第175話 今日の天気かなー

 その日、王都の冒険者ギルドに行くと、いつもとは少し様子が違っていた。

 普段は依頼が張り出されている掲示板に集まっている冒険者たちが、なぜかロビーの中央に固まっていたのだ。


「どうしたのかしら?」

「何か張り出されてる」

「ほえ、今日の天気かなー?」

「何でそんなものが張り出されるんだよ」


 彼らが見ているのは、どうやら臨時で設けられた掲示板のようだ。

 これは緊急性の高い依頼など、特別なときにしか出されないもので、当然ながら今日の天気予報なんかではない。


 近づいてその掲示板を確認してみる。

 するとそこに書かれていたのは、


「……傭兵の募集?」


 冒険者たちの中から、傭兵を募っているらしい。

 一体なぜだろうと思ってさらに読み進めていくと、


「隣国が攻めてきている?」

「だから実力のある冒険者たちに協力を求めてるってわけね……。報酬も破格じゃないの」


 冒険者のランクに応じて、報酬が異なるようだ。

 だけど下級のEランクやDランクでも、かなり報酬がいい。


 CランクやBランクともなれば、一年は働かなくてもいいぐらいの報酬だし、Aランクに至っては当然ながらそれ以上の報酬が出るらしい。


「マジかよ! こりゃ随分と美味しい仕事だな!」

「ああ! もちろん受けるしかねぇ!」


 それもあって、周りの反応を見る限り大半の冒険者たちが乗り気のようだった。

 さらに彼らを煽るように、依頼者であるこの国の代理らしき人が訴えかけていた。


「敵は隣国のベルマーラだ! 過去に幾度か我が国と戦争をしているが、その度に我が国が勝利してきたのは周知の事実だろう! にもかかわらず、愚かにも我が国の領土へ侵攻してきているのだ! ゆえに今こそ圧倒的な力の差を見せつけ、奴らを完膚なきまでに叩き潰さねばならぬ! 今回はそのための傭兵募集だ! しかし残念ながら募集枠には限りがある! 従って早い者勝ちだ! 勇敢な冒険者諸君の協力に期待しているぞ!」


 それを受けて、その場にいた冒険者次々と受付ブースへと殺到していく。


「……怪しい」


 そんな中、シーファさんが首を捻っていた。

 サラッサさんも頷いて、


「ですね……。勝利確実、みたいに言ってますが……わざわざ大金を出して冒険者を募るなんて……軍だけでは厳しい戦いになると、分かっているからではないでしょうか……?」

「可能性は高いわね。Aランクが三人いる私たちのパーティなら、かなり稼げるだろうけど……少し情報を集めてから判断した方がよさそうね。って、セナちゃんは?」

「いない? ジオも……」

「ここです!」


 すいません、釣られてブースに向かっていたので、慌てて止めてました。


「何で勝手に行くんだよ」

「ほえ? なんか楽しそうだったから!」

「雰囲気で動くなって……」


 お前の大嫌いな仕事だぞ。

 セナの首根っこを掴んで、シーファさんたちのところまで戻ってくる。


「ええと、情報なら、彼に訊くのが良い気がします」

「「「……?」」」







「君たちの言う通りだよ。恐らく状況はかなり悪い」


 そう教えてくれたのはリヨンだった。


 ギルド内にある彼らのパーティ専用の部屋。

 ララさんにロインさん、ボボさんと、今日は全員が揃っている。


「どうやら公爵が裏切って、隣国と結託してしまったみたいなんだ。外と内、両側から一気に攻められたことで、国境を護っていた辺境伯が討たれ、すでに王国内への侵入を許してしまっている。しかもなかなか進軍を止めることができず、都市が次々と陥落させられているという情報もある。下手をすれば、そう遠くないうちにここ王都が戦場になるかもしれない」

「お、王都が戦場に……っ?」


 思っていた以上に戦況は深刻なようだった。


「敵勢はベルマーラ軍と公爵軍を合わせて、五千から六千と推定されている。こちらはすぐに動かせる兵がせいぜい二千ほどだから、急いで各地の領主たちに兵の派遣を呼び掛けているけれど、果たしてどれだけ応じることか……」

「え? 国の危機なのに、協力しないってこともあるの?」

「この国も決して一枚岩じゃないんだ。公爵があらかじめ各地の領主たちに根回しをしていたって話もあるし……」


 リヨンは苦々しそうに言う。


「しかもこんな状況だというのに、目端の利く兄弟たちはすでに王都から逃げ出す準備をしている。誰も彼もが保身ばかりだ。本来なら、王族こそが先頭に立って、この国を護らなければならないというのに……。これでは王族が求心力を失うのも当然だろう」

「リヨン様だけは違いまス。やはりこの国の王になるに相応しいのはリヨン様でス」

「ララ、滅多なことを言ってはいけない。兄上たちの耳に入ったら大変なことになる」

「……申し訳ありませン」


 僕はリヨンに訊いた。


「リヨンは……戦う気なの?」

「そうだね。これでも一応、Aランク冒険者だ。みんなと一緒に参戦するつもりだよ」


 他の兄弟たち同様、逃げるという選択肢もあるはずなのに……。


「そうだ、リヨン。敵軍の様子をあらかじめ知っておいた方が、色々と戦略は立てやすいよね?」

「え? それはそうだけれど、それは偵察からの報告を待つしか……」

「実はいい方法があるんだ」

「……?」










「「「は、畑がっ……空を飛んでるうううううううううううううっ!?」」」


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