第132話 聖水を直接かけちゃえ
「よし、準備できたぞ」
「ほーい、あたしもいつでもいいよー」
僕たちは今、空にいた。
三次元移動スキルを使って、家庭菜園を飛ばしているのだ。
僕らのちょうど真下では、未だギガゴーレムたちがファフニールを取り囲み、戦ってくれている。
あれから相当な攻撃を受け続けたというのに、ファフニールはあまり弱っている気配はない。
そして僕たちの足元には、大きな果実が幾つも転がっていた。
見た目はヤシの実だけれど、中に入っているのはすべて聖水である。
そう、セナの「聖水を直接かけちゃえば」という言葉通り、ファフニールに聖水の雨を浴びせようというのだ。
余っていた第二家庭菜園の広大な一帯を利用し、大量の聖水を遠隔栽培、そして遠隔収穫したのである。
足元にあるもので全部じゃない。
スペースが足りないので、半分以上はまだ収穫物保存スキルで保存してあり、逐次、取り出す予定だ。
そして現在も念のため第二陣の聖水を栽培中である。
「投げる」
「セナ、頼んだぞ」
「ほいさー」
僕たちは一斉に聖水の入った〝実〟を空へと放り投げる。
直後、セナがそれら目がけて飛刃を放った。
ズバズバズバッ――バシャアアアンッ!
「~~~~~~~~~~ッ!?」
突如として空から降ってきた聖水の雨。
それが触れるなり瘴気が一瞬で消失し、ファフニールが狼狽え始めた。
「めちゃくちゃ効いてんじゃん!」
アニィが言う通り、効果抜群だ。
やっぱり聖水(中品質)ではなく、聖水(高品質)にしておいてよかった。
「もっと投げる」
さらに僕たちは聖水の〝実〟を次々と投下させていく。
それを浴びる度、見る見るうちにファフニールの纏っている瘴気が薄れ、さらにはゴーレムたちの攻撃でよりダメージを受けるようになっていった。
「アアアア……」
気づけばもはや虫の息だ。
ついには地響きとともに巨体が倒れ込んだ。
「やった!」
「倒せた……?」
ファフニールはピクリとも動かない。
どうやら無事に倒すことができたようだ。
「……様子がおかしい?」
「え?」
最初にそれに気づいたのはシーファさんだった。
よく見ると、ファフニールの全身を覆う鱗の表面がぶくぶくと泡立ち始めている。
一体何が起こるのかと身構えていると、突然、ファフニールの巨体が爆散した。
「「「~~~~っ!?」」」
瘴気そのものと言っても過言ではないどす黒い液体が、さながら噴水のように空へと噴き上がる。
そうして今度は森中に降り注いだ。
もし結界がなかったら、僕たちはまともにそれを浴びてしまっていただろう。
「森が……」
シーファさんが愕然と呻く。
元から広範囲に渡って瘴気の侵食を受けていた森だけれど、今ので更なる被害を受けてしまっていた。
しかもファフニールが死んだというのに、瘴気の侵食が収まることはなかった。
このままでは森がすべて瘴気に呑み込まれかねない。
「こ、これがファフニールの瘴気の恐ろしいところです……。たとえ本体を倒しても、周囲に広がった瘴気は消えない……結果、国土の半分が人の住めない場所になってしまった国もあるそうです……」
サラッサさんが恐ろしい情報を教えてくれる。
「せ、聖水をかければ……」
「さすがにこの森全部にかけるのは現実的じゃないでしょ!? そんなことしてる間に森が死滅しちゃうわよ!」
アニィの言う通りだ。
聖水で瘴気を浄化できるといっても、これだけの広範囲に及んでしまっている今、どれだけ時間がかかるか分からない。
「いったん、里に戻る。みんなに伝えないと……」
「シーファさん……」
そうして僕たちは急いでエルフの里へと戻った。
僕らの帰りを待ってくれていたのか、シーファさんのお爺さんが里の入り口で出迎えてくれる。
「おおっ! シーファ、無事だったか! 心配したのだぞ!」
「お爺ちゃん、大変。このままだと森が死ぬ」
「なにっ?」
簡単に事情を話すと、お爺さんは驚愕したように目を見開き、
「ま、まさか、そんな危険な魔物が……しかも、それを倒すなんて……」
「でも瘴気は収まらない。里も……呑み込まれちゃうかも」
「わ、分かった! すぐに長老のところへ行こう!」
お爺さんに案内されて、僕たちは里の長老様の家へ。
「儂が長老じゃ。一体何があったのじゃ?」
長老様はちゃんと見た目も老人だった。
実年齢はどれくらいなんだろう……って、今はそんなことどうでもいい。
僕たちが事の次第を伝えると、長老様は大いに慌て出した。
「な、何と! ではすぐに逃げねば!」
「長老!? まさか、この先祖代々の里を捨てる気なのかっ!?」
シーファさんのお爺さんが声を荒らげる。
そう簡単に里を離れることなどできない、その気持ちは分かるけど……。
「阿呆! 命の方が大事じゃ!」
長老様はそう一喝する。
さすがは長老様だ。
優先すべきが何か、揺るぎない信念があるらしい。
「儂はまだ死にたくないのじゃ~っ!」
……んんん?
もしかして、ただ自分が死にたくないから……なんてことはないよね?
里のエルフたちの命を預かる者としての信念だよね?
そう信じたい。
「あの……長老様」
「む? 何じゃ?」
すでに立ち上がって避難の準備を始めようとしていた長老様へ、僕は恐る恐る言った。
「実は、避難せずに済む方法が一つあるかもしれないんですが……」
「何じゃと!? それは一体?」
「この森、丸ごと作り変えちゃってもいいですか?」
「……は?」
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