第100話 領主様に会いに行く

 やばい......さすがにこの人波にのみこまれたら今の貧弱な体......いやまあ生前の男のころも貧弱だったけれど! ......とにかく身の危険を感じるぞ!

「メイド長! 何とかしてよ!」

 エリナは役に立たなさそうだったのでメイド長に頼んでみた。

「分りました。あなたたち私は姫様......アイネ様の元でメイド長をやっているものです。うちでメイドになりたいならこの意味が分かりますね?」

 野獣のように理性をなくしていた女の人たちが勢いをなくしてその場でどよめき始めた。

「ここで失態をすると採用試験が門前払いされるかもしれないわね......」

「今は堪えるしかないってことね。くっ......折角アイネ様に直接会えたのにアピールできないなんて......」

「せめてエリナだけでも暗殺しておきたかった......」

 女の人たちは口々に諦めの言葉を......いや待ってなんか一人だけ物騒なこと言ってなかった?

「姫様、この街の人たちはご覧の通り良い人ばかりでぇすよね!」

「どこが!?」

 エリナの言葉にすかさず突っ込みを入れずにはいられなかった。

「姫様、領主の屋敷に向かいましょう。部屋を用意するようにお願いしてあります」

 メイド長は街の奥にあるひときわ大きな屋敷を指差した。

 その辺のお店に入ってお茶でもするのかと思ったけど、やっぱり姫様という立場だけあってそういうわけにもいかないのか。

「うん。分かった」

 僕は悔しそうな顔をしている女の人たちを横目に街の奥に進んでいった。

 そんなにうちで働きたかったんだろうか? さすがにここにいる全員を雇うわけにもいかないし......ごめんね。

 少し申し訳なさそうに足早に屋敷へ向かった。

「さあこちらのお屋敷が領主様の家でぇすよ! さ、入ってください!」

「え? 勝手に入っていいの? はっ、もしかしてここはエリナのお家とか?」

「違いますけど?」

 なんて図々しい子だ。他人の家をノックもなしに入るなんて失礼な子だ。

 ガチャリと音が鳴り屋敷のドアが開かれて中から人が出てきた。

「エリナ? 聞き覚えのある声が聞こえたからもしかしてって思ったけどやっぱりエリナだったわ。そちらの方はもしかして......?」

 屋敷から出てきた大人っぽい美人のお姉さんが僕のほうを向いた。

「はじめまして。僕の名前はアイネです。少し部屋を貸してもらえると聞いて来ました」

 僕はぺこりと頭を下げた。

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