第27話 鍛冶工房を守れ 3
「うちの借金は金貨500枚。これで足りるな?」
「何だと……?」
スキンヘッドが信じられないというふうに顔を歪める。
「バカな……? どうやってその金を集めた!?」
「たった今、商談が成立したんだ」
「っ……」
スキンヘッドは明らかに不満そうだ。
金を返してもらえたのだから、それで十分なはずなのに、何が不満なのだろうか。
「おっと……忘れていたぜ。利子の計算をな」
「なんだと?」
スキンヘッドは調子を取り戻したのか、ニヤニヤと笑う。
「当然だろう。何度も何度も延期させてやったんだ。その分の利子がつくってのは、金貸しの基本だぜ」
そして彼は新たな金額を提示した。
「金貨1500枚だ」
「なっ……三倍だと!? ふざけるな! 一体どう計算したらそうなる!」
「悪い悪い。だがこれが正しい借金の金額だ」
「くっ……」
金貨1500枚となると、先ほどの前払い金でもさすがに足りない。
それを分かっているのだろう、スキンヘッドはイヤらしい笑みを浮かべながら、
「しかし、金貨1500まいじゃあ、こんなボロ工房は釣り合わねぇなァ」
スキンヘッドはちらりとシーファさんを横目で見た。
「そうだ。代わりにそこの娘にしよう。それなら金貨1500枚と釣り合うだろう」
「っ……ふざ――」
「ふざけるなッ!」
「「「え?」」」
あっ、しまった!
つい激高して、親父さんの前に横から叫んでしまった……っ!
僕は顔を真っ赤にしながら慌てて口を押えるけれど、もはや後の祭りだ。
「……む、娘は死んでもやれん!」
「それだと困るんだよなァ?」
不意にスキンヘッドの纏う空気が変わった。
元よりこんな相手に話し合いなど通じるはずもないし、相手も端からそれで済ませようなどとは思っていなかったのだろう。
突然、大勢の足音が聞こえてきたかと思うと、厳つい集団が工房内に雪崩れ込んできた。
「っ……貴様……」
「オレもあんまり手荒な真似はしたくねぇんだよなァ、嬢ちゃん? 家族や職人たちが怪我をするのは見たくないだろう?」
スキンヘッドは憤る親父さんを無視し、シーファさんへ言葉を投げかける。
「別に一生オレたちのモノになれってわけじゃねぇ。あくまで借金を返済するまでの人質みたいなものだ」
「人質?」
「ああ。無事に返済が終われば、ちゃんと解放してやる。そう悪い話ではないだろう? 嬢ちゃんほどの才能があれば、いずれもっと稼げるようになる。金貨1500枚くらいは簡単だろう」
シーファさんは思案するように眉根を寄せているけれど、こいつの言うことなんてどう考えても信用できない。
さっきだっていきなり借金の金額を吊り上げてきたんだ。
また同じようなことをして、きっとシーファさんを逃がさないだろう。
そもそも最初からシーファさんを狙っていた可能性もある。
そのために親父さんの工房に借金を背負わし、さらには罠にかけたのだ。
「……」
だけどシーファさんは迷っているようだった。
下手をすると、親父さんや従業員たちが襲われる可能性があるのだ。
幾らシーファさんでも、たった一人で全員を守るのは難しいだろう。
「あ、そうですー」
空気が震えそうな緊張の中、場違いな声を発したのはリルカリリアさんだった。
「言い忘れてましたがー、先ほどの依頼主、実はですねー」
「領主様なんですよー」
「「「は?」」」
何人かの声が重なった。
予想外の言葉に皆が固まる中、リルカリリアさんはいつもの調子で続ける。
「ミスリルの武具の納品先はー、領主様ですー。領主様が保有される騎士団の装備がですねー、随分と古くなってきているようでしてー、それで新調したいとのお話なんですー」
りょ、領主様!?
これには僕も驚いていた。
実は依頼主が誰か、まだ教えてもらっていなかったのだ。
でも考えてみたら、これだけの量の武具が必要で、しかも大金をポンと出せる人間と言えば、領主様ぐらいしかいないだろう。
ていうか、リルカリリアさん、領主様とお知り合いなの?
いや、それ以上に、こんな取引を任せてもらえるくらいの関係性なの……?
実は凄い商人なのかもしれない。
「ちなみにですねー、こちらが今回の取引の契約書ですー」
そう言って、リルカリリアさんは契約書をスキンヘッドに見えるように掲げて見せた。
「……その紋章……確かに、領主のものだ……」
スキンヘッドは呻くように言う。
さすがに領主の名を出されては、この工房に手を出すことなどできないのだろう。
「……金貨500枚で構わねぇ」
そうして当初の金額である金貨500枚分の白金貨を受け取ったスキンヘッドは、配下たちを連れてすごすごと逃げるように立ち去ったのだった。
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