第183話 一体ここはどうなっているんだ
イオの渾身の蹴りを受け、黄金竜が墜落した。
落ちた先はエルダードワーフたちの区域だ。
「逃がしはしない! 絶対にジオ君の仇を取る!」
トドメを刺すべく、すぐに後を追おうとしたとき。
背後から聞き慣れた声が聞こえてきた。
「え? どういうことですか? 僕の仇……?」
「あいつのせいでぼくのジオ君が死んでしまったんだ!」
「死んでしまった……? い、生きてますけど……」
「……へ?」
思わず振り返ったイオが見たのは、無傷の少年で。
「い、い、い、生きていたのかいっ!?」
一方その頃、黄金竜はエルダードワーフたちの猛攻を受けていた。
「我が芸術を破壊した恨みぃぃぃぃっ!」
『がぁっ!?』
何度も空へ逃げようとしているのだが、広げた翼へすかさずハンマーを投げつけてくるせいで、その度に地上へと墜落させられていた。
『貴様らぁっ! いい加減にしろ……っ!』
憤怒の咆哮を轟かせる黄金竜。
先ほどの獣人たちの怒りはまだ理解できる。
あの人間が、彼らにとって重要な存在だったのだろう。
しかしこのエルダードワーフたちは、意味不明な物体の一部を壊されただけなのだ。
それでこんな攻撃を受けるなど、まるで納得がいかなかった。
『何が芸術だっ! アダマンタイトをこんな無駄なものに費やしおって……っ!』
だがこの叫びが、エルダードワーフたちの怒りに油を注ぐ結果となってしまう。
「無駄なもの、だと……? わしらの芸術を愚弄するかああああああっ!」
『なっ!?』
エルダードワーフたちに師匠と呼ばれた男が黄金竜の尻尾を掴むと、信じがたいことに自分より何十倍もの巨体を持ち上げ、さらには豪快に引き回した。
『~~~~~~~~っ!?』
五十メートルを超す巨体がぐるぐると回転する。
「どりゃああああああああああああっ!!」
そしてひと際大きな雄叫びとともに、黄金竜は凄まじい速度で投げ飛ばされてしまう。
幾度となく地面を転がり、ようやく停止したときには、黄金竜はすでに度重なるダメージを受けて満身創痍となっていた。
『ば、馬鹿な……我が……ここまで手痛くやられるとは……一体、ここはどうなっているのだ……?』
しかし彼に襲い掛かる不幸はこれで終わりではなかった。
「うあああああああああああっ!? わ、わ、わらわのっ……わらわのトマト畑があああああああああああああっ!?」
そんな悲鳴に視線を転じると、そこにいたのは金髪赤目の幼女だった。
さらに足元を見てみれば、幾つもの潰れたトマトがあった。
どうやら幼女が所有する(?)トマト畑に突っ込んできてしまったらしい。
「貴様~~~~っ! わらわの大切なトマトを~~~~っ!」
『っ!?』
幼女の全身から放たれる凄まじい魔力。
黄金竜はすぐに彼女がただの幼女ではないことを悟る。
『きゅ、吸血鬼か!? しかもこの膨大な魔力はっ……』
「許さぬのじゃああああっ!」
『~~~~っ!?』
気づけば巨体が宙を舞っていた。
さらに幼女吸血鬼が放った魔力の塊が次々とその身に突き刺さる。
『がああああああああああっ!?』
「貴様に潰されたトマトが感じた痛みは、こんなものではなかったはずじゃああああっ!」
トマトが痛みなど感じるか!
と怒鳴り返したかったが、先ほどの二の舞になりそうなのでどうにか堪える黄金竜。
だが幸い敵は一人。
すでにボロボロの身体でも、何とか対処できるはず――
「ブラーディア様、加勢いたします」
「「「我々も微力ながら助力いたします!」」」
『やっぱり仲間がいたあああああああっ!』
なぜかメイド服に身を包んだ新手の吸血鬼たちが次々と現れたのだ。
『わ、悪かった! 謝る! 謝るから許せ!』
もうやめてくれとばかりに叫ぶ黄金竜だが、よほどトマト畑が大切なものだったのか、
「許さぬ! トマトたちの痛み、思い知るがよいわっ!」
吸血鬼たちの一斉攻撃が開始された。
逃げることもできず、もはや頭を抱え込み、必死に耐え忍ぶしかない。
ようやく攻撃が収まったときには、輝きを放っていた黄金の鱗がほとんど剥がれ落ちてしまっていた。
『な、なぜ我が……こんな目に……』
「ふん。まだ生きておるか。さすがは古竜、丈夫な身体じゃのう」
鼻を鳴らした吸血鬼の幼女は、トドメとばかりに魔力を練り上げた。
「とっとと去ぬがよい。目障りじゃ!」
そんな理不尽な言葉とともに放たれた魔力砲に吹き飛ばされ、黄金竜は宙を舞った。
翼を広げてそのまま空に逃げようとするも、思うように飛行することができず、結局、何かに激突して再び地面に墜落してしまった。
『な、何だ、これは……?』
激突したのは塔らしきものだった。
黄金竜がぶつかっても壊れないほど強固な造りではあったが、しかしそれでも外壁が崩れ落ち、大きく傾いてしまった。
『い、嫌な予感しかせぬ……』
傾いた塔を見ながら顔を引きつらせる黄金竜。
その予感は的中してしまった。
「ミランダ様の塔が!」
「許さんぞ、このドラゴンめっ!」
「奴を滅ぼせ!」
塔の中から飛び出してきた、魔法使いと思われる人間たち。
彼にはすぐに分かった。
ただの人間の魔法使いではない。
その一人一人が人間のレベルを超えた使い手たちである、と。
『一体ここはどうなっているんだ!?』
黄金竜は涙目で叫ぶのだった。
『もうやめてくれええええええええええっ!』
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