第40話 試食の恐怖

 出された料理はどちらもビーフシチューで見た目はおいしそうである。しかし、アスカの料理は絶対何かあるという疑念が消えないので食べることに非常に抵抗がある。

「さあ冷めないうちに食べてください」

 アスカはスプーンで料理をすくって僕の口に入れようとする。

「ストーップ! ほらアラン殿下も食べたいかもしれないじゃない?」

 僕はアランのほうを指差す。

「姫様、残念ですがアラン殿下は猿ぐつわを口にくわえておりますのでそれは難しいと思います!」

 アスカは嬉しそうに語りだす。くわえているだけだろ? 5秒もあればはずせるだろ?

 アランという変態を生贄にささげようかと思ったがダメか。

 くっ......ならば。

「メイド長! 先に味見してもらえない? ほら普通姫様が食べる前に味見するでしょ?」

 僕はメイド長に助けを求めた。メイド長なら多少の危険物でも消化できるだろう。

「姫様。ご安心ください。食べても大丈夫です」

「食べもせずにそんなの分かるわけないじゃないか!」

「私クラスのメイドにもなれば料理を見ただけでその料理のすべてが分かるのです」

 ......メイド長にそう言われるとなぜか疑いようの余地もない。

 冷静になるんだ。これがアスカと過ごす最後の1日になるんだ。

 ここで僕が料理を食べることもなくアスカを帰らせてしまっていいのか?

 最後くらいいい思い出を作って帰ってもらう、そう決めたじゃないか。

 意を決して僕はスプーンに口を近づける。

 しかし、僕が食べる前にナナリーが割り込んでスプーンに乗った料理を食べてしまった。

「え?」

 僕は予想外の展開に目を丸くして驚きの声を漏らしてしまった。

「死ぬほどおいしいです......私の......私の負けです」

 ナナリーは泣きながらもぐもぐ口を動かしている。

「まじ......? アスカ......一口食べてもいいかな?」

「もちろんですよ! 姫様のために作ったんですから!」

 アスカの作った料理が僕の口に運ばれる。もぐもぐ......ごくり。

「え? 何これ? アスカ、本当にこれおいしいよ!! こんなにおいしいの食べたの初めてだ......」

 食レポなんかやったことないけど今ならこの料理を褒める言葉が湯水のようにあふれてきそうだ。

 そんなことを考えている僕の横にいたナナリーは泣きやんで私の目をしっかり見つめる。

「アイネ姫様、私はここの雇用テストを辞退させていただきます。私ではアスカには勝つことはできません。本日は本当にありがとうございました」

 深々と頭をナナリーは下げながら僕にお礼の言葉を述べた。

 ナナリー......でもさ僕はこう思うんだ。アスカに勝てないのは料理だけじゃない?

 それにしてもどんな人にも隠れた才能ってあるんだね。

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