入学式③
ニコリとも笑わない彼は無表情で、私を見下ろしている。
瑠璃色の瞳には困惑する私の姿がハッキリと映っていた。
「えっ?あ、えっと……やっぱり、紺色に見えます?」
「ああ」
「あ、あははは……そうですよね。入学説明会の時は水色に見えたんですが、私の気の所為だったみたいです……」
「?」
両手の人差し指をちょんちょんと合わせ、愛想笑いを浮かべる私に、彼は僅かに首を傾げる。
そして、何か考えるような動作を見せたあと、納得したように頷いた。
一人で自己完結した彼は何を思ったのか、私の頭を鷲掴みにする。
えっ?えぇ……!?何事!?何で頭を掴まれているの!?もしかして、怒らせちゃった!?
「あ、あの!私、何か気に障ることでも……」
「────あれは男子寮だ」
私の言葉を遮るように発せられた言葉に、思わず『はぁ?』と言ってしまう。
困惑気味にパチパチと瞬きを繰り返す中、黒髪の美青年は鷲掴みにした私の頭を無理やり動かし────南東方面に向けた。
遠くてよく見えないが、見覚えのある水色の屋根がうっすら見える。
『迷子』という単語が脳裏を過り、ダラダラと冷や汗を垂れ流した。
「あれが女子寮だ」
抑揚のない声で告げられた真実に、私は嘆くしかなかった。
この歳にもなって迷子なんて……恥ずかしいことこの上ない!しかも、迷った末に辿り着いたのが男子寮って……もっと他にあったでしょう!
この広い敷地内で男子寮をピンポイントに探し当てるなんて、破廉恥な女みたいだわ……。
いや、だって……!!この学園、無駄に広いんだもの!!校舎に、寮に、練習場まであるのよ!?迷うに決まっているわ!
なんて言い訳を並べてみるものの、羞恥心は消えず……私は顔を真っ赤にしながら、黒髪の美青年と向き合った。
『穴があったら入りたい』という気持ちになりながら、深々と……本当に深々と頭を下げる。
「ご丁寧に教えて頂き、ありがとうございます。そして、ご迷惑をお掛けして申し訳ありません。何かお礼を……」
「いや、別に構わない。こう言ってはなんだが、俺は最初お前を男子寮に忍び込もうとする痴女かと思っていた。そんな
男子寮に忍び込もうとする痴女……凄くショックだけど、状況的にそう見られてもおかしくはないわ……。実際、男子寮に忍び込んで、大貴族と性行為に及び、妊娠して玉の輿を狙う女性は何人か居るから……危機感を覚えるのも無理はない。
過去に何件かそういう事例もあったみたいだし。
『私はそうじゃない!』と叫びたい気持ちと、不安にさせてしまった罪悪感に蝕まれながら、私は瑠璃色の瞳を見つめ返した。
吸い込まれそうなほど美しいラピスラズリの瞳には何の感情も浮かんでいない。
「では、せめてお名前だけでも教えてください。私はメイヤーズ子爵家の次女である、シャーロット・ルーナ・メイヤーズです」
自覚がなかったとはいえ、奇行に走る私を止めてくれた恩人の名前が知りたい……と願い出る。
すると、黒髪の美青年は淡々とした口調でこう答えた。
「俺は────グレイソン・リー・ソレーユだ」
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