第71話 頂上にやばいのがいた

 サラッサさんの魔法で、ワイバーンは完全に絶命したようだ。


 こんなに簡単に倒してしまうなんて……。


 Bランク冒険者のサラッサさんが凄いのは当然だ。

 だけど、うちのぐうたら娘が、まさかこんなに強かったなんて。


「セナ……」

「お兄ちゃん?」

「お前、あんなに強かったんだなっ! すごいじゃないか!」

「ふふーん、そうでしょそうでしょー。よーやく分かったかー」


 僕が褒めると、セナは分かりやすく鼻を高くした。


「セナは凄い。すでにパーティの主力。実力はすでにBランク相当か、それ以上。【剣神の寵愛】は伊達じゃない」


 シーファさんがそう断言する。


「そーそー、あたしはもー、十分過ぎるくらいに強いんだよー。それってつまり、あんまし頑張らなくても大丈夫ってことだよねー」

「何を言ってるんだ!」

「ほえ?」

「せっかく才能があるんだ! それを発揮するべきじゃないか!」

「ええ……」

「頑張れば夢のSランクにだってなれるかもしれない! そうと分かったら、のんびりなんてしていられないな! これから今まで以上に依頼を受けて、どんどん経験を積んでいくんだ!」

「うえー、お兄ちゃんウザ~い!」

「あっ、おい!」


 冒険者を目指していた頃の熱を思い出し、つい力強く主張していたら、セナがいきなり逃げ出した。


「僕も全力でサポートするから!」

「そんなお余計なことしなくていーの! お兄ちゃんはただ、あたしを甘やかしてくれてればいいから!」

「これからはむしろ厳しくする!」

「いーやーだーっ!」


 追いかけっこしながら言い合う僕たちを見ながら、アニィが呆れたように言う。


「……相変わらず楽しそうな兄妹ね、あんたたちって」

「少し羨ましい」

「……私は……ムキムキな兄が欲しかったです……」


 僕は必死にセナを追いかけたけれど、体力で冒険者に及ぶはずもなく。


「ぜぇ、ぜぇ……」

「逃げ切ったからあたしの勝ちー。ってわけで、これまで以上に甘やかしてね!」

「そんな……勝負は……してない……ぜぇぜぇ……」


 まぁこの妹が僕の言うことを素直に聞くわけないよね……。


 僕とセナでギフトが逆だったらよかったのに。

 冒険者を目指していた僕なら、きっと【剣神の寵愛】の力を最大に活かすことができただろう。


【家庭菜園】はむしろセナにピッタリだ。

 働かなくても、好きなだけ食べ物を作ることができて、お金だって稼げるわけだし。


 ……うーん、そう考えると、もしかして神様が間違えちゃったのかな?


 その後、ワイバーンから魔石を回収すると、僕たちは念のため山の頂上まで行くことになった。

 アニィによれば、まだ嫌な気配を感じるのだという。


「もしかしてワイバーンがもう一体いるとか?」

「その可能性はあるわね。それなら村の被害規模も説明できるかもしれない」


 セナと追いかけっこなんかしてる場合じゃなかった……。

 でも同じワイバーンならさっきみたいに簡単に討伐できるだろう。


 やがて僕たちは頂上に辿り着く。


「うわっ、骨っ?」

「たぶん動物の骨。村の家畜だと思う」

「それにしても多いわね……」


 そこには大量の骨が転がっていた。

 確かにあのワイバーン一体にしては、量が多過ぎる気がする。


 と、そのとき。

 突然、アニィが険しい顔をして空を見上げた。


「っ……来るわっ! 恐らくワイバーン以上の強敵よ!」


 山の反対側から、翼を広げた巨大な生き物が飛び出してきた。

 その大きさは、ワイバーンの倍、いや、それ以上だ。


 あれでどうやって空を飛んでいるのかという疑問が湧いてくるけれど、ドラゴンはワイバーンと違って、魔法によって浮力を得ていると聞いたことがある。


 そう、現れたのは紛れもなくドラゴンだった。


 ワイバーンと違い、前脚と後脚を有し、翼は背中に。

 全身を覆うのは真っ赤な鱗。


「レッドドラゴン……っ!」

「ちょっ、大物すぎでしょ……っ!?」

「ほえ? 強いのー?」

「強いわよ! 下手したらアトラスに匹敵するかも……っ!」

「アトラスに!?」


 あ、でも、それなら僕のゴーレムで……と思ったけど、空を飛んでる相手とどうやって戦うんだ?

 うん、無理だ。


「んー、さっきみたいにサラちゃんの雷で落としたら?」

「……上手くいく気はしないですけど……一応、やってみます」


 先ほどのワイバーンとは違い、レッドドラゴンはこちらを睥睨しながら空中で停止している。

 すぐに襲いかかってこないのは、こちらの出を伺っているからか、それども僕たちなんて怖れる必要のない相手だと見ているからか。


「ライトニング!」


 ピシャァァァァァンッ!


 サラッサさんが放った雷撃が、レッドドラゴンに直撃した。


「……っ!」

「やっぱり……効いてない、ですね……」


 ワイバーンを撃墜させた一撃だというのに、レッドドラゴンの鱗の一部が微かに焦げ付いているだけだ。

 それでも攻撃を受けたことに怒りを覚えたのだろう、口を大きく開けて、


「オアアアアアアアアアアアアッ!!」

「「「~~っ!?」」」


 凄まじい咆哮を轟かせた。


 たったそれだけで僕はその場に尻餅を突いてしまう。

 あれがドラゴン……勝てるわけがない。


 冒険者であるアニィやサラッサさんでさえ、今ので怯んでしまったのか、顔色が悪い。


 セナは平然としているけど。

 こいつは昔から鈍いからな……いや、そういう問題じゃないか。


「怯む必要はない。今の私たちなら倒せない相手じゃない」


 恐怖に囚われた僕たちを一瞬にして奮い立たせてくれたのは、シーファさんの言葉だ。


【女帝の威光】

 これがシーファさんの持つギフトの力……。


 しかも単に精神を高揚させてくれるだけじゃなく、身体能力やスキル、さらには魔法の威力すらも高めてくれるらしい。

 僕には何の意味もないけど、冒険者のみんなにとっては大きな違いだ。


「もう一発、行きます……っ! ライトニング!」


 その効果か、先ほどよりも強力な雷撃がレッドドラゴンに襲いかかった。

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