第72話 瞬間撤退
ピシャァァァァァンッ!
二度目の雷撃がレッドドラゴンに直撃する。
「グアアッ!?」
これはさすがに効いたらしく、レッドドラゴンが苦痛の叫びをあげた。
「やった! 効いてる!」
「……ダメです……大したダメージにはなってません……」
喜ぶ僕とは裏腹に、サラッサさんは冷静な分析を口にする。
す、すいません……ぬか喜びしちゃって……恥ずかしい……。
それでもレッドドラゴンはサラッサさんの雷撃を嫌がったのか、翼をはためかせて高度を上げた。
「あれじゃ届かないよー」
「わ、私の雷撃も、この距離では命中率が……」
これでは攻撃ができない。
でも、向こうもこっちを攻撃できないんじゃ……と思った僕が馬鹿だった。
「っ! ブレスが来るわ!」
「ブレス?」
「レッドドラゴンは超高熱の炎の息を吐き出すのよ!」
「ええっ!?」
見ると、レッドドラゴンの首の根元が大きく膨らんでいた。
次の瞬間、目いっぱい開いたその口から、凄まじい火炎が放出され、僕たちの頭上へと豪雨のごとく振ってきた。
「うわあああああああっ!?」
「ジオ!」
「っ!?」
恐怖で悲鳴を上げる僕に、なぜかシーファさんが抱き着いてきた。
柔らかい!
顔が近い!
いい匂い!
「転移して!」
あ、そうか!
一瞬遅れてアニィとセナ、サラッサさんも僕に飛びついてくる。
僕以外にまで転移を適用するには、「一緒に連れていく」と意識する必要があるのだけれど、こうして身体が密着しているとより確実だということが今までの経験で分かっていた。
だからみんなこうして僕に抱き着いてきたのであって、決して僕がモテモテなわけじゃない。
でも何人もの女の子に抱き着かれるなんて、人生でそうそうない体験だ。
一人は妹だけど……。
って、そんなこと考えている場合じゃない!
今も空からは僕たちを容赦なく焼き尽くさんと、炎が落ちてきている。
〈菜園間を転移しますか?〉
「お願いします!」
そう叫んだ直後にはもう、僕たちは第一家庭菜園へと飛んでいた。
猛烈な炎の代わりに、雲一つない青空が広がっている。
「助かったぁ……」
緊張が解けて、思わずその場でへなへなと座り込んでしまう。
「危なかったねー」
「ジオのお陰で助かった」
「まぁ、ジオとサラッサ以外ならギリギリ避けられたでしょうけど」
「す、少し……チビってしまいました……」
僕が戻ってきたのが分かったようで、いつものようにミルクとピッピが駆け寄ってくる。
「にゃ!」
「ぴぃ!」
「ただいま」
二匹の柔らかい体毛に埋もれて、気持ちを落ち着かせる。
あー、やっぱり癒されるなぁ。
「それで、どうしたらいいと思う? あれだと、そもそもまともに戦えないわよ」
アニィが神妙な面持ちで言った。
「だよねー。よし、諦めちゃおう!」
「却下」
セナの意見はアニィに一蹴された。
「私たちだけでは、討伐は難しいです……。応援を……呼ぶしか……」
「恐らく時間がない。あの様子だと、近いうちに村の家畜を食べ尽くす。そうしたら次に狙われるのは、村人たち」
僕もサラッサさんの言う通り応援を呼ぶしかないと思ったけど、シーファさんの主張を聞いて頭を抱えた。
今から応援を頼んでも、かなり時間がかかるだろう。
なにせまずレッドドラゴンと戦えるような冒険者に依頼を引き受けてもらった上で、なおかつ村まで移動しなければいけないのだ。
まぁ、僕の菜園間転移を使えば、かなり短縮できるだろうけど……。
「あ、でも。村人たちを避難させたらどうですかね? そうすれば、ひとまず人的被害は避けられそうですし……あとは時間をかけて討伐すれば……」
「あんたにしてはまともな意見ね。ただ問題は……大人しく逃がしてくれるか、ということね。最悪なのは避難中に襲われることよ」
「そうか……」
村人の多くは戦えない人たちだ。
彼らを護衛しながらレッドドラゴンとの戦闘になったら、守り切れないだろう。
「じゃあ、それこそ僕のギフトで……」
「最悪の場合、それしかないわね。でも、それは最終手段として……一応、どうにか私たちだけで倒せないか考えてみましょう」
どうやらアニィはまだ挑む意思を捨ててはないみたいだ。
「あの飛行能力と炎さえどうにかできれば、決して倒せない相手ではないと思うのよ。サラッサの雷撃だって、効いてないことはなかったし。もっと威力を上げられるでしょ?」
「は、はい……時間をかけて、魔力を練ることができれば……」
え、あれよりまだ強くできるんだ……。
「じゃあ、奇襲を仕かけるとかどうかな……? あらかじめ魔力を練っておいてもらって、向こうに転移して、空に逃げる前にぶっ放す、とか」
ふと思いついて僕は口にしてみる。
って、そんなに上手くはいかないか……。
「それよ!」
「それは……いけるかもしれません……少なくとも、やってみる価値はあるかと」
「ジオ、ナイスアイデア」
おおっ、なんか思ってたより好反応だ。
お陰で自分でもいいアイデアだったかもしれないと思えてきた。
万一失敗しても、また転移で逃げてくればいいのだ。
「でも、まだ菜園の近くにレッドドラゴンがいるかな……? もし移動してたら……」
「事前に近づけておけないの?」
「うーん」
遠隔で菜園を動かすことは可能だ。
だけど、あのレッドドラゴンの位置が分からないと意味がない。
結局は一度向こうに飛んで、自分の目で事前に確認しておくしかないってことだ。
「となると、わたしとあんたの二人で行くのがよさそうね」
「僕とアニィで?」
「大勢だと気配を察知されやすいから、少数がいいのよ。で、あんたは必須でしょ。あとは、気配を消すのが上手くて、魔物の位置を探知できる人間……となると、わたししかいないでしょうが」
「確かに……」
アニィの意見に反論は出なかった。
こうして僕とアニィのたった二人で、再びレッドドラゴンのところに行くことになったのだった。
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