第131話 ずっと振ってるのも飽きてきた
「アアアアアアッ!?」
サラッサさんの雷撃をまともに受け、邪竜ファフニールが苦悶の雄叫びを上げる。
「っ! 来ますっ!」
だけどそれも一瞬の足止めにしかならなかったようで、すぐにファフニールが飛びかかってきた。
ガンッ!
結界に激突する。
ど、どうにか攻撃を防いだ……?
それにしてもサラッサさんの本気の一撃が、あの程度のダメージにしかならないなんて。
レッドドラゴンにはもうちょっと効いたはずなのに。
「えいっ!」
セナが斬撃を飛ばす。
それがファフニールの鼻頭に直撃した。
セナの遠距離斬撃――飛刃は、オークくらいなら真っ二つにできる。
ただ、直接ミスリルの剣で斬りつけるならまだしも、さすがにこの怪物には――
「~~~~ッ!?」
あれ、それなりに痛がってる?
ちなみに菜園隠蔽の効果でこちら側は見えていないはずなので、ファフニールからすれば雷撃や斬撃が謎の空間から飛んできていることになる。
何か敵対的な存在がそこにいると、察してはいるみたいだが。
「もっと行くよ!」
セナは次々と飛刃を放った。
執拗に邪竜の頭を狙ったそれが悉く当たり、ファフニールは慌てて前脚で顔をガードする。
やっぱり結構効いているようだ。
しかも延々と連発できるため、ファフニールは防御の体勢を解くことができない。
「私の全力の雷撃が、あっさり上を行かれたんですけど……」
「サラッサ、気にしたら負け」
「セナちゃんも大概、規格外だしね……」
それでもこのままでは埒が明かないと思ったのか、ファフニールはガード状態のまま突進してきた。
結界に思い切り激突する。
ピシッ……。
やばい!
結界に罅が入った!
さすがにこの巨大なドラゴンのタックルを受けては、無事で済まなかったようだ。
このまま結界が壊されれば一巻の終わりだけれど、ファフニールは幾度となく突進を見舞ってくる。
パリィィィィン!
ついに耐久限界に達したようで、結界が粉々に砕け散った。
ファフニールが振り下ろす巨大な前脚が、僕達の頭上へと迫る。
ガンッ!
……まぁ、結界を二重に張っていたので平気なんだけどね。
「……ッ?」
何かを破壊した手ごたえはあったはずなのに、やはり瘴気も攻撃も防がれてしまうことに驚くファフニール。
「ねー、直接斬りに行っていいかなー? ずっと振ってるのも飽きてきたー」
「待て待て待て! 外は瘴気の海なんだ! 結界を出たら危ないって!」
いきなり馬鹿なことを言い出す妹を、僕は全力で止めた。
「だってこれじゃ、いつ倒せるか分からないもん。疲れるー」
どうやら飛刃では効いてはいるものの致命傷にはならないため、痺れを切らして突撃しようと考えたらしい。
堪え性がなさ過ぎて驚く。
「うーん、師匠の付与もあるし、聖水かぶったら大丈夫なような?」
「大丈夫じゃない!」
そんなやり取りをしている間にも、再びファフニールは結界を破壊しようと攻撃してきている。
すでにもう一枚、新たな結界を張ってるから問題ないけれど、こちらとしても決め手に欠ける状況だ。
しかもこの邪竜が巻き散らす瘴気は、今も森を侵食し続けている。
セナの無謀な作戦を止めたはいいけれど、このまま長期戦に持ち込みたくはない。
「ねぇ、あんたのゴーレムは使えないのっ?」
「あれは菜園の中でしか動けないんだよ!」
「使えないわね!」
酷い言い様だ。
菜園を護るためのゴーレムなんだし、外まで行けなくても仕方ないじゃないか。
「あの……だったら菜園を広げたらいいような……?」
「それよ!」
「な、なるほど……」
サラッサさんの提案に、僕たちは思わず手を叩いた。
むしろ何で今まで気づかなかったのか……。
僕は菜園を拡大させる。
「ッ!?」
足元が一瞬にして畑と化し、ファフニールが驚く。
さらに菜園の中に入ったことで、向こうからも僕たちの姿が見えるようになったはずだ。
結界は僕たちの周囲だけ限定するように張っているので、瘴気も攻撃も心配ない。
〈ギガガーディアンを作りますか?〉
「五体くらいお願い!」
するとファフニールの巨体を取り囲むように、身の丈十五メートルの巨大ゴーレムが五体、出現する。
「やっちまえ!」
「「「――――」」」
僕の命令に従い、ギガゴーレムたちが一斉にファフニールに殴りかかった。
「アアアアアアアアアアアアッ!?」
よし、効いてるぞ。
四方八方からタコ殴りにされ、ファフニールが痛々しい咆哮を轟かせる。
もちろんファフニールも大人しくやられているはずもなく、瘴気の唾液を浴びせるなどして反撃した。
だが恐ろしい瘴気も、土でできたゴーレムたちには効果が薄いらしく、表面がボロボロと崩れていく程度だ。
〈ギガガーディアンを作りますか?〉
「お願い!」
それにたとえ破壊されても、また作り出せばいいだけである。
「シャアアアッ!」
不利を悟ったのか、邪竜はギガゴーレムたちをタックルで押し倒すと、そのまま逃げようとした。
「させるか!」
「止まれ!」
「ライトニングっ!」
すかさず新たなゴーレムを作り出し、逃走を阻止。
シーファさんの【女帝の威光】とサラッサさんの雷撃がそれをサポートしてくれた。
「でも、思っていた以上にタフだな……」
ギガゴーレムの攻撃を何度も喰らっているというのに、まだ元気よく暴れているのだ。
それどころか、ますます全身を纏う瘴気が濃くなってきている気がする。
「あの瘴気で身を護っているのかも」
「それどころか、自らの瘴気でダメージを回復していくと聞いたことがあります……」
「ちょっ、それじゃ、いつまで経っても倒せなくない!?」
まさか自己回復能力まであるなんて……。
これが危険度Sの魔物か……と戦慄していたら、セナが言った。
「んー、だったら聖水を直接かけちゃえばー?」
「それだ!」
「ほえ?」
我が妹にしてはなかなか良いアイデアかもしれない。
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