第68話 消えたゴーレム
ここまで来れば、目的の村まであと少しだ。
思っていたより早くザリに着いたので、頑張れば今日中に辿り着けるかもしれない。
「えー、今日はもう帰ろうよー」
……うん、そう言うと思った。
まぁ今から出ると遅い時間にはなっちゃうだろうし、今日のところはセナの言う通りいったん家に戻るとしよう。
そうして僕たちは、町の外に置いてきた家庭菜園のところへ。
小さな丘の反対側に隠しておいたのだ。
「アニィ、周りに誰もいないよね?」
「大丈夫。だけど急いで」
「? じゃあ、転移するよ」
一瞬で景色が変わり、アーセルにある自宅の家庭菜園に。
そしてシーファさんたちが帰っていくのを見送ってから、僕はハッとする。
「あ。……そう言えば、魔物が寄ってこないように対策しておくつもりだったんだ」
今になって思い出した。
もう一回転移して……と思ったけれど、僕一人だと危険かもしれない。
「セナ、悪いけど……って、もういない」
「にゃ!」
「ぴぃ!」
「そうか。お前たちがいてくれたら……いや、待てよ。もしかしたら遠隔でできるかも?」
〈メガガーディアンを作りますか?〉
はい。
僕はザリの近くに置いてきた移動用家庭菜園を頭に思い浮かべながら頷いた。
〈メガガーディアンを作りました〉
「お、いけたっぽい?」
もし作れなかったなら、ちゃんとそう教えてくれるだろう。
どうやら上手くいったみたいだ。
「そうだ。ついでに菜園隠蔽も使っておくか」
あんなところにゴーレムがいたら驚かれるだろうし。
まぁさすがに壁で囲ったりする必要まではないかな?
◇ ◇ ◇
オリックはザリを拠点とする二十歳の冒険者だった。
ここよりさらに田舎の村から出てきたこともあって、彼にとってザリの町は都会と言っても過言ではなかった。
彼とパーティを組む同年代の若者たちも似たようなものだ。
彼らからすれば、冒険者ギルドと言えば、平屋建てで、ちょっと古くて、受付の窓口は一つ。
それが当たり前だと思っている。
そして汗臭い男ばかりの冒険者の中にあって、多少年齢は食っているとはしても、たった一人しかいない美人受付嬢はまさに憧れの高嶺の花という存在だ。
当然オリックもいかに仲間を出し抜いてお近づきになろうかと、密かに計画を練っていた。
そんな彼らの前に、若くて可愛い女の子ばかりのパーティが現れたのである。
あわよくばお近づきにと、声をかけないはずがない。
……約一名、影の薄い冴えない感じの男がいたが、オリックはもちろん、仲間たちも気にしなかった。
幸い自分たちはギルドの有望株だ。
多くの冒険者たちが何年もかけて昇格する中、彼らは二十歳そこらですでにDランクにまで到達している。
今やここザリの町でも、有数の上位ランカーである。
きっと彼らが親切にすれば、喜んで付いてくることだろう。
だが、
「こっちはBランクが二人いるんだけど……たぶん格下から教わることなんてないと思うわ?」
結果は無情なものだった。
「なっ、Bランク……?」
「じょ、冗談だろう……?」
この町にいる冒険者は、大ベテランの人たちでもCランクが最高だ。
Bランクなんて本当に存在してるの? と思っていたようなレベルである。
それがまさか、彼らより年下の、しかも女の子ばかりのパーティに二人もいるとは思ってもみなかった。
「い、いや、断るために嘘を吐いたんじゃねぇか?」
「そ、それだ! そうに違いない。だって、あんな子たちがBランクなんてあるわけないって」
現実を受け入れられなかった彼らはそうと決めつけ、真実を確かめるべく彼女たちを追いかけた。
しかしすでに少女たちは町を出ていくところだった。
もしかしてこれから冒険に行くのかもしれない。
「さすがに町の外で声をかけるのはマズくないか?」
「警戒されるって。町に戻ってきたときにしようぜ」
「そんなこと言って、戻ってこなかったらどうするんだよ」
「じゃ、じゃあ、お前が一人で声をかけてくれ」
「何でそうなるんだよ。みんなで行けばいいじゃねぇか」
そんなことを言い合っているうちに、少女たちは町の近くにある丘を登っていく。
なぜか木や岩の陰などに身を隠しつつ、オリックたちはそれを追った。
躊躇っている間に、少女たちは丘の向こうへと消えてしまう。
遅れて丘の頂上へと辿り着いた彼らは、そこで不思議な光景を目撃することとなった。
「き、消えた……?」
少女たちの姿がどこにもなかったのだ。
丘からは周辺が見渡せるが、彼女たちが隠れられそうな場所はない。
「どういうことだ……?」
「どこに行ったんだよ?」
彼らはしばし周囲を捜索したが、やはり少女たちの姿はない。
だが代わりに奇妙なものを発見した。
「何だ、ここは……?」
明らかに周囲とは性質の異なる土を見つけたのだ。
しかもそこだけ、まるで切り取ったかのような綺麗な長方形である。
「畑?」
「どう見ても畑だよな……。何でこんなところに畑が?」
「てかこれ、めちゃくちゃいい土だぞ?」
彼らの多くは農家の生まれだ。
土を見れば、それがどれだけ作物の栽培に適しているのか、判別することができた。
「お、おい、何だっ?」
そのときだった。
突然、謎の畑の土が蠢き始め、彼らは身構える。
「――――」
やがてそこに現れたのは、身の丈五メートルもの巨大なゴーレムだった。
「な、な、なっ」
「に、逃げろぉぉぉっ!」
こんな大きなゴーレムなど初めてだ。
勝てる相手ではないと瞬時に理解し、彼らは一目散に逃げだした。
気づけば丘の頂上を超え、麓まで駆け下りていた。
そこでようやく気がつく。
「お、おい、追ってきてないぞ……?」
「……本当だ」
ひとまず安堵し、彼らは恐る恐る丘の頂上へと戻る。
恐る恐る顔を出し、向こう側を覗いた彼らは、そこで再び信じられない光景を目にするのだった。
「ゴーレムが……いない?」
この後、消えたゴーレムの噂はしばらくザリの冒険者界隈を賑わせることとなる。
すべてがとある少年のギフトによるものだったことなど、彼らは知る由もない。
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