第134話 うちの庭の家庭菜園にいると思います
「き、木があっという間に成長した……森が元通りに……ふがふが……」
里に戻ると、開いた口が塞がらないといった状態の長老様がいた。
「長老様、言われた通り勝手にやっちゃいました」
「ふがふが……」
……口を開け過ぎて顎が外れてしまったようだ。
どうにか顎を嵌め直した長老様は、唾を飛ばしながら訊いてくる。
「い、一体なにをしたのじゃ!? 瘴気も消えておるしっ……」
「そこは秘密です」
教える義理なんてないよね。
「秘密じゃと!? 言えぬということは、何かしらの魂胆があるに違いない!」
「そんなのないですよ」
「嘘を吐け! 人族など、信用できぬのじゃ!」
うーん、この長老様、人族への差別意識が強いなぁ。
過去に何かあったのかもしれないけれど。
と、そんな長老様を押し退けるようにして、エルフたちが駆け寄ってきた。
「き、君たちが森を元通りにしてくれたのかっ?」
「ありがとう! この里の英雄だ!」
「あのとき助けてくれなければ、俺たちは瘴気にやられて確実に死んでいたよ!」
何事かと身構えていると、そんなふうに手放しの称賛を受けることとなった。
彼らの中には、瘴気を浴びて倒れているところを助けてあげたエルフたちもいた。
どうやら里のエルフ全員が長老様のように人族を嫌っているわけではないらしい。
「里を上げて、お礼をしないとな!」
「ああ! 宴会だ、宴会!」
「だが、森が元に戻ったとはいえ、ちゃんと食材を揃えられるのか……?」
「な、何だこのキノコは!? 今までこんなに美味しかったか!?」
「この山菜もめちゃくちゃ美味いぞ!? 本当にこれ、森で採れたものなのかっ?」
エルフたちの驚く声が連鎖していた。
夕方になって開かれた宴会。
僕たちへのお礼も兼ね、里のエルフたちが腕によりをかけて作ってくれた料理の数々に、誰よりも驚いたのは彼ら自身だった。
「もちろんどれも採れたてだ。しかし不思議なことに、以前よりも食材が豊富になっていたのだが……」
「豊富になったどころか、断然、美味しくなってるんだが!」
……うん、どれも僕の家庭菜園で栽培したものだからね。
実は単に樹木を生やしただけじゃなく、元から森で採れていたキノコや山菜、それに果物なんかも栽培しておいたのである。
自動栽培の力で、今後も放っておけばまた栽培がスタートするため、何度でも収穫することができるだろう。
「それにしても本当にありがとう」
「あ、シーファさんのお母さん……お身体の方は大丈夫ですか?」
「ええ、お陰様ですっかりよくなったわ。瘴気が消えたからか、息苦しさもないし、もう健康そのものよ」
「ううう……よかったのう……」
本当によかった。
娘のシーナさんが元気になったことで、シーファさんのお爺さんが涙ながらに喜んでいる。
もちろんシーファさんも。
「ジオのお陰」
「いえ、そんなことないですよ。ファフニールはみんなで倒したんですし」
それにシーファさんが親孝行だったからこそ、こうして間一髪、里を救うことができたのだ。
けれどやっぱりシーファさんとしては、どうしても僕に感謝したいらしく、
「ジオにはいつも世話になってばかり。……どうすれば返せる?」
そうやって上目遣いに見つめてくれるだけで十分ですよおおおおおおおおっ!
内心の興奮を必死に抑えつつ、僕は言った。
「そ、そうですね……それなら、ぶげっ!?」
いきなり横からアニィのタックルを受け、僕はその場にひっくり返ってしまう。
「そんな話は後よ、後っ! せっかく美味しい料理をいっぱい作ってもらったんだし、今はとにかく食べて食べて食べまくりましょ!」
いたた……アニィのやつ、ちょっと力強すぎだろ……すごい勢いで地面に叩きつけられたんだけど……。
いや、力っていうか……体重のせい?
「ああん?」
「な、何でもない!」
何も言ってないのにめちゃくちゃ睨まれた!
そうしてエルフの料理に舌鼓を打った僕たちは、今日のところはシーファさんの実家に泊ることにしたのだった。
翌朝、早くに目を覚ました僕は、里の中を散歩していた。
すると五歳くらいの女の子と、その父親と思われる二人組が、切り株に座って何やら話しているのが聞こえてきた。
「ねぇ、おじいちゃん、どりあーどさんたち、もどってくるかなぁ?」
親子じゃなくてお爺さんと孫だったみたいだ。
お爺さんでも若いから判別が難しいよね。
「どうかのう……一度いなくなると、なかなか戻ってこないかもしれないなぁ……」
「そうなの……」
「そ、そう気を落とすことはないぞっ。いつになるかは分からぬが、待っていればきっとまた現れるはずだからっ」
悲しそうな顔をする孫に、お爺さんが慌てて言い直す。
というか、どりあーどさん……?
もしかして、ドリアードのことかな?
「あの、すいません」
「おお、貴方は! 昨日は里を救っていただき、ありがとうございました」
お爺さんが頭を下げると、それに倣って孫の女の子もぺこりと頭を下げてきた。かわいい。
「今、ドリアードって言葉が聞こえたんですが……もしかしてこの森、ドリアードがいたんですか?」
「ええ、そうなんです。しかしここ最近、姿をまったく見なくなってしまいましての……今から思えば、森の異変を察して逃げてしまったのでしょう」
「そうなんですね……」
……たぶんその内の二人、うちの庭の家庭菜園にいると思います。
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