「ってことはやっぱりあるんだな何か
「職もないのに出世できるかよ」
はあ、と溜め息をついて、博は横を向いた。つられて見ると、そこにはハンバーグの乗ったプレートを持った店員さんが。
「とりあえず食べろよ」
博はそう言ってくれた。
「その顔色だと、最近ろくに食べてないし寝てもないだろ」
「……すまん、頂く」
久しぶりのお肉……。
かーちゃんはタイムリミット半年を切った辺りから、明らかにオレの食事を貧しくした。肉なんて滅多に出ない。職が見つからない人間にはこれでいい、と言われているようなもの。
そしてリミット二ヶ月切って愛するゲームや漫画を超安値で売り払われる夢を見て飛び起きることが多々あって、ろくすっぽ寝てもいなかった。
「職業訓練校って知ってるか?」
「しょふひょーふんれんほー?」
「食べながら喋るなよ」
「わふい」
ハンバーグを飲み込んで、俺は聞き返す。
「職業訓練校って、なんだ?」
「お前、本当に何も知らないで求職始めたんだな」
「説教は後で聞くからとりあえずそれを教えてくれ」
「まあ、就職に必要な資格やスキルを取る為の学校だよ。俺、今、そこの教員やってる」
「学校かあ」
オレのテンションはがっくりと下がった。
「勉強しないで職に就けると思うなよ」
「……すいません」
謝ってから、俺は首を横に振った。
「いやダメだ。オレ、食費も削られてるのに、今更学費だなんて」
「無料」
「そう無料……無料?!」
身を乗り出して危うくハンバーグの真上に手をつきそうになり、慌てて避けて、オレは博の顔を見た。
「ていうか、職が見つからない人が行く学校だから、授業料は無料。逆に訓練費が出る」
「訓練費? オレがもらえるの? いくらくらい?」
「そう、お前がもらえるの。一日に付き三千円程度は」
「ちょっと待て、日給三千円ってことはかけるの三十日で……三十日で……」
「九万な。その他に補助金とかも出るから十万くらいはもらえる」
「マジか」
「学校休まなきゃな」
中学の頃からゲームに夢中で学校休んでたオレには厳しい言葉だった。
「……ちなみに、その学校はどれくらいいられるんだ?」
「一年。一年間、訓練費をもらいながら職業訓練を受けて、職を探す。ちなみにオレの勤めてる学校は全寮制だけど、寮費とか食費とかもお安くなる」
「なんでそんなに」
「国の機関だからな」
博は当たり前のように言った。
「斡旋所とかでパンフとかポスターとか見なかったか? 結構色々出てるはずだけど」
「いやー……待ち時間はスマホでゲームしてたから……」
「多分、お前のやる気が見えなかったから担当も紹介できなかったんだろ」
「いや今はやる気。マジやる気。とことんやる気」
食いつくオレを片手で押さえて、博は遅れてきた自分のチョコパフェを受け取った。
「とりあえず食えよ。ひもじいとろくな考えも出ないぞ。とりあえずお前は腹を満たす。俺は甘味で癒される。話はそれからでいいだろ」
オレはかーちゃんに土下座した。
「すいません! あと一年待ってください!」
「今更そんなことが通るとでも思っているのかい?」
「いや、そのフライパンはこのパンフを読んでからでも遅くないから」
「国立狭間職業訓練校……?」
疑わしそうな目で見るかーちゃんに、オレは必死で博から教えてもらったことを言った。
博が教えている狭間訓練校は、卒業生の就職率は百パーセントだという。
一年間、オレは学校で訓練を受けて職に就く。その一年を待ってくれと頼んだ。
「勉強嫌いのお前が耐えられるわけないだろうに」
「だから最後のチャンスを下さい! 学校辞めたらもう家を追い出される覚悟はできてます! 死ぬ気で勉強して職に就きます! だから!」
「……これは誰から聞いたんだい?」
「安久都の博。中学の時引っ越してった」
「ああ、博くんかい」
かーちゃんの機嫌が上昇傾向に入った。
「今その学校で教員やってるって言って、このパンフ渡してくれた」
「あんた、同級生に勉強を教わることになるんだよ」
かーちゃんは再び戦闘モードになってオレを見る。
「堪え性のないあんたがそれに耐えられるのかい?」
「もう他に手がないのは分かってる! だから、オレに最後のチャンスを! ここがダメだったら追い出される覚悟はできてる!」
「本当だろうね」
「本気だ」
「約束破ったらどうなるか分かってるだろうね」
「家を追い出されて持ち物全部売り払われる」
「途中で帰ってきたりしたら」
「帰る家はないと覚悟してる」
「なら、やってみな」
かーちゃんが……期限延長を許してくれた……?
「でも、あんた説明ちゃんと読んだんだろうね」
え? と振り返ったオレに、かーちゃんはパンフの一部を指した。
『入学試験があります』
適性試験があると書いてある。申し込みの期日は一週間後、受験日は一ヶ月後。
「これに合格できなかったら、……分かってるね?」
反論を許さない顔で、かーちゃんは笑った。
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