第67話 長旅は家庭菜園で 5
「ひひ~~~~んっ!」
意気揚々と走る馬。
それに合わせて、僕も家庭菜園のペースを上げていた。
「何だあの馬車……?」
「一頭立てなのに速すぎないか……?」
「すげぇ馬だな」
「まるで何も引いてないみたいだ……」
途中ですれ違った人たちから、そんな驚きの声が聞こえてくる。
「ひひん!」
「いや、本当に何も引いてないからね?」
自慢げに鼻を鳴らしているところを見るに、この馬、もしかしてそのことに気づいていないのかもしれない。
「ふぁああ……これなら予定よりずっと早く着いちゃいそうだねー」
セナは暢気に寝転がって、欠伸を噛み殺しながら馬車の外を眺めている。
普通この速度で走っていたら寝てなんていられないだろうけど、僕の家庭菜園はこれでもほとんど揺れない。
「足の遅い魔物が諦めて去っていきますね……」
「お陰で体力も温存できるわね」
「シーファさん、喉乾いたら言ってください。水を収穫しますんで」
「助かる」
やがて前方にちょっとした大きさの町が見えてきた。
「ジオ、着いた」
「え? もう着いたんですか?」
「うん。あそこがザリ。今日の目的地」
シーファさんが手綱を引いて、馬がゆっくりと速度を落とす。
僕もそれに家庭菜園の速度を合わせた。
「依頼主のモリア村から一番近い冒険者ギルドがザリにある。いったん立ち寄らないといけない」
元々はその冒険者ギルドに持ち込まれた依頼だったそうだ。
だけど小さな町のギルドの手に余るとのことで、僕たちのいるアーセルのギルドにまで応援要請が来たらしい。
さすがにこのまま町に入るわけにはいかないので、家庭菜園を町の近くに待機させ、馬に普通に馬車を引かせていくことに。
「ひひんっ!?」
急に重くなったことに驚き、「どういうこと?」という顔でこちらを振り向く馬。
「ほら、ニンジンやるからもうひと頑張りしてくれ」
「ひひ~~~~ん!」
「って、走らなくていいから!」
ザリの冒険者ギルドへとやってきた。
平屋建てで、マーリンさんのお店と同じくらいの大きさだろうか。
アーセルのギルドと比べると、随分とこじんまりしている。
中に入る。
シーファさんたちと一緒なので、なんだか僕まで冒険者になったような気分だった。
入ってすぐのところに受付カウンター。
そして奥の小さなスペースに数人の冒険者らしき人たちがいて、依頼の張り出された掲示板を眺めていた。
依頼者や冒険者が立ち入れる範囲は、それだけのようだ。
「小さなところねぇ」
「むしろアーセルの冒険者ギルドが、街の規模を考慮しても大きい。ダンジョンがあるから」
「……いい筋肉には出会えそうにないですね……」
アーセルの受付窓口は八か所あるけれど、ここは一つしかない。
受付嬢は美人ではあるけれど、ちょっと若作りした感じの女の人だった。
たぶん三十歳くらいだろう。
「冒険者? ここじゃ見ない顔ね」
「アーセルから応援に来た」
「あら。じゃあ、あなたたちが? 思ってたより早かったわね」
受付のお姉さんは値踏みするような目で僕たちを見てくる。
「だけど若い女の子ばかりじゃない。Bランク以上ってお願いしていたはずだけど」
「Bランク冒険者のシーファ」
相手の嫌味などまったく気にした風もなく、シーファさんはギルド証を提示した。
「Bランク? その歳で? まぁ、ちゃんと依頼を達成してくれるなら構わないけど」
うーん、わざわざここまで来てくれた冒険者にこの態度はいただけない気がするなぁ。
心の広いシーファさんや、そもそも話を聞いてないセナはいいけど、アニィは明らかに苛立っている。
ガシッ!
って、何で僕の足を踏むの!?
腹が立ったからって他人に当たらないでもらいたい。
ともかく必要な手続きを終えて、僕たちはギルドを後にした――
「ねぇ、君たちどこから来たの?」
「この町は初めて? よかったら案内するよ」
――のだけど、その直後に声をかけられた。
二十最前後の、いかにもチャラそうな青年たちだ。
武装しているところを見るに、どうやらこれでも冒険者らしい。
「色々と教えてあげるからさ」
「間に合ってる」
シーファさんがきっぱりと断るも、彼らはなかなか引き下がろうとしない。
「君たち新人だろう? 先達のアドバイスは聞いといた方がいいよ」
「そうそう。ギルドの情報なんて最低限だし、やっぱ現場を知ってる人間から教えてもらうのが一番だって」
どうもこちらを駆け出しだと思っているようだ。
そう考えると意外と親切心からなのでは……?
いやいや、間違いなく下心も混ざっているよね。
さっきから機嫌が悪いアニィがぶっきら棒に聞いた。
「ちなみに、その先達の皆さんの冒険者ランクは?」
「え? 俺ら? 俺らはみんなDランクだけど」
えっと、確か冒険者ランクって、駆け出しがFで、実績に応じてE、D、C、B、Aという感じで上がっていくんだったよね……?
なんかちょっと自慢げに聞こえたけど、たぶん気のせいだろう。
「ふうん?」
アニィは小馬鹿にしたように鼻を鳴らすと、皮肉っぽく言い放った。
「こっちはBランクが二人いるんだけど……たぶん格下から教わることなんてないと思うわ?」
そういうアニィはまだCランクなんだけどね。
「なっ、Bランク……?」
「じょ、冗談だろう……?」
彼らが怯んでくれたその隙に、僕たちはその場からさっさと立ち去ったのだった。
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