第268話 変わらないのほうが安心することもあるよね

「さて、そろそろお昼になりますから私どもはここで......」

 メルダリンは帰り支度を始める。

 午前中は僕に用事がないと言ってたな。逆に言えば午後には用事がありそうな予感がするぞ。

「いろいろ情報聞けて助かったよ。ガニアンさんには僕から連絡してみるよ」

 ガニアンパパも家に来てくれ的なことを言ってたし妹とそのメイドを連れて行っても何の不自然もないから大丈夫だろう。

「お願いしますわ。お姉様」

 アリスはそう言ってメルダリンと一緒に部屋から出て行った。と思ったらまたすぐにドアが開いた。

 ん? 何か忘れものでもしたのかな?

「姫様! お召し物を取り替えに参りました!」

 姿を見せたのはアスカだった。

 そう言えばアスカとまともに関わるのは久しぶりじゃないだろうか? 雪山遭難事件以来ほとんど登場シーンなかったもんね。

「やっぱりと言うべきか午後の予定はお見合いなんだね」

「姫様、勘がいいですね! もしかしてエスパーですか? さ、お召し物を......きゃあ! ああ! 持ってきた服が!!」

 アスカは服の端の方を足で踏んでいたせいでビリビリに服が裂けてしまった。

「アスカの今月の給料も減給......と」

 いつの間にかアスカの後ろにメイド長が立っていてメモ帳に何かを書いていた。

「メイド長ぉおお! このままじゃ豆腐ともやししか買えない給料になっちゃいますよぉおおお!」

 アスカはメイド長のスカートの裾を掴んでいつものように泣きだした。

 お! 豆腐も購入できる分前よりも昇給したみたいだねアスカ! いや......これ喜んでいいのだろうか?

「アスカ、それより今日は教育の一環でシズクと一緒に仕事をするようにと命じましたがなぜ一緒に居ないのですか?」

 メイド長は呆れたようにアスカに尋ねる。

「え? シズクですか? 気づいたら居なくなって......」

「さらに減......」

「すぐに探しに行きます!」

 メイド長の減給という言葉に条件反射するようにアスカは走り去ってしまった。僕の着替えはどうするのかとか突っ込みたいところはあるけれど、久し振りのアスカらしい反応に僕は和むのだった。

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