第70話 可愛いもの好き

「先ほどは失礼した......謝罪するので許してほしい。」

 ガニアンがそう言ってアイギスに近づくとまるで敵を警戒するかのように、アイギスはメイド長の後ろに回りこんだ。

「まあ、ガニアンさん。さっきあんなことあったわけだししょうがないよ」

 僕はガニアンさんに慰めの言葉をかけてあげた。

「アイネ姫......」

「えっと何かな? ガニアンさん」

「なんだか子犬みたいで可愛いですね」

「僕にどんな答えを期待しているのかな?」

 ガニアンは嬉しそうに身もだえているのとは対照的になんて反応したらいいか分らず僕は硬直してしまう。

「ま、またしても小生のことを可愛いと言ったな!! 小生はかっこいいんだ!!」

 アイギスはさっきよりも警戒心を高めてガニアンのほうを睨みつけた。

 睨まれているのにガニアンはなんだか嬉しそう......というより睨まれていることに気づいていない?

「あの......ガニアンさん......?」

 僕は声をかけてみたがやはり気づいていない。

「ほらほら怖くないよ......出ておいで」

 ガニアンはこっちにおいでと手招きをしている。

「その言い方だと小さな子供にでも話しかけているような感じにも見えるけど......うん。やっぱり聞こえてないか」

 どうやらガニアンは可愛い子大好きモードとでも名付けるべきか自分の世界に入り込んでしまっているようだ。

 当然僕の言葉など聞こえずガニアンはアイギスにじりじりと詰め寄る。

「ええい寄るでない! 小生はアイネに会いに来たのだ! ガニアン王女に会いに来たわけではないぞ!」

 アイギスは手をブンブン震わせながらあっちに行けと言わんばかりに追い払おうとしている。

 ......ま、無駄だろうね! 可愛いものを見て暴走しているようだし......

 ガニアンは目を光らせながらアイギスに手を伸ばしている。

「ヒィイイイ!!」

 怯えるアイギスに手を触れようとした瞬間。

 パン!!

 メイド長が拍手を一度すると我に返ったようにガニアンがキョロキョロしていた。

「ガニアン様、落ち着いてください。姫様の邪魔はされない約束でしたよね?」

「仕方ない......席に戻るとしよう......」

 ガニアンはおとなしく自分の席に戻って座った。

 メ、メイド長すげぇえええ!

 改めて僕はメイド長のすごさを実感するのだった。

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