異世界強制転移〜地獄への冒険譚〜
馬流2
プロローグ BREAK
岩川大和は真っ白な空間に放り出されていた。
奥行きの判断はなく、変わり映えのない、匂いも風も音もない。
娯楽物、食事もない。
そんな場所に放置されてどの位の時間が経ったのだろうか。
彼の精神は限界に達していた。
ーー何も起こらない。辛い辛い辛い。何度うろ覚えの歌を歌ったっけ?そもそも、オレは立っているのか?寝ているのか?座っているのか?
解らない解らない解らない解らない解らない解らない解らない解らない解らない。誰か教えくれ、父さん母さん兄貴……怖いよぉ。みっともないって貶して構わないから誰か、タスケテヨォォ……。
膝を抱えて涙を浮かべ始める。
声に出しても、いやそもそも心で呟いていたのか彼の懇願に答えるものはいない。
ーー苦しい苦しい苦しい。気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。
呼吸をするのが辛く、白い風景を認識するのも辛く、胸に抱いた膝に目を伏せた。なぜ、自分が状況に陥っているのかの振り返りも億劫になってきている。
ただ頭に過り始める『死』の文字に恐怖にさえ、なんとも思わなくなっていた。
死がら……。
「12時間。人間のメンタルの崩壊って短いものとはな」
透き通る侮蔑が大和の鼓膜を叩く。
誰かがいる。
彼は膝から顔を離し立ち上がり、辺りを見回す。が、水平であろう位置には何もない。
では、上なのかと視線を上げる。
「あ、あ、あああああああ!!」
そこには目を細める、綺羅びやかなエメラルドの様な長髪を靡かせる赤と黒のドレスを纏う女性が、宙に浮く玉座に足を組み腰掛けていた。
椅子が宙に浮かんでいる疑問は、湧いてこない。大和の頭の中は誰かが、居た事実に対する歓喜。
目の前の非現実に寛ぐモノが、無空間に置ける救世主であることき疑う余地はない。
大きな溜息を漏らすと女性は、右手を高く上げる。
パチンと指を弾く音が聞こえたかと思うと、白い世界に色と形が構成されていく。
数分も立つと大和が立つ地面には赤と金の刺繍の絨毯を敷く木製の床。
四方に現れ壁になるのはハードカバーのみを収納した本棚。
そして、最後に現れたのは複数の地球儀が浮かぶケースに、布の上に飾る水晶玉を乗せた焦げ茶色の両袖デスク。デスクの後ろに玉座が着陸する。
緑色の長髪の女性は、玉座から離れ、大和に近づいた。
「あ、ああ、あ、あ、ああああああああああ!!」
大和は女性が纏うドレスに縋り付いた。自分は今まで一人で、生きているか判らず、不安だった。
人肌に触れて、孤独を取り払いたい。その様な思考が働いたのであろう。彼の手がドレスから女性の脚に移る。
彼女は顔に嫌悪感を露わにし、容赦なく右足で彼の体を本棚にまで蹴り飛ばした。
衝突の衝撃で本が落ち、大和の体に降り注いだ。
「何もない空間に半日程度の時間、放り出されて精神が逝かれる人間ごときが女神たるワレに触れるでない。いや、そもそも知りもしない女の肌に触れるのが非常か」
ドレスを叩き、触れられた脚は右手で横に振ることで現れたハンカチで何度か拭いた。
本を被った大和に動きはない。
先程まで出していた奇声も聞こえてこない。
「……ふん。今の拒絶で心の死に王手を掛けたのか。折角、流れてきた玩具を壊すのは勿体無いか」
女性は左手の指を今度は鳴らす。
大和の体が淡い青の光に包まれた。
光が消えた。
再度、女性は大和に近づき、されど今度は簡単に縋ることのできない距離で立ち止まる。
「口も舌も働くのであれば、ワレ、女神メンディスに汝の名を告げよ」
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