第21話 二人羽織(前編)
「ミーちゃん、またお洋服屋さんを見つけたよ!」
「ええ……」
微妙な顔をしているミーちゃんとベルちゃんを連れてお洋服屋さんへと向かった。
ギイイイイ……
木製の古い扉を開けてお店の中へ。
中は薄暗く、ガイコツさんやミイラさんがぼんやりと浮かび上がる。
「……ガイコツさんに、ミイラさん?」
「ここは魔法使い装備専門店のようですわ、お姉さま」とベルちゃん。「あのガイコツたちに命は宿っておりませんのでご安心くださいませ。……それにしても見事な品揃えですわね……水晶に杖……かなりのものですわ……」
ベルちゃんは笑みを浮かべて楽しそうに物色を始めた。
ベルちゃんにとってはここがわたしにとってのお洋服屋さんみたいなものなのかもしれない。
「このローブ、類まれなる逸品ですわね……」
ベルちゃんがローブを手に取った。
焦げ茶色で、とってもおっきな魔法使いさんのローブだ。
「このローブからは並々ならぬ力を感じますわ……」
「そうなの?」
「おや、わかるのかい。若いのにたいしたもんだ」
奥からいかにも『ザ・魔法使い』という格好をしたおばあさんがやってきた。
腰が90度に曲がって杖を付いている。
たぶん店主さんだ。
「あんたが持っているのは魔力増強のローブでね、そんじょそこらの安物とはわけがちがうよ。こいつを着た日にゃあそれはもう……イーッヒッヒッヒ! ……うっ、ごほっ! ごほっ!」
おばあさんは特徴的な笑い方をしたかと思ったらむせ始めた。
「ね、ベルちゃん、それすごいローブなんだって」
「ええ、わたくしにもわかりますわお姉さま。店主の言うことに嘘はありませんの」
「そんなにすごいんだ! わたし、着てみたいかも!」
「……いえ、申し訳ありませんがこれはわたくしに着させてくださいませんか?」
「え?」
「これを着れば、もっとお姉さまのお役に……」
「……ベルちゃん?」
ウー! ウー! ウー!
と、警報が鳴り響いた。
「……これは?」
「や、
「
「そうだよ! この先には魔王軍幹部の城があってそこから
突然おばあさんは天井から吊られているガイコツさんみたいに固まってしまった。
「ど、どうしたんですか? 動きを止めるパフォーマンスですか?」
「こ、腰が……」
「あ」
おばあさんの腰はそれはもう見事な直角だから、動けなくなってしまったのだ。
「くうぅ……あたしゃまだ死にたくないよ……!」
「…………」
ミーちゃんとベルちゃんを見る。
ふたりはうなずいてくれた。
「いえ、安心してくださいおばあさん」
「……あ?」
「わたしたちが、
「や、
「いえ、人間元気があればなんでもできます!」
「……嘘を言っている感じじゃあないね。そこの若いの、本当なのかい!? 本当に
「ええ、お姉さまにかかればちょちょいのちょいですわ」
「……とても信じられないが、少なくともあんたらはできると信じているようだ。よし、そのローブは貸してやるよ」
「え、いいんですの?」とベルちゃん。
「
「……わかりましたわ!」
半信半疑ではあったものの、強力な装備を貸してくれた。
おばあさんのためにも、絶対に
*
正門に着き街の外を見ると、黒々としておどろおどろしい物体が津波のように押し寄せてきていた。
「なんて規模……」
ミーちゃんが青ざめる。
「早く! 早く外へ出させて!」
と、背後から声が聞こえた。
街の皆さんと憲兵さんだ。
「街にいたら死んじゃうわ! お願いだから外へ出させて!」
「いいから下がって!」
「おい! お前らは俺たちを殺す気か!?」
「ちがう! 外の方が危険なんだ!」
「うるせぇ! 街にいたって危険じゃねえか!」
「…………」
憲兵さんが必死に外へ出ていく人を食い止めている。
「おしまいじゃあ! もう汗と涙で輝く体操服を見ることはできないんじゃあ!」
町長さんも錯乱して体操服にブルマという格好で泣きじゃくっている。
「……ううん、まだ終わりじゃない」
ムーンライトスティックを取り出した。
「終わりになんて、させない!」
「君たち! 外は危険だ! 下がりなさい!」
憲兵さんがやってきた。
「いえ、わたしたちはいきます!
「な、なんだって?」
「は、はうあ!?」
町長さんがビクッとして飛び上がった。
「どうしました、町長?」と憲兵さん。
「も、もしや! その
「そうです! わたしが月の聖女です!」
「お、おお! やはり!」
どよめきが起きる。
町長さんはワナワナ震えている。
「彼女が月の聖女……? 本当なんですか町長!?」
「もちろんじゃ! そうでなければこのような街に月の
「い、いや、そう思っていたのならなぜ景品になんか……」
「ええい! とにかくここは聖女様にお任せするんじゃ! 皆を避難させるのじゃ!」
「は、はい!」
町長さんは指揮を取って街の皆さんを広場へと避難させた。
「これで心置きなく戦えるね」
あらためて
「あ、ベルちゃん、おばあさんが貸してくれたローブはどう?」
「ええ、素晴らしいですわお姉さま。力が溢れてきますの、これならお役に立てますわ」
焦げ茶色でビッグサイズのローブを着たベルちゃんはいかにも『ザ・魔法使い』という感じではあったけど、ブカブカ過ぎて幼い子が背伸びをしているようにも見える。
でも本人はニコニコしてすごく気に入っているみたいだし、それは黙っておこう。
「――じゃあ行こう!」
三人で正門を飛び出した。
(つづく)
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