第20話 ブレザームーン爆誕(前編)

「ねえミーちゃん、あのお洋服ってなにかな? 最近街でよく見かけるんだけど」

「ふぇ?」


 ミーちゃんがアイスクリームをペロペロしながら振り向いた。

 

「ああ、あれは制服だね。ちょうど滞在中に学園の新学期が始まったみたいだよ」

「せ、制服!」


 ガーンとショックを受けた。

 制服といえば、女の子の夢のファッションのひとつだ!


「そっかぁ……あれが制服なんだぁ……」


 制服といっても学園によって様々みたいで、だから一概に「制服だからかわいい」とは言いづらいところがある。

 でもあの制服は言うことなしで、上はブレザーに下は膝丈までのスカート、シックにまとめられていてとてつもなく愛らしかった。

 かわいいオーラがにじみ出ていた。


「あの、すみません!」


 思い切って道行く女子生徒さんに声をかけてみた。

 

「はい?」


 振り返る女子生徒さん。

 これも制服の効果か、抱きしめたくなってしまうくらいにかわいい。


「あ、あの! あのあのあの! ――ふんっ!」

「きゃあっ!?」


 バッ! と女の子のスカートをめくりあげた。

 真っ白な雪原のようなパンツが白日の下にさらされた。

 おお、と道行く男の人も立ち止まった。


「なっ、なななななななななんなのっ!?」

「脱げ! 今すぐ脱げ!」

「ええっ!?」

「ちょっ!? クーちゃんなにしてるの!?」


 ミーちゃんとベルちゃんがあわててやってきた。


「そんなことしちゃダメでしょ!」

「だ、だって! 制服すっごくかわいんだよ!?」

「だからってそんなことしちゃだめ!」

「……はぁい」


 ミーちゃんは優しい笑みをたたえて女の子に向き直った。


「ごめんね、この子、その制服が気に入ったみたいでさ。もしよかったらちょっと脱いであげてくれないかな?」

「……は?」

「ミミさん……お姉さまに慣れすぎておかしなことを言っておりますわよ……」

「あ」


 口を抑えるミーちゃん。

 女の子はスカートをおさえて目をうるませている。

 ミーちゃんは、んんっ、とひとつ咳をして、

 

「いや、ごめん。ほんと怪しい者じゃないから。えっと、その制服が欲しいんだけど、どこで手に入るかな?」

「この服を……? でもこれは制服だし、学園以外では手に入らないと思うけど……」

「まあ、それもそうか……じゃあ学園の場所教えてくれる? 入学試験を受けてみるよ」

「ちょ、ちょっとミミさん!?」


 ベルちゃんが割って入った。


「まさか、入学するんですの!?」

「まあ、入るしかないでしょ。このままじゃクーちゃん、変質者として検挙されちゃいそうだし……」


 ふたりはわたしを見た。


「フシュルルルルルルッ……! フシュルルルルッ……!」


「ま、まるで獣ですわ……」

「入るって言っても一時的なものだし、ま、たまには息抜きもいいんじゃない?」

「ミミさんもうれしそうですわね」

「勉強はきらいだったけど、学校自体がきらいってわけじゃなかったからね~♪」

「ま、まあ、わたくしも学校に行ってみたいと思う気持ちもなくはありませんでしたわ……」

「よし、決まり!」


 ということで、わたしたちは入学試験を受けに行った。


   *


「はい皆さん静粛せいしゅくに!」


 教室の中、教壇の前で先生が手を叩いた。


「では新入生を紹介します。彼女はククリルさん、なんと入学試験でこの女子校きっての高得点を叩き出した天才中の天才、キングオブジーニアスです! 皆さん積極的に教えを乞うように!」


「み、皆さんよろしくお願いします!」


 深々と頭を下げる。


「その隣はミミさん。彼女は全教科ほぼ平均点で特筆すべき点はありません」


「よろしくー」


「3人目はベルンミルフィユさん。魔法学は優れていましたがそれ以外はからっきしでした。皆さん彼女をサポートしてあげてください」


「フン、お姉さまに近づく輩には容赦しませんことよ」


 三人の紹介が終わり、また深々と頭を下げた。

 内心、ワクワクが止まらなかった。

 このブレザーという制服、着ているだけでわくわくする。

 こんな素敵なお洋服に囲まれていたら、もしかしたらミーちゃんとベルちゃん以外にもお友だちができちゃうかもしれない……!


   *


 座学が終わり、お外で魔法学の授業になった。

 三人一組での模擬戦だ。

 わたしたち『ククリルチーム』の相手は『ジェンヌチーム』で、なんとクラスどころか学園一強いスリーマンセルらしい。


「アタシがアナタの相手に立候補したの」


 赤髪ロングの女の子が仁王立ちしている。

 目力のある、すごくきつそうな女の子だ。 

 彼女がジェンヌさん、チームのリーダーだ。


「入学試験では大層ご活躍されたようだけど、どうせインチキでしょ? 化けの皮を剥いであげるから覚悟しなさい」


 ジェンヌさんが薄く笑う。

 すると他のおふたりと試合を見守っているクラスメートの皆さんも笑った。

 彼女はどうも番長さんみたいな存在らしい。


「あたしの通ってた学校はもっとのんびりしてたんだけどな~」

「お姉さまをインチキ呼ばわりなど、とんだうつけ者ですわね」


 ジェンヌさんの圧力もなんのその、ミーちゃんとベルちゃんは余裕しゃくしゃくだ。


「…………」


 ジェンヌさんは白い歯を見せて、

 

「生きがいいのは嫌いじゃないわ。アナタたちの情けない姿を見るのが楽しみね」


 最後に、審判を務める先生が注意を述べる。


「ケガをしたらすぐに聖水の池に飛び込むこと。いいですね? では、試合開始です!」


 ピピー!


 ホイッスルが鳴り響いた。


(つづく)

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