第30話 真夜中の襲撃

 真夜中。

 ジオとセナの兄妹が暮らしている家の前に、複数の人影があった。


「ここか」

「はい。今日は冒険者をやっている妹が不在。絶好の機会です」

「よし、相手は素人一人だ。とっとと拉致ってこい」

「「はっ!」」


 命令を受け、二人の男たちが家への侵入を開始する。

 もちろん家のドアには鍵がかかっていたが、手慣れた様子で抉じ開けてしまった。



    ◇ ◇ ◇



「ガウ!」

「痛っ!?」


 いきなり腕に痛みを感じて僕は飛び起きた。

 見ると、ミルクが僕の腕に噛みついていた。


「な、何を……?」

「グルルル」


 可愛いペットの突然の反逆に狼狽える僕だけれど、ミルクはすぐに腕を離すと、ドアの方に顔を向けて何かに警戒するように喉を鳴らし始めた。


「ミルク? どうしたの?」


 と、そのときだ。

 暗闇の中でゆっくりとドアが開いた。


 セナ?

 いや違う。

 妹は泊まり込みで冒険に出ていて、家にいないはず。


 じゃあ一体、誰が?


 二つの影が室内に躍り込んできた。

 暗くてよく見えないけれど、どう考えても友好的な相手じゃない。


「グルルルァッ!」


 次の瞬間、ミルクがその影へと躍りかかった。


「っ!? 何だ――――がぁっ!?」


 ミルクに足を噛みつかれ、人影が悲鳴を上げる。


「何だこいつ!? 猫か!? ちっ、離れろ!」


 その人影は足を噛まれながらも何かを抜いた。

 ナイフだ。


 それをミルクへと振り下ろしたので、僕は心臓が縮みそうになった。


 だけどミルクは素早く離れてナイフを回避。

 それどころか壁を蹴って飛び上がると、人影の頭に飛びついた。


「ぎゃあっ!?」


 顔を爪で引っかかれ、人影が悲鳴を上げる。

 どうにか頭を振ってミルクを振り落としたけれど、そのときには顔から血が滴り落ちていた。


「おい、大丈夫か!? くそっ、何だこいつは!? ただの猫じゃねぇぞ!」


 別の人影が叫ぶ。

 ミルクは間髪入れず、次の攻撃に移っていた。


 再び壁を蹴って高く飛び上がり、今度は敵の喉首を狙って牙を剥く。

 人影はどうにか腕でガードしたが、代わりにミルクは鋭い牙をその腕に突き立てた。


「~~~~っ!」


 かなり深く刺さったのだろう、痛みのあまり声が出なかったようだ。


「くそっ! いったん退くぞ!」

「聞いてねぇよ、こんなの!」


 侵入者たちは敵わないと判断したのか、慌てて逃げていく。


「な、何だったんだ……?」

「グルル」

「っ、ミルク、大丈夫? 怪我はない?」

「ニィー」


 よかった。

 どこも怪我はしていないようだ。


「さっきは僕を起こしてくれたんだな。ありがとう」

「ニィ」


 それにしてもあいつらは一体、何だったんだ?

 物取りか何かだろうか?


「ニィニィ!」

「どうした?」


 ミルクが今度は僕の足を甘噛みし、引っ張ってくる。


「え? まだ危険だって?」

「ニィ!」

「菜園の方に逃げ込んだ方がいい?」

「ニィニィ!」


 ミルクの判断に従い、僕は寝室を出て菜園へ。

 するとその途中、玄関から複数の足音が聞こえてきた。


 どうやら第二の襲撃があるようだ。

 しかも足音の数からして、さっきより人数が多い。


 どうにか菜園に逃げ込んだとき、怒声が響いた。


「こっちだ! 庭に逃げたぞ!」

「絶対に逃がすなよ!」


 その迫力ある叫び声に、僕の身体は硬直する。

 どう考えてもただの物取りじゃない。


 もし捕まったら……。


「ニィニィ!」

「う、うん、そうだね。ここなら大丈夫だ」


 ついに菜園に男たちが乗り込んできた。

 月明りで、ある程度は人相が確認できる。

 武器を手にし、明らかに堅気ではない連中だ。


 だけどこっちには強い味方がいる。


 そのとき、侵入者たちを挟撃する複数の影があった。


「がっ?」

「な、何だこいつらは!?」

「人形!? いや、ゴーレムか!?」


 そう、この菜園を守護するゴーレムたちだ。

 予期せぬ攻撃を受け、狼狽える襲撃者たち。


 それでも彼らはこうした荒事に慣れているのだろう、徐々に落ち着きを取り戻し、ゴーレムを迎撃する。

 高性能のゴーレムたちも、さすがに武装した集団には敵わなかった。

 攻撃を浴び、どんどん身体が崩れていく。


「はっ、驚かせやがって」

「何でこんなところにゴーレムがいやがったんだ?」

「知るか。そんなことよりとっとと奴を捕まえろ」


 ゴーレムを全滅させた彼らは、僕を捕えようと菜園の奥へと進んでくる。


 だけど次の瞬間、彼らの前に新たなゴーレムたちが立ちはだかった。


「なっ……」

「また出てきやがったぞ!?」

「何体いるんだ!?」


 実は何体でも作り出すことが可能だったりする。

 菜園の土を利用するため、同時に作れる数に限りはあるけれど、回数に限界はなかった。


 倒しても倒しても次から次へと現れるゴーレムに、侵入者たちは徐々に劣勢となっていく。

 さらにそこへミルクが乱入したことで、一気に崩れた。


「て、撤退だ!」


 誰かが叫び、侵入者たちが再び逃げようとしたときだった。


「てめぇら、ガキ一人捕まえるのにいつまで手間取ってやがる!」


 夜の闇を引き裂くような激しい怒鳴り声とともに菜園に乗り込んできたのは、先日、シーファさんの工房で見たあのスキンヘッドだった。


「あ、兄貴っ……」

「それがっ、なぜかゴーレムがっ」

「ああ? 何を言って――」


 スキンヘッドが言いかけたそのとき、ゴーレムが躍りかかった。


 ザンッ!


 しかし気づけば身体を両断され、ゴーレムは一瞬で土へと還ってしまう。

 一体いつ抜いたのか、スキンヘッドは剣を手にしていた。


「こんな雑魚相手に邪魔されてんじゃねぇぞ、コラ」

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