第135話 おなじぬしさまの土なのー
木の精霊である彼らはとても繊細かつ敏感だという。
「警戒心の強い彼らのことです。一度危険を感じて去ってしまった以上、そう簡単にはこの森へと戻ってきてくれないでしょう」
……うちの庭にもいるあの子たちもドリアードだよね?
この森から逃げ出した結果、モリア村の近くの山にいたのかもしれない。
当人たちは自分たちがどこから来たのか、まったく分かってなかったけど。
「おじいちゃん、やっぱり、どりあーどさんたち、もどってこないの……?」
女の子ががっかりしたように言う。
僕はしゃがみ込み、女の子の頭を撫でてやった。
「そんなことないよ。良い子にしてたら、きっとすぐまた会えるはずだよ」
「おにいちゃん、ほんと?」
「ああ、ほんとほんと」
というわけで僕は、いったんアーセルにある自宅の第一家庭菜園へと飛んだ。
「ララ、ナナ、元気にしてたか?」
菜園の土に下半身を埋め、まったりしている二人に声をかける。
すると嬉しそうにこちらを振り向いて、
「ぬしさまなのー」
「おかえりなのー」
「お水ほしいのー」
「ごくごくしたいのー」
二人の要望に応えて、僕は菜園で収穫した水をかけてやる。
「いきかえるのー」
「しあわせなのー」
機嫌よく水を浴びている二人と一緒に、僕はエルフの森へと転移した。
同じ僕の家庭菜園なので、説明しなくても大丈夫だろう。
……わざわざ分かりにくい説明をして、警戒心を持たれたら面倒だし。
「「あれー?」」
周囲が突如として背の高い樹木ばかりの場所になったので、ララとナナは不思議そうに首を傾げた。
「なんかちがうのー?」
「へんなのー?」
異変に気付いたようで、キョロキョロと周りを見回す双子。
「まあいいのー」
「おなじぬしさまの土なのー」
……うん、全然気にしてなさそうだ。
「二人ともちょっと付いてきてよ」
「「?」」
何だろう、という顔をしながらも、二人はひょこひょこと僕の後を付いてくる。
するとちょうど家庭菜園との境界線のところで、二人はまた「「あれー」」と言った。
「こっからちがうのー」
「主さまの土じゃないのー」
違いを簡単に見抜いてしまった。
やっぱり僕の菜園の土が好みなのか、二人はそこで立ち止まってしまう。
うーん……もうすぐ目の前がエルフの里なんだけど……。
困っていると、ちょうどそこへ先ほどのお爺さんと孫がやってきた。
「そ、その子供たちは……っ!?」
「わあっ! どりあーどさんだ!」
お爺さんは目を剥き、女の子は目を輝かせる。
「な、なぜここにドリアードが……」
「連れてきました」
「連れてきた!? 一体どこからどうやって!?」
家から、菜園を転移してです。
……なんて言えるはずがない。
「「えるふなのー」」
「二人とも、エルフを知っているのか?」
「「なのー」」
やっぱりララとナナは以前この森にいたのだろう。
「ドリアードがこんなに懐いているなんて……貴方はとても清らかな心を持っておられるようですな」
「清らかな心、ですか?」
「ええ。ドリアードは少しでも悪意を持って近づくと、すぐにそれを察知して逃げていくのです。我々エルフでも、ドリアードと心を通わせられる者は多くありません。ですので、純粋無垢な子供の方がドリアードと仲良くなりやすいとも言われておるのです」
……そんな風に言われるとちょっと照れる。
「長老なんて逃げられてばかりですしの」
あの長老様、やっぱり心が汚れているのか……。
今のところ里のエルフたちから慕われるような要素が一つもないんだけど、何で長老やってるのかな?
単に言葉通り一番歳を取ってるからだろうか。
「どりあーどさん! あそぼ!」
「あそぶー?」
「あそぶのー?」
「うん、あそぶの!」
女の子は清い心の持ち主のようで、駆け寄ってきてもララとナナが逃げることはなかった。
それから三人で手を繋いでぐるぐる回り出す。
……何の遊びだろう?
「お陰様で、孫娘があんなに喜んでくれております。何から何まで本当にありがとうございます」
「いえ、二人にとっても恐らくこの森にいた方がいいと思いますし」
「これでまた森にドリアードたちが戻ってくるでしょう。仲間がいれば、安心するのか、そこに集まってくる習性もあるのです」
ララとナナにとっても、仲間が増えてくるならいいことだと思う。
というわけで、向こうには一緒に帰らず、二人はこっちに置いておくことになった。
もちろん時々は会いにくるつもりだ。
森の大部分が僕の家庭菜園になったわけで、いつでも転移してくることができるしね。
「どこに行ってたのよ?」
「ちょっとね」
シーファさんの実家に戻ると、みんなすでに出発の準備をしていた。
どうやら僕を待っていたらしい。
「もう少しゆっくりしていけばいいのにのう……」
「お爺ちゃんの言う通りよ。せっかく久しぶりに会えたんだから……」
「大丈夫。また来るから」
「そうは言っても、簡単に来れるような距離ではないだろう?」
それが、簡単に来れちゃうんですよね……。
毎日だって遊びに来れてしまうくらいだ。
まぁ本当に毎日来るわけにはいかないけれど。
その後、僕たちは別れを惜しむエルフたちに見送られて、里を出発した。
そのままと森を出ると見せかけて、Uターンしてむしろ奥へ。
「ここから先は家庭菜園だよ」
「……事情を知らない人が聞いたら、完全に意味不明な言葉よね、それ」
アニィが呆れた顔をする。
「あ、そうだ。アーセルに帰る前にちょっと寄り道していい?」
「寄り道?」
「ファフニールの魔石を回収しておきたくて」
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