恋焦がれた世界へ
水縹❀理緒
恋焦がれた世界へ
「あ」
いくらかして、跳ね返ってくる自分の声。
ソレに、そっと耳を塞ぎながら空を見上げた。
青く、澄んだ、目の前に広がる美しい世界は
私の瞳に映りこんだ。
こんにちは。
と心に呟いて、目を閉じる。
これは、誰かと一緒になれる方法。
空を翔ける、小鳥のようになれる方法。
空知らぬ雨が降っている時
私は、こうして、世界へ溶け込んでいくのだ。
ゆるり、目を開けると
そこには愚かな黒と、それを飲み込むように取り囲う白い塔達が有った。
いつもなら、思い描いた明るい世界へ羽ばたいて行けるのだが…
どういう訳か、悲しい青の広がる場所へ来てしまったようだ
今日は、帰ろう
瞼を閉じようとした
「私には、何も無いの…」
か細い、今にも消えていきそうな声に
私は呼び止められた気がした。
「ねぇ、私も混ぜて」
そう呟く黒は、白い塔へ手を伸ばす。
塔の中には、様々な人影があった。
しかし、一向に外の彼には誰も目を向けない。
パリン。
何かが砕ける音がした。
「どれだけ色を重ねても、私は皆のようにはなれない」
ポタリポタリ。
彼の周りに、水溜まりが出来ていく。
違う。
それは、違うよ。
大丈夫、アナタはアナタなんだ。
他の誰でもない、アナタなんだ。
"誰か"にならなくていいんだよ。
肩をそっと叩こうと
伸ばしかけた私の手のひらが、黒く染まっていく。
「ねぇ、私を見て?」
孤独な黒の、助けを求める見えない瞳は
私の方へと向けられた。
何故。
「私を"私"として、見て」
恋焦がれた世界も自分と同じと言わんばかりに、地に広がる透明に映し出される。
雨が、降った。
気がつけば、白い塔の外で私は地べたに座り込んでいた。
暗く、重い空は
私を慰めているのだろうか。
「…ただいま」
そう呟いて、私はそっと目を閉じた
【終】
恋焦がれた世界へ 水縹❀理緒 @riorayuuuuuru071
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