第238話 寝るときは羊を数えよう

 こんなに晴れやかな気分になったのはいつ以来だろうか? 外は雨降っているけど!

 余談だけどさっきマーラが着ていた服は地面に寝転がって泥だらけになったので着替えてもらった。

「メイド長! あとどれくらいで着くの!! あと5分くらい?」

「姫様、まだ出発してから10分も経っていませんよ。あと2時間くらいというところでしょう」

「まだそんなにかかるのか......」

 文句を言ってもしょうがないな。特にやることもないし外でも眺めているか......って雨降ってるから面白いこともなにもない。

「寝よう......」

「お休みなさいませ、姫様」

 メイド長はどこから取り出したのか毛布を僕にかけた。

 2時間なんて2度寝してたらあっという間さ............やばい何か逆に目が冴えてしまった! もしかしてあれか!? 遠足の前の日は全然寝られない現象!!

 馬車は心地いいくらいに揺れて進む。寝る環境としてはかなりいい具合だ。

 (そうだ! 羊! 羊を数えよう! 古典的だけどおばあちゃんの知恵袋的な感じで昔の人の知恵を借りよう。まずはイメージだ! そうだな羊がいそうな場所と言えば牧場だ。)

 僕は頭の中で牧場をイメージした。

 (羊が1匹......お! 羊が歩いてきた! いいぞ! 羊が2匹......あれ? 次に出てきたのは茶色い毛皮の......オオカミじゃないか!! 1匹目の羊さん! 早く逃げて! 食べられちゃうよ!!)

 羊もオオカミに気づきすぐさま走り出した。だが、やはりオオカミの方が足が速くみるみるその距離は詰められていく。

 (頑張れ! 羊! お前ならもっと速く走れるはずだ!! 逃げろ! 逃げきってみせるんだ!!)

 僕の応援も虚しくオオカミは羊にかぶりつく。その絵はまさに......

「って寝られるか!! 何てグロテスクな想像をさせるんだよ!!」

「おはようございます、姫様。ミランダ様のお屋敷に着きました」

 メイド長は僕にかかっている毛布を片付けた。

「あれ......もしかして僕寝てた?」

「はい。ぐっすりと」

 メイド長は馬車のドアを開けながら答えた。

 楽しいパジャマパーティーの前に変な夢見ちゃったよ......まあ夢でよかったけど......

 僕は馬車を降りてミランダさんの屋敷に向かうのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る