第21話 二人羽織(後編)
三人で正門を飛び出した。
大群の多くはゴブリンさんで、目が黒く濁って正気を失っている。
「わたくしからいきますわよ! ――ボーンヘッド!」
ベルちゃんが杖を振るとガイコツさんの霊体がほとばしった。
ドドドドドドドドッ!
ガイコツさんたちはゴブリンさんたちを吹き飛ばし、大群の間に隙間ができた。
「クーちゃん! あそこに浄化の光を撃ち込んで! まずは
「わ、わかった! む~ん……!」
スティックを構え、集中する。
「……う、ううん」
でも、狙いが定まらない。
ゴブリンさんの数が多すぎてすぐに隙間が埋まってしまうのだ。
「ご、ごめんミーちゃん、ちょっとムリかも……」
「う~ん……ベル、もっと威力を上げられない?」とミーちゃん。
「や、やってみますわ! はあっ!」
ベルちゃんは歯を食いしばって次々と魔法を放つ。
傍目にもすごい威力なことがわかる。
でも、一時的に隙間を作ることはできてもすぐに塞がれてしまった。
「ローブの力で威力は上乗せされていますのに……わたくしなんて役立たずなのですわ……」
悔しそうに歯噛みする。
「……ベルちゃん」
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……
地鳴りのような音を響かせて
このままでは数分と経たずにわたしたちごと街は呑まれてしまうだろう。
「どうにかしなくちゃ……どうにか……」
わたしひとりの力じゃムリだ……。
かといっていくら連携したところで風穴を空けてもすぐに塞がれてしまう。
いったいどうすれば……。
「……あっ!」
頭の中に電気が走った。
これしかない!
「――ベルちゃん!」
「……お姉さま?」
「ちょっとごめんね!」
「……えっ!?」
ベルちゃんのローブをたくしあげて中に入り込む。
「ちょっ!? あ、あのっ、お、お姉さまっ!?」
「大丈夫! このローブおっきいからふたり入れるよ!」
「い、いえ、そのようなことを言っているのではなく……」
「ふん!」
「ああっ!」
ズボッ、と襟から頭を出した。
これでわたしの後ろにはベルちゃんの顔がある。
二人羽織みたいだ。
「お、お姉さま、うれしいですが、今はそれどころでは……」
「ううん、こうすることが必要だったんだよ。……うん! やっぱり力がみなぎってくる! それにベルちゃんのぬくもりを感じる!」
「……あ! も、もしかしてお姉さま、『お着換え』を!」
「うん! これなら『お着換え』したままベルちゃんも戦えるでしょ? 役立たずなんかじゃないよ、ベルちゃん!」
「お姉さま……」
グスッ、と鼻をすする音が後ろから聞こえてきた。
「はぁ……はぁ……ああ……ふああ……」
それになんだかはあはあ言っている。
「もう、このくらいで泣くことないんだよ?」
「い、いえ、お姉さま、こ、これは、その……」
「あ」
もし、この攻撃を失敗しちゃったら、街も、わたしたちも死んでしまうだろう。
――でも、わたしたちなら!
「よし! じゃあ攻撃するよ!」
目をつむり、集中して魔力を高める。
「む~ん……!」
「はぁっ! はぁっ!」
「んんっ!?」
ビクンッ! と飛び跳ねてしまった。
後ろから脇をまさぐられたのだ。
「ベ、ベルちゃん!?」
「な、なにもしていませんわ! ええ、なにもしていませんとも!」
「あっ!? んっ!?」
ベルちゃんの手は止まらず、脇からお腹からお胸までなめくじのように這いずっていく。
まるで満員馬車に出没するという痴漢さんみたいだ。
「あ……だ、だめ……そこは……あ……んはぁっ!」
「はぁっ! はぁっ!」
「ベ、ベルちゃん……どうし、て……?」
「わたくしではありませんの! そうこれは敵の策略なのですわ!」
「そ、そうなの……?」
「おのれ敵め! お姉さまになんたる仕打ちを! ゆ、許せませんわええいもみもみ! もみもみ」
「ふああっ!」
「嘘つくなベル! 早く! 早く!」
ミーちゃんの声にハッとして前を見る。
もうほんとすぐそこにいた。
「――い、いきます!」
左手のスティックを天にかざす。
わたしが左手を上げるともちろんいっしょの服を着ているベルちゃんの左手も勝手に上がる。
「ホワイト・サンダー!」
今度はベルちゃんの番、右手の杖を天にかざす。
ベルちゃんが右手を上げるともちろんいっしょの服を着ているわたしの右手も勝手に上がる。
「ブラック・サンダー!」
ゴロゴロゴロゴロ……
突如として雷鳴がとどろき……
――ピカッ!
月から白と黒の雷がほとばしり、それぞれ左手と右手の武器に直撃した。
スティックが、杖が、金色の輝きを帯びる。
月の力を吸収したのだ。
わたしたちの体も月の力を宿して輝きだす!
「月の聖女の、美しき魂が!」
わたしが叫んだ。
「邪悪な心を打ち砕く!」
ベルちゃんが叫んだ。
ローブの中で手をつなぎ、ふたり同時に左右の武器を振り下ろす!
「「ムーンライト・マーブルスクリュー!」」
白と黒の雷がまるで双竜のように絡まり合って大群に襲いかかった
ズズゥン……!
衝撃で地面が揺れると共に、光に包まれた大群さんたちが消滅していく。
そして――
キラキラキラキラ……
荒れ果ててしまった大地が彩りを取り戻していく。
「やったぁ!」
ミーちゃんが大きくガッツポーズを決めた。
「…………」
ベルちゃんは呆然としている。
「こ、これをわたくしがやったんですの……?」
「ベルちゃん!」
「お、お姉さま……」
「ベルちゃんといっしょじゃなきゃこのピンチは乗り越えられなかったよ。いっつもベルちゃんには助けてもらってるんだから、もっと自信を持って!」
「……お、お姉さま…………お、お姉さまぁっ!」
「わっ!?」
二人羽織状態で抱きつかれるとバランスを保てない。
「ちょっ……わっ……わっ……ぐえっ!」
ズシーン! と倒れてしまった。
「ああお姉さま! クンカクンカ! はあはあ! お姉さま!」
「ベルちゃん! 動けない! 動けないから!」
「はあ! はあ! んほお!」
「ミーちゃん! 助けて! ミーちゃん!」
「ん~、まあそれくらいはご褒美あげてもいいんじゃないかな」
「だ、だけど、ぐるし! ぐるし!」
「はぁ! はぁ! ああ! おお…………」
――ザクッ!
「あ」
お団子が地面に突き刺さった。
ベルちゃんだ。
「ミーちゃん、お団子、お団子食べさせて」
「ほいほい」
「ありがとう! もぐもぐ……」
お団子を食べると串にはこう書かれていた。
――そろそろグレーチェのところに行きませんか?
「街の皆さんに挨拶しなくていいかな、ミーちゃん?」
「あれだけの規模の街で正体知られちゃったわけだし、さすがに戻るのはマズイかな……このまま行った方がいいね」
「うん、そうだよね……」
興奮し過ぎていつのまにか気絶してしまったベルちゃんからローブを剥ぎ取り、折りたたんでその場に置く。そして小さな体を背負った。
ベルちゃんは下着姿だけど、後で着させればいいや。
「――お~い! 聖女様~!」
声がして振り向くと、街の見張り台の上に町長さんがいた。
「ククリル様はワシの障害物競走が育てたんじゃあ~!」
町長さんは
と、正門を見ると、街の人たちも様子を見にやってきていた。
「盛大に感謝の宴を開かせていただきますぞ~!」
町長さんの呼びかけにわたしたちは顔を見合わせる。
「ミーちゃん、行こう!」
「おっけ」
並んで歩きだす。
――居心地のいい街だった。
だけど、わたしたちは留まるわけにはいかない。
まだ危険が過ぎ去ったわけじゃないんだ。
「むん!」
いざ、フルーチェさんのお城へ!
(つづく)
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