第95話 獣人がやってきた
「オレたちの」
「家じゃと……?」
二人は耳を疑ったように聞き返してくる。
「もちろんそれぞれ別の小屋を用意してます」
「そ、そういう問題じゃねぇだろっ」
「このわらわに、こんな犬小屋のような場所に住めと言うのか……?」
わなわなと唇を震わせ、激怒する二人。
いや、勝手に人の家で居候していた身でよく怒れるよね……?
その理不尽さにこっちが怒りたくなりつつ、僕は二人を納得させられそうな材料を提示する。
「小屋のすぐ近くでお酒やトマトを栽培するんで、それは好きなだけ飲んだり食べたりしてもらって構いません」
「酒があるならまぁいいか」
「うむ、トマトを食えるなら別にええかの」
納得するの早っ!?
「ただ、できるだけこいつとは場所を離してくれ」
「わらわとて、こやつの近くに住むのは御免なのじゃ」
「今まで同じ家の同じリビングで仲良くぐうたらしてましたよね……?」
まぁこの小屋、作るのも解体するのも一瞬なので別にいいけど。
というわけで、菜園の四つ角のうち、北東の角にミランダさんの小屋を、南東の角にブラーディアさんの小屋を配置することにした。
そして約束通り、ミランダさんの小屋の周辺では大量の酒を、ブラーディアさんの小屋の周辺では大量のトマトを栽培しておく。
ちなみに菜園の西側が魔境に近い場所なので、念のためその反対側にしておいたのだ。
二人なら魔境の魔物くらい簡単に倒せそうだけど。
「よし、これで居候を片づけることができたぞ」
随分と気持ちがすっきりした。
すっきりついでに、僕は菜園の西側へ。
ゴーレムたちが頑張ってくれたらしく、魔物の死体が大量に転がっていた。
死体と一緒に魔石を吸収し、綺麗にお掃除。
レベルは51に上がった。
むしろこれだけ吸収しても二つしか上がらないのか……。
魔境の魔物は強く、一つ一つの魔石も大きい。
だけどそれ以上に菜園のレベルが上がりにくくなっているのだ。
それでも作業としてはお香を焚くくらいのことで、後はゴーレムに任せておくだけである。
ゆっくり上げていくとしよう。
その後もゴーレムが倒してくれた魔物の魔石を吸収し続けて、気づけばレベル55に到達していた。
〈レベルが上がりました〉
〈小屋生成から派生し、家屋生成を習得しました〉
〈スキル:自動栽培を習得しました〉
〈新たな作物の栽培が可能になりました〉
「家屋生成?」
試しに作ってみると、二階建ての立派な家が出現してしまった。
「……うちと遜色ない大きさなんだけど」
小屋と違い、中には複数の部屋があり、キッチンにトイレ、それから風呂もちゃんと完備されていた。
しかも基本的な家具類があらかじめ備え付けられている。
「家庭菜園なのに、家を作り出せるとかどういうこと……?」
そもそも家庭菜園というのは、まず家屋があってそれに付随する形で作られるもののはずだ。
これでは完全に逆転してしまっている。
ともかく、これで幾らでも家を生み出せるようになったわけだけど、
「……あの二人は小屋のままでいいよね」
こんな立派な家を与えるなんて、すごく癪なので。
「自動栽培はかなり便利そうだなー」
確かめてみたら、どうやらあらかじめ設定しておけば、作物が十分に育ったときに、自動で収穫してくれるというありがたいものだった。
しかも設定次第では保存まで勝手にやってくれる。
さらには収穫が終わると、また同じ作物の栽培を始めてくれるという、繰り返しの機能まであった。
これは非常にありがたい。
……ますます僕のやることがなくなっちゃうけど。
とりあえず毎日必ず収穫しないといけない作物に、これを設定しておこう。
もちろんお酒やトマトもだね。
これなら「酒が切れたぜ!」とか「トマトがないのじゃ」とか、いちいち言われなくても済むことだろう。
レベルが56に上がったところで、一気にペースダウンしてしまった。
「侵入してくる魔物が減ってきちゃったからな……」
魔境とはいえ、無限に魔物がいるわけではないのだろう。
さすがに狩り尽くしちゃったなんてことはないはずだけど。
やがて大量に買い置きしておいたはずの魔物寄せのお香も在庫が切れてしまったので、いったんレベル上げをストップすることに。
またしばらく経ってからやってみることにしよう。
そうして開けておいた結界の一部を閉じようとした、そのときだった。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
息を荒らげながら菜園の中に入ってきたのは、すごく顔立ちの整った青年だった。
何でこんなところに人が……っ!?
だけど顔色が悪く、服もボロボロ。
今にも倒れそうな足取りで、ふらふらとこちらへ歩いてくる。
「――」
「待って!」
ゴーレムたちが動き出そうとしたけれど、慌ててそれを止める。
相手が敵か味方かの判断ができず、侵入者は等しく排除するように命令してあるからだ。
どさり。
限界が来たのか、彼は地面に倒れ込んだ。
「だ、大丈夫ですかっ?」
僕は慌てて傍へと駆け寄る。
そこであることに気づいた。
「獣耳……?」
耳が人間のそれではなかったのだ。
って、今はそんなことよりも。
「今すぐ治しますからっ」
見える範囲に大きな怪我はなさそうだけれど、この様子だと恐らく酷い負傷をしているのだろう。
僕は万一に備え、いつもマーリンさんが作ってくれた効果の高いポーションを持ち歩いている。
これを飲ませれば――
ぐううううう~~。
突然、青年のお腹の辺りからそんな音が響いた。
「お、お腹が……空いた……」
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